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干支戦記~十二支の戦い〜  作者: 寺子屋 佐助
第一章 幼児・学園編
13/25

12話 教科書

「それが僕にもよく分からないんだ」

 奇妙な浮遊感に青い星、辛うじて自分がいた場所だと気づいた途端に現実に戻ってきたのだ。

 群青色のハツカネズミ、リュウはその長くて不思議な擬似体験を自分の味わった感覚と結びつけてそう語ると、黄土色の毛並みをしたネズミは僅かに首を捻りながら目を細めた。

「おかしいな……。僕が見たのは小さな波紋がゆっくりと広がっていくところだったんだけど。それに君のいうように長くはなかったし」

 まるで緊張感の無いのんびりとした口調で、物思いに耽るかのように呟く少年はそのまま腕を組んで何かを考えはじめた。彼の仕草にどう対応すればいいのか分からなかったリュウは視線をキョロキョロと動かしながら周りの様子を観察した。

 見ると、他のネズミ達も自分達と同じように自身の体験談を語っている。一通り見終わったリュウは目の前の少年に視線を戻すと、彼はどこか一点を見つめながらぽけ~っと何かを考えていた。彼の目前で手を振ってみるも気づく様子はなく、困ったリュウが周りに声をかけようとしたその時、どこからともなく現れた教師二匹が未だに騒ぐリュウ達を眺めながら静かにするよう呼びかけた。

 どうやら全員の魔力の属性の検査が終わったらしい。

 徐々に静寂に包まれていく雰囲気の中で、生徒達の名簿を持った教師が前に出ると生徒全員がピタリと話すのを止め、彼に注意を向けた。

「俺はイカリ。水属性の実技を担当する一年六組の担任だ。これから一人一人名前を呼ぶから、こっちの……」

 彼が全て言い終える前に手を挙げながら生徒達の視線を自分に向けさせたもう一匹の教師は、もう片方の手で自分を指しながらイカリの言葉を受け継いだ。

「一年七組の担任のナギサです。座学の方を担当します。呼ばれた人から私の後ろに順に並んでください」

 明るい声とは裏腹にクールな雰囲気を醸し出すナギサに全員が元気よく返事をすると、イカリが一度名簿を高く掲げながらクラス順に生徒の名前を読みあげていった。

「よしっ、全員並んだな。今から教科書を配るから受け取ったやつから順に自分のクラスに戻っていけ、いいな⁈」

 イカリは歴戦を戦ってきた戦士のような逞しさを含む声でそう告げると、一組から順に渡しはじめた。

「詳しい話は次の授業の日に話すからな」

 途中、たった今思い出したかのように付け加えたイカリは全員に配り終えると、自分のクラスに戻っていった。



 ◇◇◇



「リュウ君は何の属性だったの?」

 リュウがクラスに戻ってきて早々に聞こえてきた第一声は、彼の魔力の属性に関するものだった。すでに約半数のクラスメイトが戻ってきているのを確認しながら、リュウが声が聞こえてきた方向に顔を向けると、そこには白い毛並みの明るい印象を与えるネズミの少女が好奇心に溢れた眼差しでリュウを見つめていた。

「水属性だよ。ユキちゃんは?」

 自分の席に着きながら答えたリュウは、逆にユキに問いかけた。真っ白な頬をほんのりとピンク色に染め、嬉しそうに微笑みながらユキは自分の席から少し身を乗り出すように立ち上がるとそのまま口を開いた。

「風属性だったんだ、エヘヘ」

 彼女の白い毛同様、真っ白な雪のように輝く歯を見せながら笑うユキ。照れ臭いのか顔を隠すように下を向いている。リュウは、へぇーと感嘆しながら称賛の声をかけると、ユキは更に恥ずかしくなったのか余計に縮こまってしまった。

 そんな彼女の様子を見つめながらリュウは貰ったばかりの教科書を開こうとすると、ガラガラという音と共に丸めがねの少年がクラスに入ってきた。

「おかえり、ルーク君。属性は何だったの?僕は水属性だったよ」

 緑色の表紙の本を大事そうに抱えながら入ってきたルークにそう尋ねると、案の定彼は眼鏡の縁をクイッとあげながら自身の本を指差した。

「僕は木属性だったよ‼これでお父さんの研究のお手伝いが出来る!」

 興奮気味に鼻息を荒げながら語るルークに少しばかり苦い笑みを浮かべながらも、リュウは彼が目当ての属性だったことに対し喜んだ。

 そうしている間にも残りのクラスメートが帰ってくる。やがて全員が戻り、嬉々とした表情でお互いの属性を語っていると、彼らの担任であるヒヨリがスタスタとやってきた。

 直様静かになった教室に笑いかけながら、ヒヨリが本日の授業の終わりを告げると、皆が一目散に教室から出ていった。

 それもそのはず。何故なら魔力の属性を知った者はある場所に入れるようになるからだ。

 しかし、そんな生徒達とは裏腹に、教室に残る者が三名、いや教師を含め四名いた。

 一匹目は灰色の毛をした丸めがねの少年。どうやら授業中に貰った教科書に没頭している様子で、端から端まで読み通すつもりらしい。

 もう一匹目は白い教科書を抱えながら黒板の字を消す白い毛の少女で、こちらは教師と雑談を交えながら日直としての仕事を全うしていた。

 そして最後の一匹、群青色のハツカネズミ、リュウはやおら深呼吸を繰り返しながら目の前の教科書を見つめていた。

 海を連想させる濃いブルーの表紙に、白い文字で【しずくの書】と書かれている教科書に、リュウは何度も開こうと試みるもその度に息を整えては止めていた。

 やがて心を落ち着かせ、意を決したように本を見つめたリュウは最初の一ページをゆっくりと開いていった。

現在は他の作品と並行して書いているので次回がいつになるか分かりません。

出来次第すぐに更新します。


個人的な事情でジャンルをファンタジーから戦記に変えました。

今後もよろしくお願いいたします。6/16


2014/8/12

活動報告にてお知らせがあります。

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