小さなエーデルフィア
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「エーデルフィア、おいでー」
「きゅっ?」
「こっちこっち。ほら、こっちにもおいで」
「んきゅい」
「こっちにも来てよー」
「きゅい?」
兄妹たちが順番に小さな妹を呼ぶ。小さな妹であるエーデルフィアは、三人に呼ばれて、どこに行けばいいのか分からず、首を左右に振り続ける。
「きゅ、きゅい、きゅるる」
「あはは、パニック起こしてる。可愛いな、エーデルフィアは」
サーファイルスはそう言ってようやく出来た年下の兄妹を抱き上げた。それだけでエーデルフィアは嬉しそうな鳴き声をあげる。兄妹たちのテンションもそれだけで高くなる。
そして同様に、そんな子供たちを見るフォンシュベルやエイシェリナのテンションも少し、高くなっていた。
「ふふ、かーわいい」
「だな。ああやって見ると、カーヴもティアも、サーファも子供だな」
「事実、まだ子供でしょう?」
「ははっ、それもそうだ。さて、カーヴたち、そろそろお父さんたちもエーデルフィアを可愛がりたいんだがな?」
「そうね、エーデルフィア、おいで」
「んきゅ!」
フォンシュベルやエイシェリナが言うと、エーデルフィアは目を輝かせ、嬉しそうに鳴いてフォンシュベルの元へと羽を広げて移動した。
「きゅいー!」
フォンシュベルの頭に飛んできて、その頭にすりすりと頬ずりをする。そんなエーデルフィアのおかげで、みんなハイテンションだ。
「きゅい、きゅるるー」
「よしよし、可愛いな」
「きゅー、きゅるっきゅー」
小さな小さなエーデルフィア。エーデルフィアはフォンシュベルたちにかまってもらえるのが嬉しいのか、とにかく鳴き声をあげ、喜びを表現する。
「きゅ、きゅっ、きゅー」
フォンシュベルに抱かれたエーデルフィアは、フォンシュベルだけにかまってもらうのではなく、エイシェリナにもかまって欲しいのか、フォンシュベルの腕から逃れようと足掻く。
「どうしたんだ、エーデルフィア」
「きゅ! きゅきゅい、きゅー!」
「ん?」
「きゅっきゅー!」
フォンシュベルに問われたエーデルフィアは、その瞬間にフォンシュベルの拘束が緩んだのか、逃れ、エイシェリナの元へと飛んで移動した。
「きゅーい」
「ふふ、どうしたのエーデルフィア。よしよし、いい子ね」
「きゅるるー、きゅいっ」
飛んできたエーデルフィアを抱き上げたエイシェリナは、娘を可愛がり、そうして可愛がられたエーデルフィアは嬉しそうに鳴く。
そんなエーデルフィアを間近で見られるエイシェリナに、子供たちが嫉妬した。
「お母さん、お母さんばっかりエーデルフィアを可愛がるのはずるいよ。僕たちも可愛がりたい!」
「あら。エーデルフィア、どうする? カーヴァンキスたちのところに行く?」
「きゅい!」
行かないっ! エーデルフィアはそう言うかのように鳴き声をあげ、エイシェリナに抱きついた。
「エ、エーデルフィアぁ」
「そんなにお母さんがいいの……?」
「うぅ、せっかく可愛がろうと思ったのに……」
エーデルフィアが拒否したことによって、カーヴァンキス、オースティア、サーファイルスが心の底から悲しそうにしていたが、エイシェリナに抱きつき、顔を埋めているエーデルフィアには見ることが出来ない。結果、エーデルフィアはエイシェリナに甘え続けることになった。
そしてその間、フォンシュベルは微笑ましげに眺めていたそうな。
その後、ずっとかまってもらい、たくさん鳴き声をあげていたエーデルフィアは疲れたのか、エイシェリナの腕の中でそのまま眠りに落ちていった。
「あらら、疲れたかな。ベッドに運びましょうか」
「だな。カーヴァンキス、オースティア、サーファイルス。ついていてやったらどうだ?」
「そうする。で、起きたらいっぱいかまってやる!」
先ほど、自分たちがかまっていたのを両親に奪われたのがよほど悔しかったのか、子供たちは眠るエーデルフィアのそばにぴったりと引っ付いている。
それから兄妹たちは飽きもせずにずっと眠り続ける妹に付き続け、その妹が目を覚ました瞬間にまたかまい倒すのであった。
「起きたんだね、エーデルフィア」
「まだ眠たそうだね。また寝る?」
「きゅー? んきゅる、きゅるるるる……」
目を覚ましたエーデルフィアは、一度起き上がり羽を広げ、兄妹たちのところへ移動する。そして、また寝た。
「え? ちょ、ここで寝る?」
「きゅ、んきゅ………すぴょすぴょ」
兄妹たちのすぐそばですやすやと眠る小さな小さな妹。そんな兄妹たちは、そばで寝てくれるのは嬉しいが、それでもきちんとベッドで寝かしたほうがいいと考えたのか、妹を起こさないようそっとエーデルフィアを抱き上げる。そして、ベッドに下ろした。
が、その瞬間にエーデルフィアは目を覚ました。そして、そばにいるはずの人を、愛する兄と姉たちを探す。
――――そして、その人たちがすぐそばにいないことに気がついたエーデルフィアは、―――盛大に泣いた。
「きゅいー! きゅー、きゅるるー! きゅぴ、きゅいっきゅー!」
「エーデルフィア!?」
「きゅるるいー! きゅー!」
目を覚まし、突然泣き出したエーデルフィアはとにかく必死で兄と姉を探す。兄たちを探して必死で前足を伸ばしていた。
「大丈夫だよ、エーデルフィア。お兄ちゃんたち、ここにいるからね」
「きゅいっ! きゅきゅー!!」
そしてカーヴァンキスたちがそう言ってエーデルフィアを抱き上げると、抱き上げられたエーデルフィアは、泣きながらも兄たちにぎゅっと抱きついた。
小さな小さな前足で、必死で兄たちの服を掴み、今度こそ離れないよう必死に掴み続ける。
「ゴメンね、もう離さないから大丈夫だよ」
カーヴァンキスたちが優しく声をかけても、しばらくはエーデルフィアは寂しさからか泣き続ける。
だが、しばらくずっと泣き続けた結果、エーデルフィアはまた眠りに落ちていった。が、今度は兄たちはエーデルフィアをベッドに下ろそうとしない。
兄たちは、可愛い妹を抱き上げたまま少し移動し、ゆったりと落ち着く。
そしてそんな兄妹たちのところに、彼らの両親が顔を出した。―――後ろのオーラは黒い。
「カーヴ、ティア、サーファ、何を泣かせたの?」
「あ、いや………」
「エーデルフィアはお父さんが抱いておこう。エイシェリナ、頼んだぞ」
「任せてちょうだい。フォンシュベル、エーデルフィアをお願いね」
そして小さな小さなエーデルフィアはフォンシュベルの腕に収まり、兄妹たちは母より、エーデルフィアを泣かせた件についてしっかりと話を聞きだされ、叱られたそうな。
そしてもちろん、その間エーデルフィアは眠り続け、目を覚ましたときはそばにみんながいて大層喜んだそうな。
「きゅー、きゅいっきゅるーきゅぴ」
「よしよし、ぐっすり寝たね。いい子だ、エーデルフィア」
「きゅ!」
そうして、褒められ喜んでいたエーデルフィアだったが、何を思ったのか突然エイシェリナの元へ向かう。
そして、エイシェリナの腕に掴まり、ぶら下がった。
「どうしたの? エーデルフィア。ほら、落ちちゃうよ?」
エイシェリナはそう言いながら落ちそうなエーデルフィアの足元に手をやり支えてやる。
「きゅい、きゅー」
「ん? どうしたのー?」
「きゅーるいっきゅ」
「………あぁ、ひょっとしてお腹空いた?」
「きゅ!」
自分の伝えたいことが無事伝わったことが嬉しいのか、エーデルフィアは奇声を上げながら前足をブンブンと振る。
「ふふ、エーデルフィア可愛い。ちょっと待ってね、お母さんの血、あげるから」
「きゅー!!」
母の血に期待の目を向けるエーデルフィアと、その目に勝てず、エーデルフィアの食事の準備を少し急ぐエイシェリナ。
フォンシュベルやカーヴァンキス、オースティア、サーファイルスはそんなエイシェリナとエーデルフィアを微笑ましげに眺めていたと言う。
そしてエイシェリナがエーデルフィアに血を与えるため、包丁を持って戻ってきたときのエーデルフィアの反応はすごかった。喜びに目を輝かせてエイシェリナに飛びつくエーデルフィアと、危ないからとフォンシュベルたちにエーデルフィアを抑えさせるエイシェリナ。
フォンシュベルに抑えられたエーデルフィアは、尚も足掻き続けていたが、目の前でエイシェリナが血を流しだした瞬間にその足掻きは終わった。
「ほら、飲みなさい」
「んきゅ!」
エイシェリナがエーデルフィアに腕を差し出すと、エーデルフィアはエイシェリナの腕に掴みかかり、ごきゅごきゅと音を立てながら飲んでいく。
どれだけたくさん飲んでも飽きないのか、いつまでも飲み続けるエーデルフィアと、そのエーデルフィアを優しく見守る家族たち。
そしてエーデルフィアの体のどこに入ったのか分からないほどの量を飲んだエーデルフィアは、ようやくエイシェリナから離れ、そして倒れこむように眠りに落ちた。
「よく食べ、よく眠る。この子は大きくなれるな」
「ふふ、いーっぱい飲んだものね」
「で、いっぱい飲んだら即熟睡か」
眠りに落ちたエーデルフィアを優しく抱き上げ、ベッドへ運ぶフォンシュベルと、眠るエーデルフィアを見つめる子供たち。その空気は柔らかくて、暖かいものだった。
「エーデルフィア、起きたらまた遊ぼうね」
「今は、ぐっすり寝ててね」
「んきう………」
それが聞こえたのか寝言なのか、のんびりと返事を返すエーデルフィア。
咄嗟に目を覚ましたのか家族たちは確認したが、もちろんエーデルフィアは眠っていた。すぴょすぴょと心地よい音を立てながら眠っている。
「寝言、だよな? よかった、起こしたんじゃなくて」
「んきゅっ!!」
だが、エーデルフィアは家族たちが安心した瞬間にまた目を覚ましたのかと錯覚するような声を上げる。が、もちろん眠っている。故にこれは寝言だ。
どんな夢を見ているのか、家族たちは考えつつもそれでも気持ちよさそうに眠るエーデルフィアを見ていた。
「ははっ、寝言だな」
「寝言だね。びっくりした」
「可愛いんだから、エーデルフィアったら」
その後、フォンシュベルは抱き上げていたエーデルフィアをベッドに下ろし、その頭を優しく撫でる。
そうやって撫でられるのが気持ちいいのか、眠っていてもエーデルフィアは嬉しそうに微笑む。
「……んきゅ……きゅぴ……」
「あーもう可愛すぎ!!!!」
「きゅいっ!? ………んきゃうーっ!!」
そのあまりの可愛さにサーファイルスがエーデルフィアを抱き上げる。そして、それに気がついたのかエーデルフィアが目を覚まし、泣き出した。
「あぁっ、ゴメンね、ゴメンねエーデルフィア。ほーらいい子いい子」
「何やってるのサーファイルス」
「んきゃうー! きゃぴゃぴー!!」
そうやって泣き出した末娘をエイシェリナは息子から奪い取る。そして必死であやし始めた。
「大丈夫だからね、エーデルフィア。だから、泣き止もうねー」
「きゅえーっ!! きゃっきゅー!!」
そしてしばらくして、泣き疲れたエーデルフィアが再び寝入ったあと、サーファイルスは一人寂しくフォンシュベルとエイシェリナに叱られたと言う。
南無。