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ギフト  作者: 鼠色猫/長月達平
君がくれたギフト
14/18

5-1


「しっかし、まあ。お前もなかなかヘビーな展開を選ぶもんだな。おっかねぇ、坊主だ」


 腰ほどの高さに岩に腰掛け、紫煙を燻らせていたグレンが楽しげに言った。

 今は上下黒の厚ぼったい服を着込んでおり、聞いたところによると全身に鉄製の細工が施してあるお出かけ用の礼装だそうだ。そして足元には掻き集められた大量の鉄製品が置かれている。つるはしやら一輪車やら、目につくものを片っ端から集めた結果だった。


「女のために命賭けるなんて男なら一度は憧れるシチュエーションだが、実際にやりたがる奴ぁそういねぇだろうな。そうなると俺は介添えの騎士ってわけだ」


「巻き込んで悪いとは思ってるさ。でも、あんたを引き込むのは必要条件だった」


 強情な意地も行動を起こす切っ掛けに含まれるとはいえ、勝算の全くない戦いに身を投じるのでは本末転倒だ。最初から単独で挑むのは無謀だと判じていた。

 それでも死ぬかもしれない戦場にグレンを巻き込むのは自分だ。と、罪悪感を感じざるを得ないカティに、グレンは心底愉快そうに喉を鳴らした。


「いいんだよ、んな事ぁ。俺は好きでここにいるんだ。請負人とし依頼を請けて、死線上で体一つ張って戦う、本懐だ。むしろ俺は俺の前の依頼主と契約が続いてたら、どうやって城に挑むつもりだったのかの方が気になるがな」


「その場合でも僕はあんたに依頼した。前の依頼主との契約に反さない詭弁を弄するか、その依頼を反故にさせてでも僕の依頼を受けるように」


「ほれ、見ろ。端っから俺を巻き込むつもり満々じゃねぇか」


 笑い声に続いて苦笑すると、しばし場に沈黙が下りる。時たま吹き付ける風にグレンの銜えた煙草の煙が揺れるのを見て、手持ち無沙汰にカティは懐から銃を取り出した。状態を確かめて、装弾が完璧なのを確認し、念のために銃口の掃除を行う。


「その銃、俺とやり合った時も見たが変わった形状だな。見かけたことねぇが、お前が作ったのか。技術屋見習い」


 しげしげと六連銃を見る視線は好奇心に輝いている。戦場を職場とする人間としては武器に少なくない興味を惹かれるのかもしれない。戦った武器でもあるわけだ。

 六つの連なる銃身を指でなぞり、カティは思い出に浸りながら説明する。


「これは僕じゃなく爺ちゃんの作品。本来、こういう武器とかの製造を好まない人だったんだけどね。爺ちゃんはいつも、人のためになるものを作りたいと言っていた」


「へぇ、ご立派な考えだ。お前が漁ってた見たことねぇもんが、その作品ってやつか」


「爺ちゃんの作品群の一つさ。ちゃんと形になったものも、ならなかったものもたくさんある。僕は死んだ爺ちゃんの後を継ぐつもりでいたんだ」


 翳りのある口調にグレンが目を細め、それから興味深げに銃を眺めて思い出したように、


「そういや、俺とやり合った時に一発だけ隠し玉があったよな。爆発みてぇに地面を抉ったやつだ。あれもこの特製の銃の何かか?」


 切り札についての問いに答えを返すか迷うが、すぐに馬鹿な拘りと首を振る。これから共に死地に向かう同志に隠し事して、うまくいくものもうまくいかなくなればどうする。

 ツナギのズボンのポケットに補充用の銃弾が入れてあるが、左に比べて右に入っている分は二発しかない。その右から一発の銃弾を取り出し、グレンの眼前に見せ付けた。


「先端、弾の先端に何か仕込んであるな。結晶――あの妙な灯りと同じ石か?」


「ご名答。これは爺ちゃんが発見した結晶で、爺ちゃんの作品の全ての動力源になってる。精製の手順が難しいけど、代わりに秘めたエネルギーは膨大だ。銃弾の先端に仕込んだ特殊弾で桁外れの威力を出すこともできるし、機構の違う機械なら永久機関にもなりえる。僕はこの輝石を新たな動力源として世界に――」


 熱っぽく語りかけ、カティは自分を恥じるように黙り込んだ。話が冗長になりすぎるし、基本的に他人に受け入れられることのない話だ。だが、そう反省するカティの眼前でグレンは悩むように顎に手を当て、それから合点がいったというように頷いた。


「そうか。カティクライス=デリルって名前に引っかかりがあったが、デリル式だ。お前の爺さんってのはデリル式を組み上げた、ゼフィル=デリルか?」


「爺ちゃんの名前を知ってるのか!? あんた、意外と学があるんだな……」


「知識あるものを識者って呼ぶんだぜ。んなのはどうでもいい。それよりデリル家っていえば帝都でもかなり高位の地位にある一族のはずだ。だってのに、お前は?」


 見かけによらぬ博識に素性を言い当てられ、カティは悔しさを噛み殺す気持ちを思い出す。家族の話はカティにとって悔恨を交えずに思い出すことができない話だ。


「あんたの言う通り、デリル家は帝都じゃ有数の地位にある一族だ。けど、その本性は爺ちゃんが築き上げた栄光の尻馬に乗って、いざその爺ちゃんを時代遅れと切り捨てた連中に尻尾を振って生きる卑しい奴らなんだよ」


「なるほど。それが気に入らなくてお前は家を出て、僻地に居を移した爺さんのとこに弟子入りってわけか……」


 納得したという声音に、カティは力ない微笑を浮かべて首を振る。それは自嘲の笑みだった。


「そうなら、まだ僕は自分を許せるだろうね。……でも実際は違う。僕はデリル家に必要ないと、爪弾きにされてここに来たんだよ」


 家を盛り立てた祖父を捨て、ギフトの文化に迎合した家族。上流階級にあったデリル家には優先的にギフトが回され、次々と家族はギフトの知識を得ていった。しかし、


「僕に知識を授けるギフトは一つも現れなかった。家族にとってはいい恥だ。知識を得ることもできない愚者が家族にいるなんてね。遠からじ、僕は耐えられなくなって家を出た」


 そしてゼフィルの元へ身を寄せることになった。ゼフィルは孫の訪問を歓迎してくれたし、ギフトに受け入れられなかったカティに酷く同情的でもあった。そしてその気を紛らわせるつもりでか、自分の研究の手伝いのような形でカティに技術を教授したのだ。


「爺ちゃんに教えを受けて、僕は世界が変わったと思ったよ。新たな生き甲斐を見つけたってね。――この技術を完成に導けば、あの家族を見返すことができると」


 祖父の人生を懸けた研究に対する冒涜だと、今なら思う。唾棄すべき卑怯な考えだ。ギフトに縋れなかったから、別のものを見繕って溜飲を下げようと言うのだから。

 眼下の光景、薄っすらと夜闇に沈みゆくライズデルの町並みを見下ろしてカティは思う。


「前に宿場であんたに言われた通りだ。僕は識者を僻んでいたんだよ。それに対抗する手段として爺ちゃんの後を継いだ。……卑賤過ぎて自分でも吐き気がする」


「てめぇで自覚があるなら俺から言うことはねぇよ。……ただ、今はどうなんだ」


「今は――」


 祖父の死去後、カティが新たにやってのけたことはあまりにも少ない。家族を見返すという目的のために精進したが結果は出ず、町の誰もが無駄なことは止めろと言ってきた。言われる度に反抗心が芽生え、諦めないと口にしながら心は挫けかけていた。


 無理だ、無駄な足掻きだ、所詮は天才であった祖父の威光に縋ろうとしているに過ぎない。


 ――その折れかけていた気持ちに初めて手を差し伸べられた。


「今は、心からこの研究を幸せに役立てたいと思う。そう約束したんだ」


 顔を上げ、視界は空に――遠く、迫ってくる巨大な質量が見える。

 カティの隣にグレンが並び、力強くこちらを肩を叩いた。


「それがあの子を助けに行く理由か?」


「いや……本当の理由はもっとシンプルだよ」


 そしてそれは他の誰に伝えるよりも、本人に最初に伝えなくてはならない。

 理由は言えないというカティの覚悟を聞くまでもないと、グレンは悟っているようだった。


「しかし、正気じゃねぇな、俺もお前も。何せここいら一帯の領地の主、その本丸を狙おうってんだ。ぶっちゃけ、後のこと考えると町のみんなに迷惑かかんじゃねぇか?」


「だからあんたを雇ったんだ。ガロンが識者なら、殺し方があるんだろ?」


 自分は今、酷い顔をしているだろう。自分の目的のために、他者を蹴落とす悪魔の顔だ。


 だからせめて、凶悪に笑ってやった。


「いい顔だ。いやはやまったく、いい雇い主に雇われたもんだぜ」


 悪魔の笑みに応えたのは獰猛な獣の凶笑だ。

 グレンは銜えていた煙草を吐き捨てると、その場にしゃがみ込んで右手を地に着く。


 ――次の瞬間、集められていた鉄製品が一斉に融解、膨大な量の鉄の液体が星空に向かって噴き上がり、まさに頭上を通過する直前だった「鳥篭」の底部に突き刺さった。即座に硬質化した液体は鉄杭となって鳥篭を繋ぎ止め、ライズデル鉱山の山頂と鳥篭を渡し橋とした。

 暴力的なまでの強風が吹き荒れ、打ち付けられた城を山から解き放とうと苦心する。しかし鉄杭は微動だにせず、古城は古めかしいその身を宙に縫い止められていた。


 目の前で展開した常識外れの光景に、覚悟を決めたカティも流石に呆気に取られる。


「識者ってのは、本当に規格外なんだな」


「識者はみんな周囲に相当気を遣ってんのさ。でなきゃこんな狭い世界。あっという間に砕け散っちまわぁ。ま、俺は特別だがな」


 硬質化した鉄杭の表面が波打ち、ご丁寧にも階段が出来上がった。到達する先は穴の空いた城の底部――そのまま交戦状態に突入するはずだ。


「悪ぃが手すりを付けてやる余裕はねぇ。風に気をつけて、落ちねぇようにな」


「――上等」


 駆け上がる黒い背中を追って、カティも鉄の固い足場を踏み締めて城へと飛び込んでいく。

 成り行きを見守ろうというのか、白い月がこの上なく側で見ている気がした。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 城が強引に繋ぎ止められた際の衝撃たるや、室内の調度品の全てが倒れ、立っていた衛兵達も全員が体勢を保てず床を転がり、ガロンの膝の上にいたキルマもまた地に落ちていた。


 衝撃が震わせたのは城の全身だけでなく、城内にいた全員の鼓膜をもだ。大砲でも撃ち込まれたような破砕音が響き、今も衝撃の余波でどこかの崩れる崩落の音が聞こえている。

 だがキルマが気を向けたのはそのいずれでもなく、椅子ごと倒れ、呻きながら頭を振っている愛しいガロンだった。


「お父様! ご、ご、ご無事ですか!? キルマが、もっとしっかりしていれば……」


 揺れた瞬間に羽ばたけば、ガロンを床に転ばせるようなことはなかった。

 涙目になって自分を責めるキルマを無視して、立ち上がったガロンは原因のわからぬ状況を確認すべく窓際に行き、そこで城の中庭の庭園を突き破る巨大な鉄杭を見た。

 愕然と目を見張るガロンの横に並び、キルマも同じものを見て言葉を失う。その数秒後に私室の扉を強くノックする音と、外に控えていた衛兵の混乱した声が届いた。


「ガ、ガロン様! ご無事ですか!?」


「私は無事だ。それより、この状況はどういうことだ!?」


 部屋に入った衛兵はガロンの一喝に答えられず、歯を鳴らして口ごもった。その態度に使えない衛兵め、とガロンが罵ると、廊下から別の人物が部屋に飛び込んできた。

 青の制服に羽飾りは愛娘達(ドーターズ)だ。“風”の愛娘達(ドーターズ)の少女は狼狽した素振りで、ガロンの前で背筋を伸ばして報告する。


「報告します、お父様。――鉄の男です! あの男が山頂からギフトで鳥篭を拘束、城内に侵入してきています!」


 鉄の男と聞いて、室内の全員の表情が一変する。警備状態が甘かったとはいえ、この鳥篭の最深部まで侵入し、その後にまんまと逃げおおせた強力な識者だ。依頼主を潰し、この場に現れる理由を失った男が何故――?


「鉄杭は破壊できぬのか? 鳥篭を飛翔させ、我が領地に戻ればものの数ではあるまい」


「お言葉ですが、お父様。あの鉄杭の質量は半端ではありません。また、強度も。あれを破壊しきるのに、識者を総動員してどれだけかかるか……」


「ぬう……トルテを失ったのが響いたか。ならば、手段は一つしかない。鉄の男を抹殺し、ギフトを破壊するのだ!」


 愛娘達(ドーターズ)において最高の破壊力を誇っていたトルテはもう使えない。現状の戦力で鉄の男を撃破するのが最も賢明な手段だ。幸い、各地にいた愛娘達(ドーターズ)は全員が城に戻っている。


「城を飛ばすのに最低限の人数で飛翔を維持。残りは全員で鉄の男を倒しにかかれ」


「はい!」


 愛娘達(ドーターズ)は恭しく頭を垂れると、使命感に満ちた表情で部屋を飛び出していく。その勢いに負けぬというようにキルマが床に転がった自分の槍を広い、窓枠に足をかけて振り向いた。


「お父様、お父様! キルマが、必ず絶対に鉄の男を抹殺、滅殺してくるですです!」


 寵愛の邪魔をされたキルマの怒りは深い。背の作り物の白い羽が広がり、“羽”の識者たるキルマの身が私室から外へと舞い上がっていった。

 その背を見送るまでもなく、ガロンは衛兵を伴って私室の外に出る。衣服を叩いて埃を払いながら、付き従う衛兵に尊大な口調で命令を下す。


「鍵番隊を集めろ。私はこれから止まり木の塔に向かう。万が一があってはならんからな」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 天地が逆転するかという衝撃に弾かれ、膝を抱えて姿勢のままで横倒しに倒れこむ。


 視界は九十度傾いていたが、そのことをどうにかする動きはない。そもそも目を開いてこそいるものの、その濁った瞳は世界を知覚しようとはしていなかった。

 灰色の拘束衣を着せられ、地下牢に放り込まれたままトルテは虚空を見つめて動かない。

 溌剌とし、勝ち気な印象を与えた瞳は濁り、毎日手入れを欠かさず自慢でもあった栗色の髪は見る影もなく色艶を失っていた。


「……ああ…………あ」


 微かに開いた唇から言葉にならない掠れた声が漏れる。意図して出たものではなく、頭の中を駆け巡る恐慌の感情がまろび出たものだった。


 恐怖、憎悪、悲絶、悔恨、憤怒――全てがない交ぜになって形作られる感情は絶望だ。


 ギフトが失われた瞬間、自分の中から自分という人間を構成していた何かがごっそりと抜け落ちていく喪失感に苛まれ、空洞を埋めるように溢れ出たのは消えていた過去だった。


 ――ガロンの“命令”によって心の奥深くに封じられていた記憶。


 トルテの暮らす集落が焼かれ、家族も隣人も友達も何もかもが奪われ、そして奪い去った張本人に心からの敬愛と忠誠を誓わされた記憶だった。

 目の前で全てを燃やされ、憎悪と復讐を瞳に宿した少女を自らの配下に加える。憎むべき対象であることさえ忘れて、かけられる言葉に一喜一憂し、ガロンのためにとその身を投げ打って献身的に尽くす――どこまでも醜悪で、吐き気さえ催す嗜好だ。


 その一翼を担い、自らと同じ境遇となる人間を次々と生み出し、あるいはガロンの敵となることを選んだ者達を空の騎士と名乗って打ち滅ぼした。

 憎い気持ちはある。殺してやりたいと心の底から思っている。だが、それを可能とする力はすでに失われ、残っていたところで槍が届くとは限らない相手だ。

 あの男の言葉には逆らえない。故郷と家族を眼前で消され、悲しみと怒りの果てに発狂しそうなほどに奴を憎んだ時の心さえ、容易く鎮められ隠されてしまうのだ。


 その相手にどうして今の弱りきった心で立ち向かうことができるだろう。

 その内にまた地下牢からも連れ出され、“命令”の力で再び人形のように使われるか、もしくは遊び飽きた人形を捨てるようにボロ屑のように弄ばれて終わる。


 ――全ては、リトの言う通りまやかしの幸せだった。


 リトはどうしているだろうか。自分を退けた後、無事に逃げることはできたのか。ギフトの通用しない彼女にガロンの“命令”は通らない。それを知っていたからこそ彼女は、外の世界でまやかしでない幸せを求めていたのだ。


「リト……お前の、言う通りだったよ。ガロンの奴は、あたしらのことなんて……何とも思っちゃいねー。愛娘達(ドーターズ)なんて呼んで……自分を憎むはずの人間が意のままに動くのを楽しんでやがる……」


 まやかしの幸せは悲しいと、最後にリトは言っていたような気がする。

 今となっては遅すぎるが、まやかしでも全てを忘れていたあの時間は幸せだったろうか。あのまま全てを忘れたまま、愛娘達(ドーターズ)として生き続けていたならば今のように苦しまなかった。


 思い出して、どう思う。思い出してよかったか、それとも思い出さない方がよかったか。

 こんな風に誰かを憎んだまま、リトは八年間もずっと塔の中に閉じ込められていたのか。


「辛かった……よなぁ。苦しかった……よなぁ」


 今思えば、止まり木の塔などにリトの世話に行き、その度に同情心のようなものを心に宿すことになったのは、リトと接することで“命令”のギフトが弱まったからだったのだろう。


 リトが自分の枷を塔で外してくれていたのなら、リトを連れて塔を脱出し、ガロンに挑むことも辞さなかったかもしれない。そう思うと過去に戻りたい思いもあったが、その時のリトはそれをしてまで外にいたい気持ちはなかったし、自分も言われるままを信じていた。


 再びトルテの瞳が絶望の色に塗り潰されていく――その耳朶を、城を揺るがす轟音が叩いた。


 先ほどから伝わる騒音はまさしく戦闘の余波。地下まで届き、城壁に激震を走らせる戦いは識者同士の戦いでしかありえない。愛娘達(ドーターズ)と別の識者が戦っているのだ。

 トルテは牢の中で身を起こし、震動する壁に膝を抱え込んだまま背を預ける。


 もともと老朽化の進んだ古城は劣化が激しく、地下牢には先ほどから戦闘の余波によって崩落の兆しが見えていた。天井から零れ落ちる石くれがいい証拠だ。

 見張りさえいない地下牢で、崩落に巻き込まれて死ぬのかもしれない。

 ガロンの掌で踊らされていた道化の自分には似合いの最後か、と似合わぬ皮肉な笑みがトルテの口元を飾った時――地下への階段を転がり落ちてくる人影があった。




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