18話 雨と共に
今年はいつもより遅い上に短めですが、明けましておめでとうございます!
それにしても子年ですね、めでたいですね!皆さま今年もよろしくお願いします!
ねずみ色に覆われた空。それを割らんとばかりに白い稲光が駆け巡る。後を追うように雷鳴が轟き、熱気を奪う雨がザーザーと屋根に叩きつけられている。
「雨かー」
空と同じように表情を曇らせたリュウは、窓辺に吊られたてるてる坊主を一瞬睨みつけながら頬杖をついた。てるてる坊主でさえも匙を投げる天気にリュウはイライラを隠せずにいた。
ネズミ達の間にいわゆる雨天決行という概念は存在せず、雨が降ればほとんどのものは中止になり、雨雲が通り過ぎるまでその場にとどまるのが鉄則である。
本来なら習い事に向かっている時間なのにこのままでは延期どころか、家から出ることですら叶わなくなる可能性がある。下手をすると明日の登校でさえ危うい空模様にリュウは苛立ちを必死になって抑え込みながら祈るのであった。
「あらあら、そんなに行きたいのかしらね、針道に」
ウメがクスクスと笑いながらリュウに温かい目をむける。彼女の横には空になったカゴと綺麗に畳まれた布の山があり、もう長い間その場に座っていたことが窺えた。休みがてらリュウを見つめては目を細めて、また作業に戻ってのルーティーンを繰り返す。怖い形相で落ち着きがないリュウとは対照的にウメの表情は優しげでひどく穏やかであった。
「リュウ、ちょっと手伝ってくれるかい?」
少しキリがついたのだろう。積み上げられた白い布の山の一つを指差したウメはリュウの神経を逆なでしないように優しく微笑むとそう頼んだ。
流石に自分の祖母の頼みは断れないのか、今はイライラしていても仕方ないと割り切ったのか、リュウは文句もなしに承諾するとテキパキと自慢の足を使いながら布をタンスまで運んでいった。
「あーあ。早く行きたいな」
丁寧に布をしまいながら窓の外を眺めるリュウ。しかしいつまでも止みそうにない雨にリュウはしょんぼりと肩を落としていた。
◇◇◇
雨は降り続ける。暗い森の中、あちこちがぬかるみ、泥だらけになった誰もが避ける道を年老いたハツカネズミが走っていた。その走りに迷いはなく、年寄りだとは思わせない軽い足取りで器用に水たまりを避けながらまっすぐ目的地に向かっている。
水しぶきがあがればサッと避け、枝が落ちていれば飛び越し、何かの拍子で泥が跳ねあがれば全て見極めて躱していた。
達人級のその動きは舞のように美しく、洗練されていて、見るものの心を奪ってしまう。
遠くで雷が鳴る。その音を皮切りに一瞬で青い光を身体に纏うとネズミは加速していった。ジグザグと動くその様はまるで青い稲妻。
風を切り、影ですら置いていく速さで森を駆け抜けると、やがて開けた場所に辿りついた。晴れていたら眼下に青々しい澄んだ草原の海が広がっていただろうに今はどんよりと暗い布を被せたようだ。
年老いたネズミはその場で急停止すると、耳をピクピクと動かして辺りを探った。やがて方向が定まったのか、一目散に草原を突っ切っていくとそのまま真っ直ぐに進んでいった。
◇◇◇
ツインマウスのはずれ。小高い築山の上に楊枝で造られた新築の建物が建てられていた。クヌギの森学園の体育館とほぼ同じ広さを誇るその建物にはまだ作って間もない表札がドカドカとかかっており、ここが何かの格闘技を鍛える場所なのだと一目でわかるように道場と彫られていた。門を入ってすぐの広い玄関には家系図と歴代の師匠達の名前と写真が飾ってあり、この道場もまた由緒正しく受け継がれてきているのだと物語っていた。
そして玄関を過ぎれば訓練所があり、ここで修行が行われると思いきや、生徒はおろかネズミっ子一匹もいないがらんとした部屋がそこにはあった。その時だ。
「ふー。誰も来ない」
訓練所の更に奥。小さな扉から出てきたのは頰に黒い横線を引いたハリネズミであった。普通のハリネズミよりも一回り大きいのかボールのように丸々しくそれでもってぽっちゃりとしている。これから掃き掃除でもするのか、手にはエノコログサで出来たホウキを抱えていた。
「折角大々的に広告を出したのにな」
そう呟いた後にプク〜ッと不満気に頰を膨らませるとそのまま広い道場を掃き出した。動きにくそうな身体をしているのにも関わらずキビキビと手際よく動く様は武を嗜むもの特有の滑らかさを持っている。無駄のない動きで床掃除に一旦キリをつけたハリネズミは思考に耽った。
「やっぱり雨の日だからみんな来ないのかな。ほんとはこういう天気の時こそが修行時なのにな」
全くみんな分かってないな、もう、とプンスカ怒りながらラストスパートに入ると外からドンドンと何かを強く叩く音が聞こえた。風かな、と予想するハリネズミ。
続けて門から来訪者を示す鈴が鳴り、ハリネズミは作業を中止すると、その理由を考えた。すぐさま新しい門下生がやって来たんだと決めつけると、ハリネズミは嬉しいのかるんるん気分で門へ向かった。
「やった!最初の門下生だ!」
ドスンドスンと、床がすごい音を立てているがそこは指摘しないお約束。威厳たっぷりといった表情を作り、いかにもその道五十年と言ったベテラン感を漂わせながら外へ向かうとそこには群青色の毛をしたハツカネズミが立っていた。




