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一瞬の出会いを大事にしましょう

 皇甫嵩。若い頃から文武に優れ、特に馬術に天賦の才を発揮する。斜陽の後漢の中で、最も突出した才をもつ人物の一人だ。

 権力欲などとは無縁の清廉潔白な人物で、たとえどんな状況でも他者から恨みを買うことがなかったと言われている。もし彼に権力欲というものが粟粒ほどでもあったならば、魏・呉・蜀を差し置いて天下を統一していたかもしれない。


 朱儁も負けてはいない。

 彼も皇甫嵩と同じく無欲で義理高く、孝行者で有名な人物だ。その有能さを買われ、門下書佐、太守の主簿、県令と昇進して行き、最終的に刺史として一国の太守となる。

 家が貧乏だったこと、父親を早くに亡くしたこと、義理高かったことなどから、蜀を建国した劉備に似ている人物でもある。



 史実では二人が一緒に兵の指揮を執ることは黄巾の乱まで無かったし、ましてやこんな辺境の山まで来たことはなかったはずだが…… 歴史改変というやつだろうか。


 たしかによく考えてみれば、俺という史実知識持ちがいることによって歴史が変わっていないはずもない。現に劉表はもちろんのこと、王粲や劉虞の誕生年や居場所も史実と微妙に違うし、数年前に起こるはずだった豪族弾圧事件、つまり党錮の禁も発生していないようだ。



 何の根拠もないが、なんらかの原因で「劉表が西暦142年に生まれる」という歴史が「劉表は西暦164年に生まれる」という歴史に代わってしまったせいで、歴史の辻褄合わせが起こったということも十分に考えられる。

 劉表が22年遅く生まれたせいで、王粲や劉虞の誕生年などが変わってしまったという仮説だ。

 俺が考え付く限り一番もっともらしい仮説はこれなので、とりあえずこの仮説が正しいと思って過ごしていこうと思う。








「む、こんな山奥に人がいるはずはないと聞いたのだが…… それもまだ年端の行かない子供。貴殿はこの山が危険だとは思わなかったのか?」


 ゆったりとした男の声。後ろから聞こえてきた声につられて、俺もゆっくりと振り向く。


「……すぐそばの村に住んでいますので、この辺りは庭も同然です。この山の事は知り尽くしているといっても過言ではありませんので、少々の危険ならば大丈夫ですよ?」


 振り向いた姿勢のまま男の方を見ると、少し驚いたような表情が目に入った。

 男の目がだんだんすうっと細くなっていくのは、さっきのが10歳にしてはかなり大人びた返答だったからなのだろうか。だが王粲や劉虞もこのくらいの返答は出来るはずだ。いや、王粲はあの性格だから、本当に出来るかどうかは不安が残るが。

 そんなことを思いながら、横目で王粲と劉虞を探しつつ、同時に相手の表情から意図を推し測るという高等技術をやってのける。


 目の前に歴戦の名将が佇んでいることは、俺をえもしれぬ高揚感を感じさせた。鼓動が徐々に高まっていくとともに、縄で全身を締めつけられたかのような感覚が襲ってくる。こんなときに王粲や劉焉がいればまだ安心できるのだが、いくら盗み見ても王粲や劉虞の姿は見えなかった。どうやら俺の技術は未熟らしい。


「……どうしました?」


 間を持たせるために、黙り込んだ男に質問を投げかけてみる。彼はハッとした表情を一瞬出したかと思うと、すぐ元の武将の顔に戻った。


「ふむ、すまない。少しぼうっとしていた。しかし、貴殿は山を知り尽くしてるかもしれぬが、一人で来れるほど山は安全なものではない。早く家に帰るが良い」


 突き刺さるような目つきが、ここは子供の来る場所ではないと言外に告げていた。


「わかりました。一緒に遊びに来た子が二人いるので、彼らを探して一緒に帰ります」

「うむ。じきにここは戦場となる。まだここで死にたくはないであろう?」

「はい。ご忠告、ありがとうございます。……皇甫将軍」










 結局、王粲や劉虞はあれから家に帰っていたらしく、次の日の座学の授業まで会うことはなかった。

 お互い詳しいことは話さなかったものの、話の断片から推測するに、何度行くよといっても俺が考え込んでいるせいで聞いていなかったらしい。後から回収するつもりでおいて行ったが、帰る途中にどうやら入れ違いになった。その程度のことだった。


 結局、俺にとってはなぜ皇甫嵩と朱儁があの山にいたのか、あの山で何をしていたのか、などの疑問の答えは得られないままだ。あわよくば皇甫嵩と面識の一つでも作れればいいなとも思っていたりしたのだが、ろくに話す機会のないまま別れてしまったせいで、俺の顔が知られたとも思えない。そもそも、名前すら教えてないわけだし。

 まあ仕方ない。実力で認めさせるという手もある。結局のこと、地道に勉強して知識を蓄えることが一番の近道なんだろう。


 さて、明日からも勉強をがんばりますか……

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