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まさかの転生物語  作者:
番外編
49/53

愛するエーデルフィア


本編章からお引越し

「ぴぎゃーっ!!」


 エーデルフィアが生まれて、叫んで気を失った直後、フォンシュベルとエイシェリナ、そして外で生まれるのを待っていた子供たちは焦っていた。

 生まれた子供が、可愛い妹が叫び声を上げて気を失ったからだ。ちなみに理由は、この場にいる全員がドラゴンの姿をしていて、驚いたからだということを彼ら、彼女らは知らない。

 そしてその後目を覚ました幼子。エーデルフィアはやはり大きなドラゴンの姿をした両親、兄弟を見て驚く。

 両親や兄弟たちはそれに気がついたらしく、人態を取った。それと同時にエーデルフィアは目を見張らせ、恐る恐るフォンシュベルやエイシェリナに近寄ってきた。

 そんなエーデルフィアをエイシェリナが優しく抱き上げる。


「よく、生まれてきてくれたねエーデルフィア」

「あなたの名前は、エーデルフィアよ。私たちの可愛い子」

「んきゅ?」


 そうして声をかけられたエーデルフィアだったが、意味が分からないらしく首を傾げた。その動作にフォンシュベル以下、母子四名は胸を打たれる。

 守らなくては。数少ない竜族、ドラゴンたちは、基本的に子供が生まれづらい。その上、竜族は一所にまとまっていないため、どこかの家族に子供が生まれても、滅多に会うことは無い。

 だからこそ、竜族は子供を慈しむ。滅多に会うことの無いドラゴンの子供。出会ったときは、絶対に守る。それが自分の子、兄弟ならばそれ以上に守るのだ。


「エーデルフィア、お兄ちゃんだよ。カーヴァンキスっていうんだ、よろしくね」

「お姉ちゃんよ。オースティアっていうの。でも、お姉ちゃんって呼んでね」

「サーファイルスだよ、エーデルフィア。俺たちの可愛い妹」


 慈しむべき小さなドラゴン。生まれたてで、人態を取った彼らの両の手のひらにやっと乗るくらいの大きさしかない小さな子。


「きゅいー」


 可愛い鳴き声をあげながら、兄弟たちを敵ではないと判断したのかすり寄るエーデルフィア。


「か、可愛いよこの子……」

「お母さん、ちょっと可愛すぎない?」

「いいじゃない、可愛くて。エーデルフィア、こっちおいで」

「んきゅい?」


 呼ばれても言葉が理解できていないため、頭に疑問符を並べるエーデルフィアをエイシェリナは抱き寄せる。


「よしよし、可愛い子」


 そうやって抱き寄せられるのは気持ちがいいのか、エーデルフィアは目を細める。それからさほど経たずに、ぐっすりと眠ってしまった。


「うふふ、寝る子は育つわ。大きくなりなさいね、エーデルフィア」


 気持ちよさに眠りに落ちたエーデルフィアを、エイシェリナは彼女のために用意したベッドへ運ぶ。小さな小さな籠。それに柔らかい毛布を置いて設えた彼女専用のベッド。

 エイシェリナはそれに、エーデルフィアが起きないように優しく下ろす。下ろした瞬間、エーデルフィアが身じろぎしたため、エイシェリナは焦ったが起きなかったのでよしとした。

 下ろされたベッドで気持ちよさそうに眠る我が子。フォンシュベルや子供たちが競い合って覗きあう、小さな小さなドラゴン。


 ―――それが、五月蝿かったのか。



「………ぴぎゃーっ!!!」


 すやすやと眠っていたエーデルフィアは、大きな鳴き声を上げて目を覚ました。何度も鳴きながら、何かを求めるように前足を伸ばす。


「んきゃっ、んきゅーっ!!」


 その姿が何故か痛々しくて。その姿が、愛らしくて。

 だから、一番近くにいたエイシェリナはエーデルフィアを抱き締めた。小さな我が子が痛くないように、力加減をしっかりして、それでも、強く。


「大丈夫よ、エーデルフィア。大丈夫、大丈夫」

「きゅ、んきゅきゅ……」


 それでもまだ不安なのだろう、エーデルフィアの体は小刻みに震えている。


「大丈夫よ」


 だからエイシェリナは淡く微笑みかける。エーデルフィアが安心できるように優しく微笑みかけた。

 それでようやく安心したのか、エーデルフィアは再び目を細め、眠りに落ち始めた。

 そしてエーデルフィアはエイシェリナの腕の中で、気持ちよさそうに眠りに落ちた。




 その後、空腹で目を覚ましたエーデルフィアは、再び恐ろしいものに襲われることとなる。


「お腹空いたでしょう? エーデルフィア」


 ドラゴンの姿に戻ったエイシェリナはそう言いながら、自分の鋭い爪で自分を傷つけ流血させる。ドラゴンの姿と流血が、エーデルフィアを怯えさせた。


「きゅ、きゅうぅ……」

「あら? お腹空いてないの? ―――あぁ、この姿が怖いのね。ちょっと待ってね」


 エイシェリナはそう言うと、人態を取る。その腕からは血が流れ続けていて、それがエーデルフィアを怖がらせた。


「ほら、飲みなさい。お腹空いてるでしょ?」

「きゅい、きゅうぅー」


 その鳴き声は、どう聞いても嫌がっているようだった。それに、エイシェリナは首を傾げる。

 ドラゴンの子供は、最初の数年は親の血を飲み、それを栄養に生きていく。親の血がどれだけ美味しいか、小さなドラゴンは本能的に悟っている。故に本来、親の血の臭いがすれば、小さなドラゴンは食事と判断して喜ぶはずだった。

 だが、小さなエーデルフィアの反応は逆だった。エイシェリナの流す血に怯え、頭を抱え、見なくてもいいようにベッドに顔を埋めていた。


「どうしたの? ほら、飲まなくちゃ大きくなれないよ?」


 エイシェリナが何度声をかけても、小さな小さなエーデルフィアはエイシェリナの血を飲もうとしない。頑として顔をベッドに埋めたまま動こうともしなかった。


「んもう、仕方ない子ね」


 エイシェリナは言うと同時に、片手でエーデルフィアを持ち上げた。エーデルフィアの正面に、エイシェリナの血の流れる腕が来る。

 そしてエイシェリナはその腕を無常にもエーデルフィアの口元へと近づけた。


「ぴぎゃーっ! ぴきゅーっ! ぴゃーっ!!」


 エーデルフィアの悲鳴は続く。悲鳴を上げながらも、必死で血を飲むまいと足掻いていたのだが、結果的には本能が勝つこととなった。

 鼻先を漂う美味しそう(・・・・・)な匂い。立派なちびちびドラゴンのエーデルフィアは、その本能には抗えなかったのだ。


「んくっ、こくっ」


 一度飲んでしまえば、後はなし崩しに飲み続けた。ごくごくごくごくと、どれだけ空腹だったのか、エーデルフィアはとにかくエイシェリナの血を貪り飲み続けた。


「きゃふっ」


 そしてしばらく飲み続けて満足したのか、エーデルフィアはようやくエイシェリナの腕から離れた。その後は、エイシェリナによってベッドに戻される。


「いっぱい飲んだね。なら、後はゆっくり寝ようね」

「んきゅ、きゅる………」


 エイシェリナはベッドに下ろした我が子の体を優しく撫でる。それが気持ちいいのだろう、エーデルフィアはそのままうとうとと船を漕ぎ、そして完全に寝入ってしまった。

 それからソーっと、眠るエーデルフィアの元に現れたものがあった。それは、カーヴァンキスたち兄妹たちだ。兄妹たちは新たな兄妹を見たいのだが、見に行って泣き叫ばれたらどうしようかと考え、眠った頃にやってきたのだ。


「エーデルフィア、寝た?」

「ええ。この子が起きてる間に来なさいよ。大丈夫よ」

「でもさ、俺、オースティアの時に……」

「あぁ、避けられたわね」

「聞いた聞いた。だからさ、余計怖いんじゃん? 自分がやったことだしね」

「俺は初めての年下の兄妹だから、何となく怖い」


 兄妹たちとエイシェリナは、そう言ってエーデルフィアの眠るベッドのそばで話し続ける。そんなところで話したら、起きるとは考えないのかこの家族は。

 だが、現在満腹状態のエーデルフィアは完全に熟睡状態に入っているため、そう簡単に目を覚ますことはしない。だからこそ、エイシェリナたちはその場で話し続けているのだ。


「大丈夫よ、人態を取っていれば泣かれたりしないから」

「あぁ、だからお母さんも人態なのか」

「珍しいと思っていれば、そういうことかぁ」

「なら、この子の前で本来の姿は厳禁ってこと?」

「そうしないと、――泣かれるわよ?」

『この子の前では人態をとります!!』


 エイシェリナの言葉に、子供たち三人は声を合わせて宣言した。小さな妹に泣かれたくない、その一心だった。

 彼らの前ですやすやと眠る小さな妹。小さな小さな、生まれたばかりのドラゴン。慈しむべき対象。


「エーデルフィア、君は俺たちが守ってあげるね」

「愛してる、私たちの可愛い妹」

「絶対に、守ってあげるから安心して大きくなって」


 眠る幼子に向けられる優しい瞳。小さな子供の健やかな成長を願った優しい言霊。



 小さな子供はその言霊を受けて、すやすやと、気持ちよく眠り続けていた。


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