零歳~一歳
またの名を、兄たちのエーデルフィアストーカー日記。
アレウス暦五万三千六百六十一年(ユーリウス八十五年) 風の月 光の週 五日目。
今日、お母さんが新たな子を、卵を産んだ。それ以来、お父さんはお母さんを慈しむようになり、お母さんはずっと卵を温めている。
今日卵が産まれたばかりだから、孵化するのは相当先だろうが、早く生まれてきてくれるのを期待しておこうと思う。
記録者・カーヴァンキス。
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同年 土の月 星の週 十八日目。
前の日記で書いた日に産まれた卵にひびが入り始めた。それを確認してからお父さんとお母さんは卵を温めるのをやめて、生まれる子供のための準備に奔走している。
ひびが入ってすぐ生まれてくることが無いことはよく分かっているが、それでもやっぱり早く生まれてきて欲しいと願ってしまうのはいけないことなのだろうか。
記録者・カーヴァンキス
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アレウス暦五万三千六百六十二年(ユーリウス八十六年) 火の月 光の週 三日目。
ひびの入っていた卵が、今日やっと孵化した。生まれたのは小さな女の子だった。新たな兄弟は妹だった。
だがあの子は、生まれてすぐ、悲鳴をあげて気を失ってしまった。大丈夫だろうか、心配だ。
何かあったら絶対に守る。だから、何にも恐れずに元気に育って。何があっても絶対に守るから。
記録者・オースティア
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同年 同月 同週 四日目。
目の覚めた小さな子は、俺たちのドラゴンの姿に怯えているようだった。事実、俺たちが人態を取ると、最初は少し驚いていたようだったが、慣れてくると擦り寄ってきてくれた。可愛すぎる!
俺にとって初めての年下の兄妹である可愛いエーデルフィア。絶対に守ってあげる。いい兄となって、いろんなことを教えてあげる。
俺は今日、改めてそう決意することになった。
記録者・サーファイルス
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同年 同月 同週 五日目
生後二日。私たちに大分慣れてくれたのか、エーデルフィアが目を覚ましたときにそばにいても鳴かれなかった。
それどころか、エーデルフィアは前足を伸ばし、抱っこを要求しているようだった。
ので、抱いてあげたら私の腕の中で気持ちよさそうに眠りに落ちていった。
記録者・オースティア
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同年 同月 同週 六日目
毎日の日記に飽きてきた。いくら気が向いたヤツが書くようにしていても、今のエーデルフィアの幼さでは、基本寝るだけだから書くことが無くなってきている。
はっきり言って、書くことがない。今日もエーデルフィアは偶に目を覚まし、俺たちやお父さん、お母さんに甘え、お母さんの血をいっぱい飲んで寝ている。
その寝顔は、確かに可愛い。小さな籠に敷かれた布に埋もれて眠る姿は愛らしい。
だが、日記のネタにはならない。ので、俺はしばらくこの観察日記から離脱することにする。また気が向いたら書く。
記録者・カーヴァンキス
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同年 同月 同週 七日目
俺も飽きた。
確かにエーデルフィアは可愛い。寝ている姿も、甘える姿も心の底から愛らしいと思う。
俺個人としては、甘えてくるときのまっすぐな瞳が可愛いと思うが、だが日記のネタにはならない。
俺も今後しばらくこの日記から離脱する。
記録者・サーファイルス
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同年 同月 同週 八日目
お兄ちゃんとサーファを本当に馬鹿だと思う。まだ一週間はおろか、その半分も経っていないのに飽きるなんて。
ねぇ、エーデルフィア、ひどいお兄ちゃんたちだね。大きくなったら、いっぱい文句を言ってもいいと思うよ。
だから、今はお母さんの血をいっぱい飲んで、いっぱい栄養を取って、いっぱい寝て大きくなろうね。
もう少し大きくなったら、一緒に遊ぼうね。
記録者・オースティア
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同年 同月 同週 九日目
今日のエーデルフィアは、いつものようにお母さんの血をいっぱい飲んで眠る。
目を覚まして甘えて、たくさん栄養を取って眠るという規則正しい生活を送っている。
これならば、大きくなるのも早いだろう、一緒に遊べるようになるまでそう時間はかからないだろう。
記録者・オースティア
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同年 同月 同週 十五日目
ちょっと用事があって数日間洞窟を離れていたため、エーデルフィアを見ることが出来ず、寂しかった。
帰ってきて、この日記に一日くらいお兄ちゃんたちが書いていることを期待したが、その期待はしてはいけなかったようだ。
久しぶりに見たエーデルフィアは、少し大きくなったように見える。それをお兄ちゃんたちに話すと、気のせいだと笑われた。
―――僅か数日で可愛いエーデルフィアの観察日記に飽きた人たちの言う台詞じゃないよ。
記録者・オースティア
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同年 同月 同週 二十日目
さすがに書くことが減ってきた。でも、完全に無いわけではないので、数日置きに書くことも増えていくと思う。
でも、書くことがあれば毎日だって書き進めていく予定。
とりあえず、最近は起きてるときは甘えてくれるから嬉しい。
記録者・オースティア
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同年 同月 闇の週 三日目
エーデルフィアが生まれて一週間、つまり二十日経った。エーデルフィアが起きておける時間が少しずつ伸びてきている。成長の証だ。
あと一週間か二週間すれば、自分の羽を広げることくらいならば出来るようになるだろう。
エーデルフィアの羽は、今はまだあまり成長していないので広げることも無理だろうが、もう少しすれば羽もちゃんと成長する、飛べるようになる。
私はその日を楽しみに待とうと思う。
サーファが自分で羽を広げて飛んだときは、自分のことのように嬉しかった。だから、エーデルフィアのときもきっと、自分のこと以上に嬉しく感じるのだと思う。
記録者・オースティア
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同年 同月 雷の週 三日目
エーデルフィアが生まれて二週間経った。最近のエーデルフィアは、自分の羽を広げようと頑張っている。だが、まだ広げられないらしく毎日が格闘のようだ。
そうやって頑張り、疲れ果てて眠るエーデルフィアを見ているのは本当に楽しい。
頑張れ、エーデルフィア。大分羽は広がってきてるよ、もう少しだよ。もう少ししたら羽を広げて、飛ぶ練習だ!
記録者・オースティア
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同年 風の月 光の週 三日目
エーデルフィアが生まれて一月が経過した。エーデルフィアは日を追うごとに少しずつ羽をより広げられるようになり、それに本人も喜んでいるようだった。
そして今日、ついにエーデルフィアが完全に羽を広げ、自力で飛んだ。距離的には本当に僅かだったが、自分で飛んだことに変わりは無い。
自分で飛んだエーデルフィアをみんなで褒め称えたら、エーデルフィアも嬉しそうに鳴き続けた。
その後、疲れたのかエーデルフィアは眠ってしまった。お休み、エーデルフィア。明日から少しずつ、飛ぶ練習をして行こうね。
記録者・オースティア
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同年 同月 同週 四日目
エーデルフィアは練習というものがあまり好きではないのだろうか。飛ぶ練習を開始したのだが、中々うまくいかないからか、エーデルフィアはすぐに諦める。
もう少しうまく飛べるようになれば練習を楽しんでやってくれるのだろうか。
エーデルフィア、最初は誰だってうまく飛べないものなんだから、少しずつ練習していけばいいんだよ、頑張ろうね。
記録者・オースティア
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同年 水の月 光の週 三日目
エーデルフィアが生まれて二月。二月も経つと、飛ぶことにも慣れてきたのか、短い距離ならば自分で飛んでいけるようになった。
だから、私たちがエーデルフィアが寝ているところに様子見に行ったときに目を覚ますと、自分から飛んで私たちの頭の上に跳んでくるようになった。
エーデルフィア、可愛い。
記録者・オースティア
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同年 同月 無の週 二十日目
今日は油断した。ものすごく油断した。とっても油断した。後悔しても後悔し足りない。
あぁ、何であの時あんなことしちゃったんだろう。あのときにちゃんと気を張ってたらエーデルフィアを怖がらせることも、泣かせることもなかったのに。
今度からは今まで以上にエーデルフィアの気配に気を張って、私たちのドラゴンの姿を見せないようにしなくては。
うぅ、泣かれたのはキツかったよ、泣かせるつもりはなかったのに。
エーデルフィアは、いつになったら私たちのドラゴンの姿を怖がらなくなってくれるのだろうか。
記録者・オースティア
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同年 土の月 雷の週 十八日目
今日はサーファがエーデルフィアにドラゴンの姿を見られて、泣かれ、怯えられたらしい。
大丈夫だよサーファ。一度やっちゃえばその後は今まで以上に気にかけることができるから。
これで、兄妹でエーデルフィアに泣かれていないのはカーヴお兄ちゃんだけか。
お兄ちゃん、せめてお兄ちゃんだけはエーデルフィアを泣かせないで。私たちは泣かれちゃったけど、お兄ちゃんはまだだから。
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アレウス暦五万三千六百六十三年(ユーリウス八十七年) 火の月 光の週 三日目
今日はエーデルフィアの一歳の誕生日だった。誕生日おめでとう、エーデルフィア。
まだ、私たちの言っていることは理解できていないみたいだけど、それでも楽しそうに生きてくれているだけで私たちも幸せだよ。
小さな小さなエーデルフィア。大きくはなったけど、まだまだ小さいものね。
言葉の意味が理解できなくても、今日がお祝いだって言うことは雰囲気で悟ってくれたみたいで、楽しそうに鳴いていた。
記録者・オースティア
今更ながら、月日の設定を記載。
【火の月 光の週】【火の月 闇の週】
【火の月 雷の週】【火の月 星の週】
【火の月 聖の週】【火の月 無の週】
【風の月 光の週】【風の月 闇の週】
【風の月 雷の週】【風の月 星の週】
【風の月 聖の週】【風の月 無の週】
【水の月 光の週】【水の月 闇の週】
【水の月 雷の週】【水の月 星の週】
【水の月 聖の週】【水の月 無の週】
【土の月 光の週】【土の月 闇の週】
【土の月 雷の週】【土の月 星の週】
【土の月 聖の週】【土の月 無の週】
各週二十日で、月百二十日。
それが四か月あるので、一年は四百八十日になります。