11話 水属性
不純な物が何一つも混ざっていない、どこまでも透き通った空から一粒の滴が落ちてくる。滴は一枚の葉っぱにぽたりと舞い降りると、そのまま緑色のトランポリンから飛び跳ねた。
やがて滴は柔らかい地面の上へ。永遠に続くのではないかという長い時間をかけ地面に降りた滴はその瞬間、たった今走りだしたかのように加速していった。滴は小さな水溜りに、水溜りは川のせせらぎへと変化し、段々と水流をあげていく。あらゆる関門を通り抜け山を下っていった川はやがて潮の香りがする砂浜までやってきた。
ザザーっという波の音と波長を合わせるかのように水面に浮かぶ宝石はキラキラと輝いている。
滴が今まさに偉大なる生命の源に入るその刹那、滴は自身を青いネズミの姿に変え、静かに空にむかって浮上していった。上空に進む度に周りの温度が下がっていくが、彼にとってはなんともない。むしろ、こんなに高いところから見下ろす景色は彼が見たどんな景色よりも幻想的で美しかった。
やがて雲よりも高い位置を通り過ぎていくと、待っていたのは満面の星空。
ネズミはそのあまりの光景に見惚れながらふと、考えた。
自分は何故ここにいるのかと。
考え込むように下を向いたネズミは自身の答えよりも遥かに大きく青く輝いているものを目の当たりにすると思わず息を飲んだ。
青と緑に包まれた美しい星。神秘的な輝きに包まれたそれは彼が住む星。
あまりの輝きに思わず手を伸ばしたリュウはその瞬間、あらゆる感覚を失い静かに落ちていった。ゆっくりと。無限に続く闇の中に。
◇◇◇
目を覚ますとリュウは何事も無かったかのように壇上に立っていた。
そのまま青々と煌めく水晶玉をボーッと見つめるリュウは一瞬、自分が何故こんなところにいるのか分からなかった。かろうじて状況を確認するだけの思考は残っていたのか、首をそろりと動かし周りを見渡すリュウ。
「ああ、魔法の授業の最中か」
やがてあの擬似体験の前の記憶を思い出したのかリュウは視線を自身の手元まで戻すと、ゆっくりとその手を水晶玉から離した。
「大丈夫かい?」
どうやらリュウの様子に心配して、近くの教師が声をかけたようだ。リュウが大丈夫です、と返すと教師は安心したように頷き、そのままリュウを水属性の子ども達がいる場所へいくように促した。
その教師に従い、静かに階段を降りるリュウ。実際にその場にいたかように繊細に覚えている奇妙な体験を思い出しながら階段を下り終えたリュウは、水属性の生徒達の溜まり場に着いた途端、一人の生徒に声をかけられた。
「ねぇねぇ……」
初対面の子にいきなり声をかけられたことで少々驚いているリュウに黄土色の毛をしたネズミは、
「……君は水晶玉を触った時に何を見たの?」
のんびりとした声でそう尋ねた。
◇◇◇
「…………」
壮大な大自然の中、一匹の年老いたネズミが滝に打たれながら瞑想している。
シワだらけの顔を表情一つ変えずにピタリと姿勢を保っていた彼は突然目を大きく見開くと、自身が座っていた石の上から立ち上がった。
ツルツルであるはずの石の跡が脚にくっきりと残っていることからさぞや長い間座っていたのだと予想出来るそのネズミはその脚で水の中に飛び込むと、何食わぬ顔で泳いで向こう岸まで渡っていった。
彼が座っていた跡が残る石もまるで何事も無かったかのように転がって水の中を流れていく。
そんな石を静かに見つめていたネズミは流れる風がいつもとほんの少し違うことに気がついた。まるで新しい生命の誕生を祝福するようなくすぐったい風。そんな風が今、シワだらけの年老いたネズミの髭をそわそわと撫でている。
ネズミはその風に思い当たるところがあったのか、その風に背を向けると、先ほどまで打たれていた滝の横にある岩壁を登っていった。年を感じさせない頑丈な足腰で楽々と登っていくネズミは途中、大きく聳え立つ木に飛び乗ったりしながら岩壁を登り切ると、今度はその先にある小高い丘まで全力で駆けていった。
そして頂上に辿り着いた年老いたネズミは風を体全体で受けとめるとその頬を僅かにほころばし、ゆっくりと口を開いた。
「やっと、現れたか。次の後継者が」
群青色の年老いたネズミは思いっきり助走をつけながら丘を駆け下りていくと、そのまま宙を舞い、滝の中へと飛び込んでいった。
次いつ更新出来るかわからないので事前連絡しておきます。
干支戦記は色んな理由で不定期に更新されるということと、既にストックがきれていてまたアイデアを練り出さなくてはいけないことです。
出来るだけ頑張って更新するので長い目で見ていただけるとありがたいです。
お読みいただきありがとうございました。




