滅びと再生
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白い光に包まれた白銀色のドラゴン。
それは、人を殺し、生きとし生けるものすべてを破壊しつくした。
それを何とかしたのは、人の作った武器。聖剣と呼ばれたかの武器。
かの武器は、切られたものを救うという言い伝えがあった。
そして、その聖剣で切られた白銀色のドラゴンも、それに救われたという――――――
*****
体を完全に白銀色に染めたドラゴン。それは、まがうことなき、エーデルフィアだったモノだ。
完全に堕竜へと堕ち、理性のすべてを無くしたドラゴン。かつての燃え盛るような赤い色は一切残っておらず、体も、瞳の色も、すべてが白銀だった。
「エーデルフィア?」
それをフォンシュベルがやさしく、問いかける。だが、返ってきたものは灼熱の炎。そして先ほどまでのように、涙を流す気配もない。
これ即ち、―――エーデルフィアの心は、完全に堕竜へと堕ち果てたということだ。
すでに、何がいいことで何が悪いことかも分からない。そもそも、自分が何をしているのかも分からなくなった今、エーデルフィアは既に殺すべき相手でしかなかった。
「おい! どういうことだ、長老! 俺は………俺は確かに、エーデルフィアを………」
「分からん。儂が今まで生きてきた中で、首を刺されて死ななかったドラゴンなど、見たことがない………」
何も分からぬまま、ドラゴンたちは必死で襲い掛かってくるエーデルフィアを、これ以上傷つけさせないためにも必死に押さえつける。
「落ち着け、エーデルフィア! 理性を取り戻せ、バカガキ!!」
「てんめぇ、いっちゃんちいせえくせして、堕竜なんぞに堕ちんじゃねえよ! 未来を担え、若モンが!」
だが、完全に堕竜に堕ちたエーデルフィアに、ほかのドラゴンたちの言葉は届かない。ただただ、暴れ続けるだけ。
その中で、何度か首に剣が刺さったりもしているのだが、それよりも回復速度が速いのか、あっという間にその傷は塞がり、何事もなかったかのように暴れ続ける。
森は焼け、動物たちは焼き殺され、住処を壊される。
だが、堕竜となったエーデルフィアは、それを考えることもなくただただ、暴れ続けていた。
傷ついても、傷がすぐに塞がり、また暴れまわる。それを止めようとするドラゴンたちは次々に傷つき、戦線を離脱する。
その中でも、カーヴァンキスやオースティア、サーファイルスは諦めなかった。必死でエーデルフィアを止めようとし、傷つけることをできるだけ避けていた。
だが、そうしていては、理性のないエーデルフィアからすればいい的であった。エーデルフィアはその三人めがけて炎を放つ。三人が傷つき地面に落ちて行っても、それでもエーデルフィアはとどめを刺すべく、炎を飛ばし続けていた。
だがそれを傍観している仲間たちではない。それに気が付いた仲間たちがエーデルフィアに剣を突き刺し、注意を逸らす。突然刺されたエーデルフィアは、ターゲットを刺したドラゴンへと切り替え、炎を放つのだが、それは簡単に避けられた。それが悔しいのか、エーデルフィアはそのドラゴンを狙って炎を討ちまくる。
そうしていると、背後から近づいたドラゴンが、その尻尾を剣で先っぽを切り取った。とたんに、エーデルフィアの悲鳴があたりに響き渡る。
「ぐぎゃぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁっ!!」
その悲鳴に、心が痛んだドラゴンたちではあったが、堕竜となったエーデルフィアを救うためだと気持ちを切り替え、痛みにのた打ち回るエーデルフィアにさらに攻撃を加える。
―――――だが、尻尾を切り取られたエーデルフィアの怒りは、尋常ではなかった。今までに見たことのないほどの巨大な炎が、尻尾を切り取ったドラゴンや、その周辺にいたドラゴンめがけて落とされる。咄嗟に水で盾を作るが、その水をもどんどんと蒸発させていった。
「っ! 盾が持たない!! 逃げろっ!!!」
結果、盾とするために出した水のすべてを炎に奪われ、これ以上焼かれる前に逃げ惑うこととなる。そしてその間に、切り取られたエーデルフィアの尻尾は回復していた。
どうすれば、堕竜と堕ちた仲間を救うことができるのか。明確な答えが分からぬまま、ドラゴンたちはとにかくエーデルフィアと戦っていた。
そうしていると、不意に馬の蹄の音が耳に届く。そしてそれはエーデルフィアの耳にも届いたらしく、エーデルフィアは容赦なくそれに炎を飛ばすも、ほかのドラゴンたちが大破させた。
「長老殿! これは、白銀色のドラゴンを救うと言われている聖剣です! これで、そこの白銀色のドラゴンを!!」
そして、それを確認した、馬に乗ってきた人間たちは、急いで聖剣を出してドラゴンへと手渡す。長老が生まれるはるか前から人間たちの国に伝わってきた、堕竜を救うための武器。
人間は、白銀色のドラゴンの姿を確認してからすぐに、その聖剣を探しだし、ドラゴンへと渡すべく急いでかけてきたのだ。
ドラゴンにはドラゴンを。
堕竜には聖剣を。
「長老、その役目は俺が担う。俺は、エーデルフィアの兄だ。兄として、俺は妹を救う」
そして、その剣を振るう役目は、兄、カーヴァンキスの志願により、カーヴァンキスとなった。最初はフォンシュベルが親としてやる、と言っていたのだが、一度、エーデルフィアの首に剣を突き刺し、殺そうとしたのだ。すでにその一度だけでも精神的にかなりのダメージがあるだろうと考えたカーヴァンキスが、その役目を奪い取った。
そして、聖剣を持ったカーヴァンキスは、白銀色へと変わり果てたエーデルフィアの目の前に立つ。その手に、彼の妹を救うための武器を持って。彼は、救うために、今から妹を殺すのだ。
「エーデルフィア、今、楽にしてあげるね」
「私も手伝うからね」
「当然、俺もね」
彼が、その意思を失わないためにもしっかりと声に出して宣言すると、その両隣から、彼の弟妹達が協力の声を出す。
「ああ、一緒に、エーデルフィアを救うんだ」
そして、戦いの火蓋は切って落とされる。
エーデルフィアと同じく炎を使うオースティアが、エーデルフィアの放ってくる炎をできるだけ制御し、横に流したり奪い取ったりしている間に、カーヴァンキスやサーファイルスは水を使ってエーデルフィアの体を拘束しようとするも、すぐに炎に蒸発させられてしまう。
だがそれでも、彼らは諦めずにとにかく戦い続けた。ほかのドラゴンたちの協力の中で、必死に暴れ続けるエーデルフィアを押さえ付けようと。
「お………にい………ちゃ…………」
その中で、小さく、声が聞こえる。見てみると、エーデルフィアの瞳が、片方だけ赤色に戻っている。わずかながら、理性を取り戻したらしい。
「エーデルフィア!」
「こ………ろして、早く! 今のうちに、………はや……く!!」
「っ!」
「おさえ………てられる………の、すこし………だけ! 早く!」
エーデルフィアがそう言い切ると同時に、また、火柱が上がる。その中に立つエーデルフィアの瞳は、また少しずつ白銀色に浸食されている。
「おに……ちゃん、殺してっ!!!」
浸食されていく中で、エーデルフィアは最後の力を振り絞って、自身の願いを兄に伝える。
これ以上、仲間を傷つける前に、殺してほしい。
これ以上、何も傷つけたくない。
これから解放される方法が死しかないのならば、殺してくれ。
カーヴァンキスたちに襲い掛かりそうになる体を、とにかく全力で押さえつける。その間に、カーヴァンキスは聖剣を持って飛び上がり、
―――――――――エーデルフィアの首を落とした。
次で完結予定。
何ていうか、バッドエンドっぽくなった。