密室の王
お久しぶりです!
お待たせしました!
随分と更新が遅れて申し訳ありませんでした。
なかなかネタが浮かばず、ここまで
かかってしまいました。
おそらく、今後もこのくらいのペースになると思います。
読んでくださる方々へ感謝を込めつつ、
申し訳ない報告とさせていただきます。
「くぉら、蜥蜴共! 聞いているんだろう、出せ! 出せっつってんだろ!」
カーヴァンキスに閉じ込められた先の王は、しっかりと暴れていた。
「出ーせー! 出せと言っているだろうがっ!!」
先の王がどれだけ暴れても、誰もその部屋の近くへは近寄らない。カーヴァンキスは、先の王がどれだけ騒いでも自分たちに被害がないように、随分と奥の部屋に閉じ込めていたのだ。
「くそう、何が目的だ、大蜥蜴共め」
あまりにも動かない目の前の扉。それを前に、先の王は、悪態をついていた。聞いているもののいない悪態。ソレは何と意味の無いものか。
そうしていると、先の王の耳に、ふと足音のようなものが届く。
「くおらぁっ! 出せ! 出さんか!!」
「うるさいぞ、先の王。わざわざ草を持ってきてやったんだ、食え」
「いらん! そんなことより、出せ!」
「まったく、本当にやかましい。いいから、食って寝ろ。明日になったら、エーデルフィアに顔を見せて、追放してやる」
「何故、あのチビ大蜥蜴に会わせる必要がある!? いいから出せっ」
先の王の閉じ込められた部屋に来たのは、カーヴァンキスだった。一応、先の王の食事を持ってきたらしい。
そして、きゃんきゃん騒ぐ先の王を、拳の一撃で黙らせた。
「うるさいぞ、先の王。お前は犬か? 吠えるしか知らない、馬鹿犬が」
「ぐっ……きさ………ま……」
「黙れ、この馬鹿犬が。もっと躾が欲しいか」
「ぐ……う………」
そして、尚も吠えた先の王の胸倉を掴み、軽々と持ち上げる。それによって、先の王の息が詰まり始めていた。
「ああ、首が絞まっているのか。………いっそ、ここで死ぬか? なら、一思いに殺してやる」
「だ………れが、そう簡単に……ころ、されっ……ものか……」
「なら、もう少し楽しませろ、ボケ」
カーヴァンキスは先の王の言葉ににやりと笑い、一度下ろす。そして、次は先の王の腕を掴み、しっかりとねじりあげた。
腕をねじりあげられた先の王は、その痛みから逃れるために体をひねり、そして結果、カーヴァンキスに背を見せることになった。
「この弱さで、どうやって楽しませてくれるんだかな。今の貴様なら、エーデルフィアでも片手で倒せるだろうさ」
そして、カーヴァンキスはそんな先の王を転ばせ、自分はマウントポジションを取る。その後、一応手加減をして、腹に一撃入れた。
「ほら、まだ寝るなよ。手加減はしてるんだから」
「ぐっ………だま…………れ」
それから数分間。先の王の意識が完全に失われるまで、カーヴァンキスの先の王遊びは続いたという。
「ふう、すっきりしたな。先の王、しばらくは黙って寝ていろよ」
そして、しばらく遊び倒して先の王を気絶させたカーヴァンキスは、先の王に言葉が届かないことも承知で、声をかける。
そして、ゆっくりと部屋を出て、可愛い弟妹たちのいる場所へと向かっていった。
「母さん、エーデルフィアたちは?」
「エーデルフィアは自分の部屋で寝てる。サーファとティアは、そんなエーデルフィアのそばにいるはずよ」
「そ。ありがと」
「ああ、そうだ。エーデルフィアの部屋に行くなら、ティアたちに、あなたたちもいい加減寝なさい、って伝えてくれる?」
「分かった」
弟妹たちがいるだろうと思い訪れたリビングには、彼の目当ての弟妹たちはおらず、両親だけがいた。そのため、カーヴァンキスは母に、弟妹たちの居所を尋ねる。
ちなみに、帰って来た答えは、エーデルフィアに関しては完全に予想通りだったそうな。
そして、母から答えを聞いたカーヴァンキスは、テクテクとエーデルフィアの部屋へと向かう。自分たちの部屋と並んだエーデルフィアの部屋。カーヴァンキスは、目当ての部屋の前につくと、小さく部屋の扉をノックした。
「ティア、サーファ、いるのか?」
「いるよ。どうぞ」
そして、返って来た答えに満足し、カーヴァンキスはエーデルフィアの部屋の扉を開いた。
エーデルフィアは、ぐっすりと眠っていた。そして、オースティアとサーファイルスは、そんなエーデルフィアのベッドに座り、寝顔を眺めている。
「ティア、サーファ。母さんからの伝言だ。いい加減寝ろ、だとさ。俺ももうすぐ寝るし、お前たちも寝ろよ」
「うん、もう?」
「一応、母さんからの伝言だ。逆らったら、あとが怖いぞ」
「サーファ、寝よっか」
「そうだな」
母親の伝言に逆らうと後が怖い、それをよく知っている子供たちは、早々とエーデルフィアの部屋を出て、自身の部屋へと戻る。ちなみにその際、しっかりとエーデルフィアの頭を撫でていくことは忘れなかったという。
そして翌朝。子供たちがまだぐっすりと眠っている中、フォンシュベルとエイシェリナが揃って、先の王の閉じ込められた部屋へと足を向けた。
ちなみに、この二人の行動は、示し合わせたものではない。二人とも偶然に同じくらいの時間に目を覚まし、同じくらいの時間に先の王の元へと足を向けていたのだ。
「まったく、考えることは一緒なんだな」
「これだけ長く夫婦として一緒に暮らしてるんだもの、考えも似るわよね」
「そうだな。………早く、済ませなくては」
「ええ。エーデルフィアが起きる前にやらなくちゃね」
そして、先の王が閉じ込められている部屋の前についた二人は、かけられていた鍵を解除し、勢いよく扉を開いた。
「起きていたか? 先の王」
「貴様等のせいで、しっかりと目が覚めた」
一晩経ったあとも、先の王は先の王だった。ドラゴンを嫌い、とにかく喧嘩を売るおろかな人間。勝てるはずがないのに、それでも一矢報いようと足掻く、馬鹿なイキモノ。
フォンシュベルとエイシェリナは、そんな先の王を憎憎しげに見つめる。これは、ドラゴンから平和を奪った主元凶。
ソレを、二人は許せなかった。だから、エーデルフィアが連れてきた時、とにかく反対した。エーデルフィアがどれだけ必死に頼み込んでも、それでも許そうとしなかった。
まぁ、エーデルフィアの可愛い瞳に負けて、今晩のみの洞窟への滞在は許してしまったのだが。
「目が覚めたのならちょうどいい、出て行け。今ならまだあの子たちは起きてこない。とっとと消えろ」
「ふん、言われなくてもこんな不快な場所からはとっとと消える」
「そうか。ならいい。とっとと消えろ」
そうしてフォンシュベルとエイシェリナがそろって見張りながら先の王を放り出そうとしていると、ちょうどよく目が覚めたらしいエーデルフィアが、寝ぼけ眼で歩いていた。
そして、そのエーデルフィアは、自分の進路に大好きな両親の姿を認め、ぽてぽてと近寄ってくる。
「おとーさん、おかーさん」
「ああ、おはようエーデルフィア。まだ起きるには早いよ?」
「そうね。だからほら、部屋に戻ってもう一度寝たら?」
「んー、―――――あれ? 前の王様だ」
「何の用だ、小さい赤大蜥蜴」
「ねー、前の王様。それ、小さいのか大きいのか分かんないよ?」
「うるさい、赤蜥蜴」
そして、両親の後ろにいた先の国王の存在に気が付き、その後、軽い会話のようなものが展開される。
ちなみにこの間に、フォンシュベルとエイシェリナは額に手を当てて、作戦失敗を嘆いていたそうな。
だが、その間もエーデルフィアは、そんな両親に気付かず、先の王との会話とも言い難い会話を展開させていた。
「大体、なんで蜥蜴? ドラゴンだよ? それも分からないの、前の王様なのに」
「うるさい。貴様らの竜態は、どこからどう見ても蜥蜴だろうが」
「………前の王様、目、大丈夫? 一度医者に診てもらったほうがいいんじゃない? ドラゴンが蜥蜴に見えるなんて、重症だよ」
「私の目は、至って正常だ。勝手に病人にするな、赤蜥蜴」
「だから、蜥蜴っていうなっ!」
「蜥蜴に蜥蜴と言って、何が悪いっ!?」
「だから、蜥蜴じゃなくて、ドラゴンだって何回も言ってるじゃないか!」
「貴様も、俺のことを前の王様としか言わないだろうが!」
「だって、名前知らないもん!」
「なら、俺とて貴様の名を知らん。だから、蜥蜴でいいだろうが!」
「エーデルフィア」
「は?」
「私の名前。エーデルフィアだよ。ほら、名前知ったんだから、蜥蜴っていうな」
途中からすでに言い争いまで発展したこの二人の会話は、エーデルフィアが自己紹介をしたところで、一応の終息を見せた。
そして、エーデルフィアの自己紹介を受けた先の王は、エーデルフィア、エーデルフィア、と、何度か口の中でその名を繰り返す。
「よし、覚えたぞ。エーデルフィア、だな。赤蜥蜴」
「だから、蜥蜴っていうな!!」
「ウェイリス・ジ・オルト・グラディストリ」
「は?」
「俺の名だ。まぁ、もうグラディストリを名乗ることは許されんがな」
「ウェイリス?」
「ああ。そら、これでもう前の王とは言えまい?」
エーデルフィアの自己紹介に、きちんと返事をした先の王、ウェイリスは、にやりと笑い、暗に前の王様と呼ばないよう告げる。
「ウェイリス………ウェイリス……、ウェル! よし、今度から前の王様のことは、ウェルって呼ぶ!」
エーデルフィアが言うと同時に、ウェイリスは目を真ん丸にする。そんなウェイリスに驚いたエーデルフィアが、恐る恐る、問いかけた。
「嫌?」
「……いいや、嫌じゃない。愛称というものが、久しぶりで驚いただけだ」
「………誰も、呼んでくれなかったの?」
「ああ。俺は王だったからな。それに沿った呼び方しかされなんだな」
「それ………、寂しいね」
「その頃は何も思わなかったが、今思うと、寂しいものだったのだな」
「うん、すっごい寂しいよ、それ」
いつの間にか、怒鳴り合いではなく、普通の会話になっている二人。そんな二人の様子を、フォンシュベルとエイシェリナは、少し驚いたような表情で見ていた。
そこで、子供というものは、ひょんなことで、いろんな人と仲良くなれる生き物だということを、再認識したそうな。
そして、再認識した二人は、傍観の立場を抜け出し、二人に声をかけた。
「さて、そろそろいいか、エーデルフィア?」
「エーデルフィアはこっちにいらっしゃい?」
「うん? どうしたの、お父さん、お母さん」
そうしてエイシェリナに呼ばれたエーデルフィアは、素直にウェイリスから離れ、母の腕の中に飛び込んでいく。
その後、静かにウェイリスをにらんでいるフォンシュベルに目を向けた。
「さて、先の王。そろそろいいだろう? 出ていけ」
「え!? なんで追い出しちゃうの!? 追い出したら死んじゃう!」
「それでいいんだ。こいつは、ドラゴンに無駄に迷惑をかけた。そのくらいは当然なんだよ、エーデルフィア」
「ダメっ! 死んでいい命なんてないんだよ!? それなのにっ……」
フォンシュベルからウェイリスへ向けられる、冷たい言葉。だが、それは真実で。ウェイリスがドラゴンへかけた迷惑は、彼が一生かけても償いきれないほどのもの。それを知っているから、フォンシュベルはわかっていて、追い出そうとしているのだから。
「お母さん、離して! このままじゃ、お父さんがウェルを追い出しちゃう!」
「エーデルフィア、分かりなさい。アレは、ドラゴンの敵よ」
「そんなことない! ウェルだって、後悔してる、反省してる!」
「じゃあ、その証拠は? 証拠がないなら、お母さんたちは、先の王を容赦なく追い出すわ」
「えっと………えっと………」
「――――もういい。ありがとう、エーデルフィア」
それは、ウェイリスが初めてまともに、エーデルフィアに向けてきちんと名を呼んだ瞬間だった。
そして彼は、自ら洞窟の出口へと足を進めていった。