10話 水晶玉
独特の輝きを放つ煌びやかで透明な水晶玉に一学年全員の目が釘付けになっている。群青色のハツカネズミ、リュウもその内の一匹で、彼も舞台上にある水晶玉に目を取られ、魅了されていた。
体育館にいる半数以上の者が確実に感嘆する程の美しさを持つ水晶玉に目を向けていると、透き通った水晶玉とは裏腹に濁った咳払いが体育館の中を木霊した。
「これより、皆さんの魔力の属性を調べたいと思います。さて、皆さんが気になっているこの水晶玉は【真実の鏡】と言う特別なもので皆さんの眠った魔力の種類を当ててくれる優れものです。幸いにもここには六つの水晶玉があるので、奇数組から先に調べていきましょう。何か質問はありますか?」
学年主任の質問に対し一瞬で静まり返る空気。しばらくの沈黙の後、静けさを破るが如く一人の少年が手を挙げた。学年主任は他に挙手をしている者がいないか確認すると、天に向かって勢い良く手を伸ばしている少年を指差した。
「調べるって言っても属性ってどれくらいの種類があるんですか?それと、調べた後は何をするんですか?」
二組の前、一組の最後尾に座る真面目そうな少年がそう尋ねると、学年主任は笑みをこぼしながらその少年の質問に答えた。
「そうですね。本当は皆さんの属性が決まってから説明する予定でしたが、属性の名前や何種類あるかぐらいはもう伝えてもいいでしょう。魔力には六つの属性があってそれぞれ火・水・木・土・金・風属性と呼ばれています。それぞれの詳しい説明は属性を調べ終えてからにしましょうか。並びに調べた後何をするかも後で説明するのでひとまず後回しにしておきます。他に質問も無いようなので、早速始めましょう。それでは奇数組からどうぞ!」
学年主任の言葉と共に残り五つの水晶玉が現れた。各クラスの担任は自分のクラスをまとめると奇数組は出席番号順に壇上へ、偶数組は属性が分かる瞬間を今か今かと待ちながら他クラスの観戦に入った。
一番最初の生徒達が壇上へあがる。緊張からか全員の足取りが危なっかしく、どこかぎこちない。やがて六名全員が舞台の上にあがり終えると学年主任が高らかに声を張り上げた。
「最初の六名にはこれからこの水晶玉に触ってもらいます。その時に自分の名前を言ってください。そうするとこのように水晶玉の色が変わっていきます」
そう言いながら学年主任は水晶玉に触れて自身の名前を言うと水晶玉は無色透明だったものから黒煙が蔓延したかのような色に変わった。
「私の場合は黒に変わったので土属性です。属性を識別すると、赤は火、青は水、緑は木、黄色は金、黒は土、白は風という風にそれぞれ異なる色と深い関わりを持っていることが分かります。では皆さん、始めてください」
躊躇するかのように中々水晶玉に触らない六匹のネズミ。恥ずかしそうにお互いを見つめながら全員が触るタイミングを計っていると、その中の一匹、一組の出席番号一番が勇気を振り絞って前に出て、水晶玉に手を伸ばした。
心臓が破裂するんじゃないかとドキドキしているその生徒の背中を全員が息をのみながら見守っていると、水晶玉の中で小さな変化が起き始めた。
初めは小さな小さな渦、いや、竜巻のような風が起こり、次第に大きくなっていくと、ドカンと爆発音のような音が響き煙がもくもくと登りはじめた。やがて全てが終わった時には真っ黒な煙が水晶玉の中を支配し、そのまま変化することは無くなった。
「なるほど、アカギ君も私と同じように土属性を持っているようですね。それではアカギ君、君は体育館の入口辺りに準備した黒の旗が置かれた場所に行って座って待ってていてください。他の皆さんも属性が分かったら各属性の色ごとに座ってくださいね」
アカギ君、と呼ばれた少年は言われた通りに黒い旗のところまで行くとそのまま床に腰を降ろした。
アカギ君の勢いに乗せられたのか、あるいは場の雰囲気に押されたのか、ただ単に触発され、勇気が出たのか先ほどとはまるで態度が変わったように全員が動きだした。
それぞれ三組の女の子は黄色、五組の男は赤、七組の女の子は白、九組からは緑の属性を持つ男子が現れ、十一組からは青の魔法使いが誕生した。
綺麗に六色全種類が揃ったことで、学年主任は安心したかのようにぽっちゃりとしたお腹をさすりながら次の生徒が来るよう促した。
一匹また一匹と自身の魔力属性が判明していくと不思議なことに属性にも偏りがあることが明らかになった。
土と木が全体的に多く、逆に風や金は少なめなのが目に見えて分かっていく。しかし特に法則のようなものは無かったのでただ単にその属性を持つ者が今年は土と木に傾いていたということ以外は例年通りのような分配だった。
そして全ての奇数組の生徒の属性が明確になっていく中、リュウは自分の番が来るまでの間属性のことについて考えこんでいた。
先ほど白い毛の女の子に質問されたことが頭の中で繰り返されていたのである。
ーーーリュウ君はどんな魔法が使いたいの?
自分の番が刻々と迫ってくる中、リュウは自分が魔法を使っているイメージを頭に思い浮かべた。
地面を盛り上げ森を生やし木を炎で燃やしながら大量の水で消火する。風で炭を巻き上げながらそれを金でメッキがけするように固めるとまたそれは地面の上に落ちた。
「リュウ君、壇上へあがって」
リュウが思考と想像力を巡らせていると、それを遮るかのようにリュウの名前が呼ばれた。
入学式の時のような好奇心と緊張がリュウを襲った。リュウをそれに抗うかのように精神を落ち着かせると水晶玉に向かって歩き出した。
あれほど小さく見えた水晶玉が舞台への段を登る度に大きくなっていく。
やがてリュウの頭一つ分くらいの大きさに収まった水晶玉の前に辿り着くとリュウは横に並ぶ他クラスの同級生達の面子を見た。それぞれ赤青黄色と色とりどりの光に照らされどこかの国旗のように顔が様々な色に染められている。
一つ小さな息を吐きながら無色透明な水晶玉を覗きこむリュウ。
リュウはそのまま自分の名前を言いながら意を決したように目を瞑ると、水晶玉に向かって思いっきり手を伸ばした。




