教えて欲しいな
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、魔術教えて?」
小さいうちから、普通の魔術なら使えるんでしょ? 人間の姿を取るのはまだ先でいいから、簡単な魔術くらい、使えるようになりたいな?
「うーん、まだエーデルフィアには早いと思うんだけど……」
「確かに。ね、エーデルフィア。自分の年言ってごらん?」
「きゅ? 十だよ? 十歳」
「そうだね、十だよ。十で魔術は早いよ」
んきゅ? 十で魔術を習いたいって言うのは早いのか? 基準が分からないからなんとも言えないね。
だって、まわりに同じくらいの年のドラゴンはおろか、私たち家族とじいちゃんばあちゃん以外のドラゴン知らないしね。
でも、そんなことどうでもいい。だからさ。
「おーしーえーてー?」
「だ、ダメだったら! そうだね、五十くらいになったら教えてあげる」
「そんな先の話、いやー!」
五十とかまだ先すぎるよー。この山じゃすることがあんまりないから退屈なんだよー。魔術教えてー。
「ダメだって。エーデルフィアにはまだ早いよ」
「でも、たいくつー!」
「うーん、じゃあ明日、町にでも下りてみる? お父さんとお母さんがいいって言ったら連れて行ってあげるよ?」
町!? はい、行ってみたいです!!
「よし、じゃあお母さんたちに話しに行こう」
「町? 別に良いんじゃない? ―――何かあったら町が滅びるだけだし」
こわっ!! そしてかるっ! でも、お母さんからは許可をもらったぞ。次はお父さんだ!
「ダ・メ」
お父さん、超にっこり。これは手強そうだ。
「じゃあ、魔術教えて?」
「それもダメ」
「魔術教えてくれるか、町に行かせてくれるか、どっち?」
「どっちもダメ」
「でも、退屈だもん」
んきゅー。しょんぼりとした私の鳴き声があたりに響く。それを聞いたお父さんが少し焦り始めたよ。
……してやったり。心の中だけで、にやりとほくそ笑む。お父さん、そのまま落ちて欲しいな。下を向きながら、ずっと悲しんでいるように見せつけ、お父さんの心変わりを待つ。お父さん、まだ?
「だ、だがな、町は危ないんだぞ?」
「俺たちがいるから大丈夫だよ」
「そうそう。エーデルフィアに害を成そうとするバカがいたら、即、引き裂くし」
「それか、ちょうどいいから新しい魔法の実験台になってもらうわ」
お兄ちゃんたちがお父さんを黙らせに入った! 傍観者は参戦者となったよ。だから、お父さん、ね?
「あーもう、分かった分かった。但し、一人で勝手にどこかに飛んで行かないこと。絶対にカーヴたちに引っ付いていること。守れるか?」
「んきゅ! 守る! 守れる!」
顔を上げたら超笑顔。これもある意味必殺技。溢れんばかりに喜びを感じさせて、ここまで喜ぶのならばと、次を考えさせる方法だ。
―――ドラゴンとして生を受けて10年。前世のお父さん、お母さん。娘はあなたたちの子でいた頃以上に腹黒になりました。
そして翌日。いつも以上にぐっすりと休まされ、私たちは町へと向かう。いつものようにカーヴお兄ちゃんがドラゴンの姿を取り、私たちがその背に乗る。
さあ問題です。現在、私はどこにいるでしょう。見えないよね? 見えないでしょ?
正解は、フードをかぶったお姉ちゃんの頭の上。お姉ちゃんのフードで殆ど私の姿は隠れていて見えないらしい。でも、私からはしっかりと外が見える。最強的だ。
「よし、行くか」
「カーヴァンキス、オースティア、サーファイルス。気をつけろよ、エーデルフィアを絶対に守るんだぞ、何かあったら手加減するな。責任は俺が持つ」
「了解。エーデルフィアに害を成すバカには手加減は必要ないな」
うわー、お父さんもお兄ちゃんたちも怖いな。でも、町が楽しみだから何にも言わない。
「おっと、それとこれをオースティアに渡しておこう。いいものがあったら買ってくるといい」
「あ、ありがとうお父さん」
そう言ってお父さんがお姉ちゃんに渡したもの、お金かな? そういえば、この世界のお金って見たこと無いや。後でお姉ちゃんに見せてもらおう。
そうしたやり取りの後、私たちはやっと出発する。山の入り口まではお兄ちゃんがドラゴンの姿で飛んでいくらしい。山を下りたら、後は歩くというか、走るんだってさ。
まぁ、今は初めての町に期待を抱いて、お姉ちゃんにしがみ付いておくことにしよう。
でもその前に。
「お姉ちゃん、お父さんにもらってたのって、お金?」
「ん、そうだよ。ってあれ? エーデルフィアにお金の話、したことあったっけ? お金ってどういうものか分かってる?」
「うん! お金とモノを交換するんでしょ? お金ってどんなの? 見たいなぁ」
「うん、合ってるよ。人の世界ではね、お金を渡してモノをもらうんだよ。とりあえず、お金は町について落ち着いたら見せてあげるね」
おうけい、楽しみにしてるね。うーん、お金見せてもらったら、この国の金銭事情も軽く聞きたいかな。……って、十歳のドラゴンが聞くようなことじゃないか。
でも、この世界でのお金やモノの価値って分からないから、興味あるんだよねー。
「よし、山を下りたな。下に下りるから気をつけろよ」
そうしている間に山を下りたらしい。さすがカーヴお兄ちゃん、早いなー。
その後、人態を取ったカーヴお兄ちゃんとティアお姉ちゃん、サーファお兄ちゃんはすごい速度で走り始めた。ドラゴンだから? 竜神様だから? だからこんなに早いの? とりあえず、しっかり掴まってないと風圧で飛ばされそうだ。
「エーデルフィア、しっかり掴まっててねー」
「うううううううん」
あわわ、風圧でしゃべりにくい。今はとにかくしっかりと掴まっていたほうがいいな。
「大丈夫? 町についたよ」
おぅ! あまりの風圧に、いつの間にか意識が飛んでたみたいだよ。気がついたら町についてたっぽい。
「んきゅ……、へーきぃ……」
ホントはまだ風圧の影響できついけど、でも心配はさせたくないからとりあえず大丈夫だと答えておくよ。
「まずは、落ち着ける場所に行くか。喫茶店系でいいだろ? 行こう」
この世界にも喫茶店はあるのか。あぁ、まあ普通にあるか。うん、失言だった気にしないで。
そしてついた喫茶店。そこではまずお姉ちゃんがフードを脱ぐ。え? そしたら私丸見えなんだけど!?
「これはこれは、いらっしゃいませ、竜神様方。あら? 今日は随分と小さなお客様まで。どうぞ、お席のほうへ」
……あれ? 奇異の目で見られなかった。山で初めて見た人間は思いっきり奇異の目で見てきたから、町の人間みんながそうなのかと思ったけど、違うのか。
って言うか、町の中でもお兄ちゃんたちは竜神として有名人なのね、実感した。私たちがこの喫茶店に入ってから、入ろうとする人はいるけど、私たちを見て回れ右して帰っていくよ。
「とりあえず、エーデルフィアには深皿に何か甘いものを、俺たちはいつものやつな」
「畏まりました。少々お待ちくださいませ」
いつもの? お兄ちゃんたち何気に常連さん?
そう思っていると、私の目の前に何かが広げられた。お姉ちゃん、これ何?
「これがさっきエーデルフィアと話したお金だね。まずこれが一番小さなお金、鉛貨。これが十枚集まると次のお金、銅貨になる。で、銅貨を百枚で、銀貨。銀貨が十枚で金貨。金貨が十枚で晶貨になるの」
ん? へ? えっと、ちょっと待って。
まず、一番小さなお金が、鉛貨で、それが十枚集まったら銅貨にランクアップして、銅貨が百枚で銀貨になって、その銀貨が十枚で金貨、金貨が十枚で、一番上のお金の晶貨になるのか。
よし、おっけい。
「ほら、一枚ずつ持ってごらん? なくしたらいけないから、私たちの目の届かない場所に持っていかないようにね?」
「うん、ありがとー!」
そうして一枚ずつ持っていくのだが、これは見た目の判断がかなり簡単だな。まず、第一に色が違う。
晶貨は水色というか、少し透明味を帯びた感じの色で、その下の貨幣たちはそのままだ。金貨は金色で、銀貨は銀色、銅貨は銅色、というか茶色で鉛貨は鉛色。
でも、全部きれいだなぁ。
「もういいかな? なくしたら怒られちゃうから片付けるよ」
「……え、あ、うん。ありがとう」
いやいや、十歳にしてようやく初めてお金を見ることが出来たよ、私。10歳にして初めてお金を使う状況に来たよ。
―――遅すぎじゃね?
「お待たせしました。小さな竜神様にはこの近くで取れた果物のジュースをお持ちしました。気に入っていただけるとよいのですが……」
そうしてたら頼んだものが来たみたいだね、果実百%ジュースだね!
でも、知らないものは最初は怖いんだよね。というわけで、恐る恐る口を近づけ、舐めた。……美味しい。
ぺちぺちぺちぺち。私が舌でジュースを掬って飲む音があたりに響く。うん、これ美味しいよ。甘くて、何だか優しい味。
「気に入っていただけたようで何よりです。もっと飲まれたいのでしたら、まだありますので遠慮なく仰ってくださいね」
「んきゅ!」
ならば遠慮なく! っていうか、ホントこれ美味しいわ。
「よっぽど気に入ったみたいだね」
「美味しそうに飲んでるもんね」
「エーデルフィア、可愛い」
だって、美味しいもん。そういえば、お兄ちゃんたちは何を飲んでるの? ねぇ、一体何を飲んでるの? ちょびっとちょうだい?
「あー、あげてもいいんだけど、多分エーデルフィアには苦いよ?」
「シロップを入れても、多分まだ苦いよね」
「だろうね。ほら、論より証拠。飲んでごらん、これはシロップが入ってるから少しはマシだから」
サーファお兄ちゃんはそう言って自分の持つカップを傾けて私に飲みやすいようにしてくれた。
って、あれ? この色、この匂い。―――これってコーヒーじゃないか!!
確認のために、その液体に舌を伸ばす。舌で掬って飲む。うん、やっぱりコーヒーだ。
久しぶりの味だー。でも、ちびちびドラゴンの舌にはかなり苦いよ……。
「にぎゃい………」
「だから言ったでしょ? この子にさっきのジュースもう一杯もってきてあげて」
「畏まりました」
もう少し大きくなれば、懐かしきコーヒーの味も美味しく感じられるようになるかな?
前世の私って、一応コーヒー大好きで殆ど毎日飲んでたのに、転生してからは無いと思ってたから全然飲んでないんだよね。いろんな意味で、禁断症状出てたよ。
でも、その禁断症状はさっきの苦味で完全に吹っ飛んだ。これを美味しいと感じられる歳になるまではコーヒーいらない。苦い。
そのためにも、早く大きくならなくちゃね。
ストックが尽きました(泣)
これからは一話出来次第更新となります。
さすがに二作品毎日更新は辛いですね。
10/31日、銀貨から金貨へのランクアップの枚数に
誤りがあったため、訂正しました。