とある少年の独白
エーデルフィアが堕竜に堕ちる際に、
エーデルフィアの体を奪った少年のお話。
Twitterでこの少年の正体は
何なのかと疑問を呟いてた方が
いらっしゃったので、書いてみました。
僕は、こんな世界大嫌いだ。
こんな、汚れきった世界を壊したいと思うのは、罪なのか。
―――いいや、罪ではないだろう。
だって、この世界は真っ黒に汚れきってる。なら、壊してもいいだろう。
僕にとって、この世界は僕を召喚して、やることをやったら僕を殺した、むかつく世界だ。
遠い昔、僕は当時僕を召喚した国の敵となる者を退治するために呼ばれた。わざわざ異世界から、当時学生だった僕を呼び出した。呼び出していきなり、勇者として敵を倒せ、滅ぼしつくせとかなんとか言われて、適当な武器を持たされ、すぐに城を出された。
城を出され、何とか戦いに戦って、何とか頑張って敵を退治した僕だったが、その後国に帰ってからが大変だった。
まず、本当に敵を退治したのか疑われ、その間は腫れ物に触るような扱いを受けた。
そして、敵を退治したことが分かった瞬間に、僕は国の礎になるのだと言われて、殺された。―――いや、殺されそうになった。
敵を退治したら、元の世界に戻してくれると言っていたのは、嘘だった。
それに怒り狂った僕は、その場にいた王族、貴族たちを皆殺しにして城から逃げた。だが、生き延びた王族たちに追っ手をかけられた。
必死に逃げてはいたのだが、それでもやはり、個人では国には勝てなかった。
途中でドラゴンの集落に迷い込み、そこで事情を話して協力を得るまでは、僕は夜も安心して眠れない日々を送っていたのだ。
ドラゴンたちが協力してくれるようになってからは、少しずつ睡眠時間も増え、体力の回復もできるようになった。
あの国の王族たちは、ドラゴンに手を出すのはさすがに気が引けるのか、しばらくは何もされなかった。
だが、ある時点からはそれもなくなり、とにかく攻撃が飛ぶようになってきた。大半の攻撃は強いドラゴンが抑えてくれたが、それでもたまにドラゴンたちのガードを避けて集落に入ってくるものがいた場合は、僕が対応した。
そのうち、僕も隠れるための方法を考えるようになった。
気を隠すなら、森の中。ドラゴンの集落にいるのならば、僕もドラゴンになればいい。
そう思ってからは、僕は王族たちに倣った魔法をまた勉強しなおし、何とか僕もドラゴンに変身できないか。
そうすれば、追っ手も何とか撒ける。僕も、生きていける。
それに、魔法を研究すれば、元の世界に帰る魔法も見つけられるかもしれない。
そうやって研究を進めて数年。僕は僕がドラゴンになるための方法を手に入れた。僕は、魔法を使ってドラゴンになった。
ああ、これで僕が僕だと特定されない。
ドラゴンになったことによって、僕はドラゴンの持つ力も手に入れた。本家本元のドラゴンには及ばないながらも、それなりに。
だが、それは逃げにすぎなかった。
あの国は、僕がなかなか見つからず、殺せないと知った時点で、まだ弱い子供ドラゴンを捕らえ、殺すようになった。
最初は、一匹。一匹殺せると、図に乗って何匹も同時に捕らえて殺していった。
それが続いたことで、ドラゴンたちも申し訳なさそうに僕を追い出し、そして、すべてが終わったら戻ってこいと言ってくれた。
ドラゴンたちは優しくて。だからこそ、僕はドラゴンの集落にいてはいけなかった。
僕はドラゴンの集落を出てすぐに、あの国に向かった。僕が死ねば、子供ドラゴンたちは殺されなくなる。
――――僕さえ、居なければ。
だが、僕が大人しく国に捕まり、牢に入れられた後も、子供ドラゴンたちは捕まり、殺され続けた。
曰く、恐怖の対象は取り除くべきだ、と。
許せなかった。
許せるはずが、なかった。
子供ドラゴンが殺されるのが嫌で、僕は大人しくこの身を人間に捕らえさせた。おとなしく、殺されてやるつもりだった。
だが、それでも。それでも人間たちはドラゴンたちを殺す。
―――ならば、僕が大人しく捕まっている必要はない。
―――こんな世界、壊し切ってしまえばいい。
怒りに身を任せた僕は、いつの間にかドラゴンの姿になっていた。だが、今の僕の感情にはちょうどいい。ドラゴンならば力もある。こんな世界、壊してしまえ。
みんな、みんな滅びてしまえばいい。壊しつくしてしまえ。
ヒトのいる場所を壊しつくす。すべてを破壊しつくす。
ああ、ドラゴンたちよ。すまない。僕のせいで、被害を増やしてしまった。
でも、もう大丈夫。僕がその元凶をすべて殺しつくすから。
なのに、どうしてドラゴンたちも、ヒトと一緒に僕を止めるの? ヒトなんていらないだろう? 壊しつくそう。
君たちの居場所は、そちらではない。こちらだよ。壊しつくそう。
ねえ、どうしてそこまで言っても、ヒトの味方をするんだい、ドラゴンたち。
――――――――なんだ、君たちも僕を裏切るのか。
なら、ドラゴンもヒトも、すべてを壊しつくそう。すべての生き物が滅びれば、この世界は平和に戻るかもしれない。
そうすれば、僕のように異世界から召喚されるような被害者は出てこない。
壊す。すべてを。何もかも。壊しつくす。
だが、それは志半ばで終わることとなった。僕は、ヒトとドラゴンの連合軍に倒され、首を落とされた。
そして僕のことは未来へと語り継がれた。当時の僕がドラゴンに変身した姿が白銀色だったからか、白銀色の竜は不吉だと言われた。そして、僕の死んだあとの鱗で剣を作られ、聖剣としてまつられていた。
だが、僕はまだあきらめていない。ヒトもドラゴンも、滅ぼしつくす。
それから幾星霜。何度かドラゴンたちが何故か僕と同じ白銀色になり、暴れまわる事件が起こった。白銀色になったドラゴンは理性を無くし、ただ暴れまわる。
僕はそれを、ちょうどいいと考えて体を奪い取った。理性がなければ、僕を止めるものはいない。ならば、そのドラゴンの体を使って、今度こそヒトたちを滅ぼせばいい。
なのに、毎回ヒトやドラゴンどもに止められる。邪魔をするんじゃない、ニンゲンどもが。
今回だってそうだ。
今回は、ニンゲンとドラゴンに恨みを持った、エーデルフィアというメスドラゴンの体を奪い取った。完全に理性を失うときに奪い取ったというのに、そのくせに、途中で理性を取り戻しやがった。
理性を取り戻しさえしなければ、僕はこの身体を使って世界を滅ぼしていたのに。
なのに。あいつは世界を壊すことを望まず、自ら望んで兄の手にかかった。兄も、相手は妹だというのに殺してしまった。
これ以上騒がせないために、エーデルフィアというモノ自体を消し去ろうと思ったのに、その寸前にコレの兄は、この身体を壊してしまった。
ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。
次に、また理性を無くしたドラゴンが現れるのは、堕竜となったドラゴンが現れるのはいつなのか。
次に堕竜と成り果てたドラゴンが現れた時、その時こそ、僕はこの世界を破壊しつくしてやろう―――
ヒトとドラゴンに強い敵意を抱いていた少年。
少年は、まだまだヒトとドラゴンを滅ぼすことを諦めてはいません。