甘えます
「お父さん! お母さん!」
「エイシェリナ! 久しぶりだな、元気だったか?」
「ああ、もっとよく顔を見せて? 何十年ぶりかしらね」
あれから一日飛び続けて、私たちはじいちゃんたちの住む洞窟に来ていた。おお、あれがじいちゃんとばあちゃん。どこかお母さんと似てる。さすが。
そうしてじいちゃんとばあちゃんとお母さんが触れ合っていると、不意にじいちゃんとばあちゃんの目が、私たち四人に向けられた。
「おお。大きくなったね、カーヴァンキス、オースティア、サーファイルス。サーファイルスは、じいちゃんたちのことは覚えているかな?」
「久しぶり、じいちゃん、ばあちゃん」
「覚えてるよ。最後に会ったの、俺が大人になったばっかりの頃だぜ? 忘れないよ」
「そうかそうか。それはよかった。―――で、ティアの横にいるのが、エーデルフィアかな?」
「あ、うん。ほら、エーデルフィア。挨拶は?」
「えっと、エーデルフィアです。……じいちゃん、ばあちゃん?」
「可愛いっ!! やっぱり子供っていいわね」
「よね!」
「んもう、エイシェリナったら羨ましい! どうやったら、こんなに子だくさんの親になるの」
「そりゃ、フォンシュベルと励んでるからじゃない?」
…………おかーさーん、それって、子供に聞かせちゃいけない話に発展しない? 怖いなー。
「まあ、いいわ。可愛い孫が四人もいるなんて、私たちは幸せものね。ねえ、あなた?」
「そうだな。二人目が出来た時も喜んだが、まさか四人とはな。フォンシュベル…………、コツを教えろ」
「お互い、愛し合うことじゃないですか?」
「ええい、ぬけぬけと。―――だが、分かってるな? エイシェリナを泣かせたりしたら……………孫たち全員とエイシェリナは返してもらうぞ」
「ちょ! どうして子供達までっ!!」
「当然だろう。子は、父よりも母に懐くものだ」
「だからって!」
「お前がエイシェリナを泣かせなければいいだけの話だろう。違うか?」
「ま、まあそうなんだが……」
そうしていると、今度はじいちゃんとお父さんの話になるのだが……うわー、じいちゃんが本気でお父さんを脅してる。怖い怖い。……でも、本当にそうなったら、私は間違いなくお母さんにつくなー。お母さんのほうが好きだし。そんなこと言ったら、お父さんが本気でしょぼーんってなりそうだから言わないけど。
……にしても、今のお父さんの落ち込みようが本当にすごいんだけど。本気で、お母さんを泣かせた後のことを考えてるのかな。
「さて、フォンシュベルで遊ぶのはここまでにしておくか。……そうだな、おいで、エーデルフィア」
「ふえ?」
そうしていると、いきなり呼ばれたのでびっくりした。が、素直にじいちゃんの元へ向かう。
「よーしよし、よく来たな。フォンシュベルにいじめられたりしていないか? エイシェリナに、理不尽な叱られ方はしていないか? もししていたら、遠慮なく言いなさい。叱るから」
「う、うん………」
「それで、どうだ? ちゃんと可愛がってくれてるか?」
「うん! 私ね、お母さん大好きだよ!!」
すると、じいちゃんにがっちりと抱きしめられ、ついで胡坐をかいたじいちゃんの膝にぺたんと座らされる。
そして、じいちゃんからの質問に勢いよく答えを返したのだが………あー、ゴメンね、お父さん。
「お、お父さんも好きだよ」
今更かもしれないけど、一応フォローはしとくね?
ちなみに、そうやってフォローを返すとすぐに、お父さんに思いっきり抱きしめられた。
「おとーさん! 痛い、苦しいっ!!」
何でじいちゃんごと抱きしめてるのに、タイトに私にばっかり痛みが来るわけ!? じいちゃんは平気そうにしてるのに。
そうしていると、さすがにじいちゃんが見かねてくれたらしく、お父さんを思いっきりべしりと叩いた。うわあ、いい音。
「フォンシュベル? 子を苦しめてどうするか」
「…………はっ! いかんいかん、ついトリップしていたようだ」
「おとーさん、その言葉で片付けるつもり? ……キライ」
ふんだ! そんな言葉では済ませないからね!!
「おかあさーん」
「あらあら、よしよし。ひっどいお父さんねー。お父さんには、お母さんからしっかりお話するからね。だから、エーデルフィアはちょっとここで、おばあちゃんたちと待っててね」
「え?」
「お母さんは、前お母さんが使ってた部屋でお父さんとお話するから」
「きちんと掃除はしてるから大丈夫よ。安心して、戦ってきなさい」
「ありがとう、お母さん。じゃあ、行きましょうか、フォンシュベル?」
「……………」
というわけで、味方であるはずのお母さんに泣き付く。するとお母さんはにっこり笑顔で私をばあちゃんに引き渡し、お父さんを連れて洞窟の奥の方へと向かう。
何が起こるのかは、敢えて考えるまい。だって、怖いじゃん?
「お父さんもお母さんも、またかぁ。前来た時も、方法こそ違えどもサーファを追い込んで、お母さんがお父さんを制裁にかかったんだよね」
「あの頃のサーファって、大人になったとは言ってもまだ子供だったからね、考えは。泣きはしなかったけど、お母さんの近くに逃げてたっけ」
「だって、あのときは仕方ないじゃないか!」
そう思いつつ、お母さんたちの消えた方向を見ていると、突如お兄ちゃんたちが近くに来て、話し出した。……前も、同じようなことがあったのか。そしてサーファお兄ちゃん、お父さんに何された。
「あの二人なら大丈夫。しばらく戦ったら戻ってくるはずだから」
「あ、やっぱり戦うなんだ」
さっきの表現はお話だったのにね。でも、実際やることは肉体言語での会話のようです。
「気にする必要はないぞ、四人とも。ほら、昨日のうちに摘んだ果物でジュースを作っておいたんだ。飲みなさい」
「あ、ありがとじいちゃん」
「ありがとー。あ、おいしい」
「さんきゅ。……あ、ホントだ。おいしい。じいちゃん、これ、何で作ったの?」
「内緒、だ。ほら、エーデルフィアも飲め」
「うん! ありがとー」
まあ、それは考えないようにしておいて、今はじいちゃんからもらったジュースを飲もう。……………おいしい!
「おいしい! じいちゃん、これおいしい!!」
「そうかそうか。そりゃ、摘みに行ったかいがあるというものだ」
そこまで言うと、じいちゃんはぐるっと見渡し、全員のカップを確認する。ちなみに、全員おいしいと思ったのか、空っぽです。
「お代わり、いるか?」
『欲しい!!』
そしてその後のじいちゃんからの質問には全員で即答。もっと欲しい!!
ちなみに、そうやってみんなでじいちゃんにもらったジュースを飲みながらお母さんの昔の話をじいちゃんやばあちゃんから聞いていると、ボロボロのお父さんと、なんかすっきりした感じのお母さんが帰ってきた。
お兄ちゃんたちに聞いた話曰く、ドラゴンのオスは、基本的にメスや子供に手をあげられないのだそうだ。本能で守る者となっているらしい。
その結果が、お父さんは手を出せずにボロボロ。遠慮なく手を出せたお母さんはすっきりしている、というわけだ。
あ、ドラゴンのメスは自分より小さい同族を可愛がるということが本能に植え付けられてるらしい。オスにもその本能はあるが、メスのほうが強いのだとのこと。