13話 【しずくの書】
新年明けましておめでとうございます。
約一年ぶりの更新ですが、今後も干支戦記をよろしくお願いします。
水属性の魔法使い達へ
雨垂れ石を穿つ、という言葉があります。
これは、軒下の雨垂れや小さな雨のしずくでも同じ箇所に落ち続ければいずれ硬い石でも凹むことから、どんなに小さくてもコツコツと根気良く努力をすればいつか成果が現れる、という意味が込められた素晴らしいことわざです。
若い皆さんが生きているこの世界はこのように小さなコトから成り立った広く大きな世界です。
大河にしかり、大海にしかりと水に関わる大自然もまた、本当に小さな小さなしずくから生まれてきました。
水魔法を使うということはすなわち、小さなしずくからはじめるということであり、水属性を扱うことになる皆さんは日々の生活の中で水の強さや力を実感することになるでしょう。
はじめは上手くいかなくても毎日日夜問わずに水魔法を使えば、その都度あなた達の水魔法は山の湧き水のように洗練され、空を覆い尽くす雲の如く自由自在に水を操ることが出来ます。
この本ではまず、生命の源である水に慣れ、いかにして扱うかについて書かれています。
水を感じ、水を受け入れ、水になった気持ちで水と触れ合うことが出来ればいずれは違和感なく水と一体感を感じれるようになるでしょう。
さぁ、このページを開けば現れるのは水の世界です。
皆さんの魔法も人生そのものも雨垂れの如く石を穿つことで活路を見出せますように。
【しずくの書】著者より
◇◇◇
「あっ、雨だ」
シトシトと雨音が心地よい音色を奏でる。
水属性専用の教科書、【しずくの書】の前書きを読み終え、そのまま帰宅しようとしていたリュウとその友達のルークは突然の天気雨の前にポツリと為す術もなく佇んでいた。
「どうしよう、傘持ってないよ、僕」
「僕も」
降り注ぐ雨粒の前にそう嘆くリュウにそれに同意するルーク。
これぐらいの雨走って帰ればいい、と思うかもしれないが、雨の雫はネズミ達にとっては脅威の大きさで、リュウ達は例えにわか雨とはいえわざわざ走って帰る気にはならなかった。
「せっかく家で魔法の練習をしようと思ってたのになぁ……」
ふてくされるようにそう呟くリュウにルークは丸眼鏡の縁をあげながらキラリとレンズを光らせると、この状況を打破する解決策を提案した。
「じゃあ、せっかくだから練習室によってみない?」
練習室とは魔法や護身術を練習する為に設けられたいわば特殊な体育館のようなものだ。
すぐに帰る予定もなく、更に魔法の練習がしたくてウズウズしていたリュウはルークの発言に目をキラキラとさせながら頷くと、彼とともに練習室に一直線に向かっていった。
◇◇◇
校舎の西にある渡り廊下を通ってしばらくした場所に、ここクヌギの森学園専用の施設、戦闘実技練習場、通称練習室が建てられている。
ドーム型に広く建てられたこの建物はネコの襲撃にも耐えられるように特殊な素材で作られており、ちょっとやそっとの攻撃ではビクともしない頑丈なものだ。
リュウとルークはその大きさやどっしりとした構えに圧倒されながらも重たい扉を開くと、室内から閉じ込められていた怒声や武器をぶつけ合う音が一斉に解き放たれた。
「うぅっ…」
一瞬あまりの声量に耳を丸めたリュウとルークだったが、徐々にそれにも慣れてきたのか雨が入ってこないように扉を閉めるとそのまま喧騒の中に紛れ込むように中に入っていった。
戦闘練習を繰り広げる他の生徒達を横目に奥の部屋へと続く道を進んでいくと、そこには新入生用に用意された入門コーナーがある。リュウ達はその一角で片手を広げ神経を研ぎ澄ませているクラスメイトの姿を見つけると、彼らの集中力を阻害しないように恐る恐る近づいていった。
「えいっ!」
「やぁー!」
「とぉー!」
まずは基本的な魔法を出現させる練習をしているのか、各自掛け声を上げながら手のひらの上に全意識を向けている。
とても声をかけられる状態じゃないと察したリュウとルークはその様子を一定の距離を保ちながら観察していると、突如横から小さな火の粉が飛んできて二匹は慌てて避けた。
「うわー、ごめんね。怪我はない?わざとじゃないんだ」
どうやら他クラスの子が魔法を失敗らしく、その証拠に彼女の顔が少しだけ焦げている。
「大丈夫だよ、当たってないし」
リュウは咄嗟に何ともないことを伝えると、ルークは彼女をフォローするように気にするなと手でジェスチャーを送った。
その子は二匹の様子に胸を撫で下ろすと、また一度お辞儀をしながらその場を離れていった。
「じゃあ、僕達も気を撮り直して練習しよっか」
二匹は自分の練習場所を確保すべく移動を始める。
なかなか見つからないと思いきや隅っこの方に小さなスペースを見つけた二匹はその場所に向かうと、突然、後方から声をかけられた。
「あれっ?リュウ君にルーク君?もう帰ったんじゃなかったの?」
二匹が振り向いた先。そこでは雲のように真っ白な毛並みをしたユキが意外そうに彼らを覗き込んでいた。
「本当は帰る予定だったんだけどね……」
「途中で雨が降ってきたからこっちによることにしたんだよ」
一旦教室で別れたはずのリュウ達は雨のせいで帰れなくなったことを口にすると、ユキは同情したようにそっかぁ、と息を漏らした。
「それなら一緒に練習しよ⁉︎」
ユキはその流れで二匹を練習に誘う。
リュウはどうしようか、とルークに視線を送ると、ルークはすぐさまこくりと頷いて答えた。
「うん。そうしよう」
その様子にリュウも賛同すると、二匹はユキと他のクラスメイトと共に見よう見まねで魔力を練り始めた。




