堕ちた竜
複数投稿。
本日、コレの前にも投稿したものがあります。
一気に考え付いたので、
最後までの道を突き進んでみました。
洞窟を抜け出し、自力で先の王を探していたエーデルフィアだったが、しばらく飛び続けて、ウェイリスを無事発見した。それに喜びを感じながら、木の上に座っているウェイリスに近寄る。が、反応がない。
その反応のなさに嫌な予感を抱きながら、エーデルフィアはウェイリスの口元にそっと手を運ぶ。
―――――ウェイリスは、呼吸をしていなかった。
恐る恐る、その心臓に手を当てるも、そこからは本来あるべき音が聞こえない。鼓動を感じない。
――――ウェイリスは、死んでいた。
よくよく見てみれば、ウェイリスの体には大きな傷が走り、その傷から流れたであろう血が服を真っ赤に染めている。その中で、ほかの獣たちに襲われないよう、木の上に上がり、そこで息を引き取ったのだろう。
そこまでは、エーデルフィアも何とか冷静に判断できた。だが、その原因が、許せなかった。
―――ウェイリスをこんなところに追い込んだ、人間が。
―――ウェイリスを死んで当然とまで言い切った、ドラゴンが。
その瞬間、エーデルフィアの中を、恐ろしい勢いの魔力が手足の先から頭までを走り回り、そして、―――――――勢いよく放出された。
それは火柱となり、森を燃やす。それは火柱となり、人に恐怖を与える。それは火柱となり、居場所を知らせる目印となる。
それから少しして、相当な速度でやってきたドラゴンたちは、その火柱の中心にいるエーデルフィアをしっかりと見据える。
瞳の色が、赤から白銀色に変わったドラゴン。それは、堕竜への変化の証。
堕竜とは、理性を失ったドラゴン。理性を失ったドラゴンは、何も考えず、ただただ破壊行動を繰り返す。
完全に堕竜となったドラゴンを救う手だてはない。これ以上の破壊をさせる前に、殺すだけ。
堕竜の証は、白銀色の体躯に、同じく白銀色の瞳。ドラゴンの体表の色、瞳の色が完全に白銀色になった時、ドラゴンは完全に堕竜に堕ち、破壊を繰り返すことになるのだ。
「エー…………デル、フィア?」
一番初めにエーデルフィアのもとにたどり着いたのは、急いで飛んできたフォンシュベルとエイシェリナだった。二人は、瞳の色が白銀色へと変化した娘を見て、声を失う。
それは、少し遅れてやってきたカーヴァンキスやオースティア、サーファイルスもそうだ。三人とも、火柱の真ん中で立ち尽くした、白銀色の瞳をした妹を見て、同様に声を失っている。
「エーデルフィアっ!!」
そんな中で、サーファイルスが、大きな声で可愛い妹の名を呼んだ。はっきりと、しっかりと聞こえるように。
だが、そのエーデルフィアから返ってきたものは返事ではなく、地面をも溶かすほどの高温となった炎だった。咄嗟にオースティアが炎を操り、サーファイルスも水の盾で防御をする。
そうしていると、この巨大な火柱を目印に、各地に散らばっていたドラゴンが次々に集まり始めていた。
長老一家、キースエリナたち一家。エーデルフィアもよく知る者たちも集まるが、エーデルフィアは気にも留めず、ただただ、火柱の中心に立っていた。
集まったドラゴンがエーデルフィアの名を呼べば、そこには高温の炎が襲い掛かり、かといって黙ってみているわけにもいかず、水が得意なドラゴンたちは少しずつ鎮火に走っていた。もう少し火の勢いが収まらなくては、ほかのドラゴンたちもエーデルフィアには近寄れないのだから。
そうしていると、ついに、エーデルフィアの体表の色にも少しずつ変化が表れ始めた。真っ赤だった体が、少しずつ白銀色へと変わり始めていたのだ。
「いかん! 堕ちるぞ!! フォンシュベル! 親として、エーデルフィアを救ってやれ! これ以上苦しむ前に、殺すんだ!」
「い………やだ。殺したくない、死なせたくない! 何か、ほかに方法はないのか、長老!?」
その中で、親としてエーデルフィアを殺せと言われたフォンシュベルが、泣きそうな目で長老を見る。殺したくない、生きてほしい。フォンシュベルの目は、それを語る。
だが、長老の反応は冷たいものだった。
「馬鹿モン! ほかに方法があれば、先に言っておる! 儂とて、エーデルフィアを殺したくて言っているわけじゃない………。お前は、エーデルフィアに、これ以上仲間を傷つけさせていいのか!?」
「あ…………」
「見ろ。先ほどから、エーデルフィアが炎を飛ばすたびに、エーデルフィアの瞳から涙がこぼれておる。―――辛いんじゃ。解放、してやれ」
長老に言われてフォンシュベルがエーデルフィアを見ると、確かに、仲間たちに炎を投げつけるたびに、その瞳からは涙がこぼれ、熱い、熱い雨としてこちらに降り注ぐ。それを見たフォンシュベルが決意した。
「エーデルフィア。お父さんが、今助けてやろうな。解放、してやる。苦しませない。すぐに楽にしてやるから」
「フォンシュベル、手伝うわ。エーデルフィア、お母さんも、一緒よ。お父さんと一緒に、エーデルフィアを解放してあげるからね。………ゴメンね、私の愛しい子」
二人はそういうとすぐに、エーデルフィアに一歩ずつ近づいていく。そのたびにエーデルフィアが炎を飛ばし、そして同時にその涙も二人のもとへと飛んでいく。
やはり、エーデルフィアにはまだ理性がかろうじてでも残っているのだ。だから、大好きな両親を攻撃しているということに、涙がたくさん流れているのだ。
「大丈夫だよ。泣かなくていい。何も怖くないから」
二人がそう言いながらゆっくりと近寄っていると、炎では意味がないと考えたのか、エーデルフィアの尻尾が二人を横から襲い、弾き飛ばす。
エーデルフィアの気持ちは、二人を傷つけたくない。だが、エーデルフィアの体はその意思に反して、二人を容赦なく傷つける。
思い通りに動かない身体に嘆き、涙を流し、そしてその間もこの身体は少しずつ白銀色に変化をしながら仲間たちを傷つける。
傷つけたくない、殺したくない。そう思っているのに、エーデルフィアのこの身体は、勝手に動いて仲間たちを傷つけるのだ。
――――殺して。お願い、殺して!
心の中でその言葉を叫んでも、エーデルフィアの体は、喉は、それを音として外に発しない。その言葉は、フォンシュベルたちには伝わらない。
死を願いながら、この身体はどんどんと仲間たちに傷をつけ、血を流させていく。
そうしていると、不意に、エーデルフィアの視界からフォンシュベルが消える。
そしてエーデルフィアが気が付いたときには、フォンシュベルはエーデルフィアの背に乗っており、泣きながらその手に持った剣を、エーデルフィアの首につきたてた。
「すまない、エーデルフィア」
首に刺さった剣の部分から、赤い、赤い血が噴き出す。止めどなく、噴水のように飛び出していく。
そして、白銀色に変わりつつあったエーデルフィアの体は、白い光に包まれる。
光に包まれて、自然に還って行くのか。これを見ていたドラゴンたちはみな、そう思いながら、エーデルフィアの冥福を祈りながらそれを見る。
だが、その光が晴れた時、そこには体を完全に白銀色に染めたエーデルフィアが立っていた。