先の王の処遇
お久しぶりです、
何とか一月以内に更新できました。
「捨ててきなさい」
「何で? 捨てたら死んじゃう!!」
「ダメだ。元いたところに捨ててくるんだ」
「お父さん、お母さん、どうしても……ダメ?」
「………ダメだ。カーヴ、捨てて来てくれ」
「分かった」
「お兄ちゃんダメぇ!!」
カーヴたちが、エーデルフィアの希望に沿って渋々ながら先の王を自分たちの住む洞窟へと連れてきたのだが、それを見た父、フォンシュベルの反応は見事なものだった。
捨てて来い、の一点張り。
そしてそれに現在反対しているのはエーデルフィアだけであり、勝機は完全に失われていた。だが、エーデルフィアは諦めない。
「そんな、ひどいこと言うお父さんたちなんてヤだ! いつもの優しいお父さんたちがいい!」
「おやおや、お父さんはいつも優しいぞ? ただ、先の王に関しては心の底から殺したい」
「お母さんも優しいでしょ? ただ、先の王はフォンシュベルと同じで本当に心の底から殺したいとしか思えないけど」
「十分怖いよ!!」
自分に甘い両親に頼んでも無駄、兄たちに頼んでも無駄。その中でもエーデルフィアは考える、先の王を生かす方法を、自分の勝機を。
「あぁ、エーデルフィア、俺とエイシェリナの可愛い子。どうしてそんなにも、先の王を想えるんだい?」
「私とフォンシュベルの愛し子。本当に、この愚か者をどうして親身になって庇うの?」
「ほかの可愛い子たちは皆、意見は一緒だと言うのに」
「可愛いほかの愛し子たちも先の王を庇うことはしないのに」
『どうして、そんなにもコレを生かしたいの?』
だが、そんなエーデルフィアにフォンシュベルやエイシェリナはどんどんと爆弾を落とす。エーデルフィアの考えを変えさせるため、いつもとは口調を変えてまで、攻め込みだした。
そして、その攻めは両親のみに納まらなかった。それに続くように、カーヴァンキスやオースティア、サーファイルスも続けて爆弾を落とす。
「コレを生かしていても、何の利益もない」
「コレを生かしていては、不利益しか被らない」
「コレに、何の意味もない」
『コレを、生かす意味が見つからない』
事前に打ち合わせをしたかのように、音を合わせ、エーデルフィアに衝撃を与える。だが、だがそれでもエーデルフィアの考えは変わらなかった。
「人を生かすのに理由なんていらない! 意味もいらない! 死なせたくないから生かすの!!」
「そうかそうか、エーデルフィアは優しいな。でも、ダメだ。捨ててきなさい」
「こんな迷惑なペットは飼えません。いい子だから捨ててらっしゃい」
「言い損!?」
ちなみに、今の親子の会話を聞いていたカーヴァンキスたち三人は、抑えきれずに軽く噴き出していたと言う。
「お兄ちゃんたち、何で笑うの!!」
その漫才は、辺りが完全に暗くなるまで続けられたそうな。
「辺りも暗くなったし、何よりエーデルフィアがそこまで言うから、仕方ないから今晩はここで寝かせてあげるわ」
「私は頼んだ記憶は無いがな」
「なら死ね」
「そう簡単に殺されるとでも思っているのか? 大蜥蜴が」
「二人ともダメだってば! お父さんもお母さんも前の王様に喧嘩売りすぎ! 前の王様もお父さんたちには逆立ちしたって勝てないんだから喧嘩を買おうとしないで!」
何でそんなに命を無駄にするかなぁ! エーデルフィアは両親や先の王の間に立ち、先の王の目をジッと見据え、言う。
「前の王様、あなたにも、あなたが死んだら悲しむ人がいるでしょう? なのに、どうして」
「悲しむものなどいない」
「いるんだよ、この馬鹿王」
誰だって、死ねば悲しんでくれる人がいる。私は、そうやって悲しませてきた。悲しませて、私はこの世界で新たな生を得た。
エーデルフィアはそう考えていても口には出さない。先の王には、自分でそこまでたどり着いて欲しい、そう思ったからだ。
「とりあえず、今晩は俺がコレを見張っていよう。だから、安心してお休み? 大丈夫、殺さないし、死なせやしないさ。――――まだ、な」
「言うことが怖いっ!!」
エーデルフィアはそう言って食いかかっていながらも、自分が起きていられないのは確実であるが故に、一応、父を信用することにしたらしい。
「さぁ、エーデルフィアも納得したようだから夕飯の支度にかかるか。先の王、お前は草でも食ってろ」
「言われずとも自分で何とかする」
「お父さん、けち」
「いやだなぁエーデルフィア。人とドラゴンでは食べるものが違うだろう? だからじゃないか」
「………そうなの?」
「そうとも」
フォンシュベルはにっこりと微笑みながら言うが、実のところ、現在エーデルフィアたちが食べている者は人間が食べても何の違和感も感じ得ないもの。ただ単に、フォンシュベルは先の王に自分の料理を食べさせたくなかったのである。
そして、この世界の人間のことを知らないエーデルフィアは、あっさりとその言葉を信じてしまった。
「お父さん、意地悪いなぁ」
「だよなぁ」
「ま、だからといってとめるつもりは無いが」
「お兄ちゃんたち、どういうこと?」
そして、兄妹たちはそんな父を見て呟き、そしてその呟きをエーデルフィアがしっかりと聞き届けた。そして尋ねる。
「どういうことって、なぁ」
「エーデルフィアは知らなくていいこと。ね?」
「そうそう。ほら、疲れたよね? ご飯まで時間あるだろうし、お昼寝しようか」
そうしてまだ幼い末娘を寝かせるために部屋へと送り、そして夢の世界に旅立ったのを確認して、送り届けた兄妹たちは両親の元へ戻る。そして、先の王へ向き直った。
「貴様が今晩のみ、この洞窟にいることを黙認する。が、明日の夜が明けたらすぐに出て行け。エーデルフィアが貴様に執着する前に、とっとと消えろ」
「まったくもう、エーデルフィアも何でこんなものに興味を持ったんだろう」
「小さい子供特有のなんにでも興味を持つあれじゃないの?」
「あー、そうねー。サーファもすごかったっけ」
「え!?」
サーファイルスの疑問にカーヴァンキスが答えると、それにオースティアが懐かしむような目をしながら告げる。それに、サーファイルスが目を剥いた。
「ちょ! 俺、何してたの!?」
「何って、ねぇ」
「なぁ?」
「言ってよ! 俺、気になって寝れもしないじゃないか!!」
目を剥いたサーファイルスは、自分の過去を必死で聞きだそうとするが、カーヴァンキスもオースティアも、苦笑を浮かべるだけで、答えを返すことはしない。それが、さらにサーファイルスを不安の淵へと追い込んだ。
ちなみに、先の王はこの隙にこっそりと逃げ出そうとしていたのだが、それはにっこりと微笑んだフォンシュベルが阻止した。
「どこへ行く、先の王」
「うるさい。蜥蜴に言う必要もあるまい」
「ここで貴様を逃がすと、エーデルフィアに泣かれるからな。大人しく、夜が明けるまではここにいろ」
「どうしようが私の自由だろう。そう、赤い蜥蜴にも言っていろ」
「そうかそうか、どうしても出て行くというのならば………」
フォンシュベルがそう言うと同時に、フォンシュベルの拳が先の王の腹部にきれいに入る。その瞬間に、先の王は小さくうめき声を上げて、気を失った。
「カーヴ、コレを、適当に転ばしておいてくれるか?」
「分かった」
そして、頼まれたカーヴは、洞窟の奥深く、案内人がいなければ迷うような場所にある部屋に先の王を放り込み、外から鍵をかけた。……それ、俗に監禁という。
その後、お昼寝から覚めたエーデルフィアがまだ若干寝惚け眼で、フォンシュベルたちのいる部屋へ、フラフラとしながらやってきた。
「おはよう、エーデルフィア。大丈夫か?」
「おふぁよ、おとーしゃん、おかーひゃん。眠いけど、お腹すいたよぅ」
「はは。じゃあ、少し早いが用意をしようか。エーデルフィアはエイシェリナと一緒に待っているんだよ」
「うん。おかーさん、ねむいー」
最早先の王の存在を忘れるほどに寝惚けきっているエーデルフィアは、喜んでエイシェリナの胸に飛び込んでいく。そして、再びすうすうと心地よい寝息をたて始めた。
「ふふ、まーた寝ちゃった」
「だな。こうやって寝てると、エーデルフィアって本当にまだ子供だよね」
「事実、まだ子供でしょ。ちなみにサーファ、あなたも立派に子供だからね?」
「うえ? 俺、とっくに成人したぜ?」
「あなたの考えは立派に子供よ」
そう言われてサーファイルスはへこむものの、だが、その直後にエイシェリナにべったりと引っ付いて眠るエーデルフィアを見て、相好を崩す。
「そうやって変なこと言われても、エーデルフィアを見ると、まあいいやって気持ちになれるのが不思議だよね」
「こうやって眠ってると、本当に昔から変わってないからね」
「サーファも、昔はこんなだったのに。エーデルフィアみたいに、お母さん、って言って引っ付いてきてくれてたのに」
「そうそう。それで私がよくさー、サーファイルス呼んでたんだよね」
懐かしい。エイシェリナやオースティアはそう言って、遠くを見る。サーファイルスの小さかった頃を思い出しているのだろう。
「サーファも、お母さんにべったりだったもんな。オースティアは基本、俺に引っ付いててくれたけどな」
「そうだっけ?」
「ああ。オースティアはお父さんとお母さんが文句を言うくらい、俺にべったりだったぞ? ………最初は避けられたけど」
それを告げるカーヴァンキスの瞳は、寂しげだ。思い出して、また悲しくなったのだろう。
「えっと……、その、ごめん?」
「いや、謝らなくていいさ。小さい頃だしな」
「んみー……、ねむいー、うるしゃいー」
そうして話をしていると、突然、母のそばから小さな文句が飛んできた。見てみると、エーデルフィアが薄目を開けて、カーヴァンキスたちを見ていた。
―――だが、それでもエイシェリナから離れる気配を見せなかった。
「お兄ちゃんたち、うるしゃい。……眠いんだよぅ」
「ああ、ゴメンねエーデルフィア。ほら、いい子だから部屋で寝よう?」
「やだぁ。お母さんといるもぉん」
そう言いながらも、エーデルフィアの瞳は再び閉じられていく。言ったとおり、完全にまだ眠たかったようだ。
再びその瞳を閉じたエーデルフィアは、母の胸に完全に収まり、心地よさそうな寝息をたてる。すうすうすやすやと、気持ちよさそうに眠っていた。
「よしよし、ゆっくり寝てなさいね」
そんなエーデルフィアを、エイシェリナは優しく抱きしめ、背中を定期的に叩く。それだけで、エーデルフィアの寝息は更に穏やかなものになっていった。
「また、完全に寝た?」
「みたいよ。ぐっすり」
「うおーい! ご飯の準備、出来たぞー! 誰かエーデルフィアを起こしてきてくれ」
が、その直後にちょうどいいタイミングとか言いようのないタイミングで、フォンシュベルが食事の準備の完了を知らせた。
「……って、いたのか。………起きてるのか?」
「寝てるよ」
「そうか。……エーデルフィア、ご飯の準備が出来たよ。お腹空いたろう? 起きて、ご飯を食べたらまた寝ような」
「………ねむい、よぉ……」
「食べたらまた寝てもいいからな」
フォンシュベルのその言葉で、エーデルフィアはぼんやりと目を開く。
「おはよう。さ、ご飯食べようね」
「おふぁよ……。……おやふみ……」
「こら、起きなさい。ご飯食べないと、大きくなれないぞ」
「寝ても、大きくなれるよぉ……」
どれだけ眠たいのか、エーデルフィアは結局、再び眠りに落ちた。
そして当然、今のエーデルフィアに、先の王のことを考える余裕など、ない。
先の王は閉じ込められた部屋で、散々出ようと足掻いていたそうな―――