長閑な日常
歩く練習を初めて数ヶ月、やっと歩く分には転ばなくなった。………前と比べれば。そして、走ろうとするともちろんすぐ転ぶ。というか、走り出そうとする前に転ぶ。
でもまぁ、前よりは歩けるから日常生活には困る………けど前よりはいい。
ただし、今の私にぴったりの服もないため、どうしても歩くときに裾を踏んだりして転ぶこともあるが、それもそれ。私が気をつければいいだけの話だ。
うんだって、お母さんが買い溜めておいた服、明らかに大きいんだもん。
初めて人態を取って、帰ってぐっすり寝て目を覚ました後、お母さんにいろいろと服を着せられたのだが、全てが見事に大きかった。
「うーん、予想外だわ……」
「おかーさん、これおっきいよ?」
「うん、分かってるけど………、ここまで差が出るとは………」
あはは、ゴメンね、私お母さんの予想以上に人態を取ったときの姿は小さいみたいだね。
「買いに行こうにも、人間と距離を置きはじめたばかりだし……」
「そういえばそう言ってたっけ」
「距離を置いて早々、服を買いに行くのも……ちょっとね」
お母さんはそう言うと、どこからか針と糸を取り出した。ちょ、ホントにどこから出した!?
「だから、お母さんがサイズ変えるからね。どれからする? エーデルフィア、どれを着たい?」
「え? んっと、えっと………」
どれがいいかな。どれが私の好みかな……。んと、えと………。
「これ! これがいい!!」
黒と白のモノトーンの服。ぱっと見地味だけど、そこいらが私の趣味だ。
だが、お母さんはあまりお気に召していない模様。
「エーデルフィア、もっと、こう、可愛らしいものから着ない?」
「でも、これがいいな? 明るいのより、こっちのほうが好きだもん」
隣にいたお母さんにぎゅーっと抱きついたら、お母さんはそれで陥落してくれたよ。あと、大きいシャツを着てるのも効いたかな?
だって、こうさ、小さい子が大きい服を着てると、………萌えるよね。
「んもう、可愛いんだから。でも、今は少し離れてね? 危ないから」
「え?」
「オースティア、エーデルフィアをお願い」
「うん。ほら、お母さんは針使うから危ないよ。だから、お姉ちゃんと一緒にいようね」
きゃんっ。いきなり抱き上げられたからびっくりしたよ。でもまぁ、確かに危ないことは危ないので気にしない。
そうしている間にも、お母さんは布を折り曲げ、私が成長したらまたサイズを変えて着れる様に服を折り曲げて縫っていたよ。
そしてしばらくして。
「出来た。さ、着てみて。大きかったり小さかったらまた大きさを変えるからね」
「うん」
お母さんとお姉ちゃんの手を借りて、せっせと服を着ていく。だって、人間の手足って、まだ慣れてないから使いにくいんだもん。
後は、ドラゴンのときと比べて重心が変わってるっぽくて、上手に立ってられないんだよね。立ってるだけでも転ぶ、私ヘボい。
「あらー、まだちょっと大きいかな」
「でも、このくらいなら大丈夫だと思うよ? ありがとうお母さん」
確かにちょっとは大きいけど、このくらいすぐに大きくなってみせる!! 大きくなるよ!
「なら、ほかの服もこのくらいに揃えなくちゃ。オースティア、手伝ってくれる?」
「いいよ。じゃ、エーデルフィアは………………」
「お兄ちゃん、一緒にいてくれる?」
「いいよ、おいで」
「カーヴァンキス、私の目の届かないところには行かないでね」
お兄ちゃん、抱っこー。自分で歩くとこけるから、お兄ちゃん抱っこしてー。
「分かってるよ。エーデルフィア、こっちにおいで。ここで本を読んであげようね」
「普通の本ね!!」
「分かってる分かってる。普通のを適当に選んでくるよ」
本当に普通のだろうね!? お兄ちゃんの普通は信用ならないんだ! ………前例があるから。
そしてやっぱり、お兄ちゃんの持ってきた本はやっぱり変な本だった。ドラゴンのときみたいにとび蹴りをかましてやった。
「うおわっ! 危なすぎる!!」
「お兄ちゃんが変な本を持ってくるからだよ!!」
「危ないだろう! 落ちちゃうから!!」
お兄ちゃんたちが支えてくれるでしょ? それに、落ちても別にどうでもいいもん。どうせ痛いのは私だもん。
ま、お兄ちゃんがしっかりと支えてくれたんだけどね。おかげで、落っこちずにすんだよ。
「ふう、頼むから暴れてくれるなよ」
「お兄ちゃんたちが普通の本を持ってくれば、こうならなかったもん」
実際そうだもん。お兄ちゃんたちが普通の本を持ってくれば、私が飛び蹴りをすることもなかったんだい。
だから、ね? 私が自分で本を選びたいな。だから、一緒に選びに行こう?
「お母さん、自分で選びに行ってもいい? お兄ちゃんたちが選んだら、変なのばっかりだからイヤだなぁ」
「んー………、絶対に、気をつけなさいね? 家の中だからって、カーヴたちから離れないのよ? 何かあったらすぐに呼びなさいね?」
「うん、分かってるー」
それにね、よく考えてねお母さん。私今、自分で歩けないのよ? 自分で歩こうとしたら即座に転んじゃうんだよ? その状況でお兄ちゃんたちから離れるはずがあるわけないじゃないですか。
んでね、えっと、何かあったらって、何も起こらないと思うよ? だって、ここ家だし、お兄ちゃんたち以外に誰かいるとしたらじいちゃんばあちゃんくらいだしさ。
「大丈夫だから、見てくるねー」
だからお兄ちゃん、抱っこー。
「分かった分かった。ほーら、行こうなー」
うん、本見に行こー。私も大分読めるようになったけど、読めないのは全然読めないしね。
だから、説明してー。読めない部分の説明が欲しいなー。
「よし、着いた。さ、どの本がいい?」
「んっと、じゃ、これー」
んー、ぱっと見だと難しそうだー。お兄ちゃん、この本の概要、教えてほしいな。
「んー、えっと、これはまず主人公が三人くらいいて、一人が罪を……」
「もういい!!」
主人公が犯罪者なお話はもういいもん!!
よし、次だ次!! んっと、どれにしようかな。平和そうなお話………。
「これ!!」
「んー、これは、主人公のすぐそばの人間が犯罪者だね」
「何でまた犯罪者!?」
「何でって、そんな話だから?」
そんなのいや!! 何で私が探したら犯罪者モノ見つかるの!?
「犯罪者関係ないものはないのー!? 探すー!」
「うん、これは犯罪者関係ないよ」
なら、ソレ読もう。お母さんたちのところに戻ろう。お母さんたちのところに戻って、お母さんを心配させないようにするー。
それに、今はお母さんたちのそばのほうが安心できるよね。
だって、あのときの人間は怖かったから。
私の目には、あのとき、私を殺そうとしたナイフが映ってる。
あのナイフは、あと一歩で私に突き刺さろうとしていた。
お父さんたちが来てくれたから助かった。
だけど、あのときお父さんたちが来てくれなかったら、私たちは死んでいた。
「エーデルフィア、どうかした?」
「え?」
「泣いてるよ。何か怖いことでも思い出したの?」
泣いてるの? 無自覚だけど、泣いているのか私は。
「大丈夫だよ、みんないる。みんなが守るからね」
「うん」
そうだね、守ってくれるよね。私も頑張ってみんなを守るよ。出来る限りだけど、それでも頑張るから。
「だから、泣かないで? エーデルフィアが泣いてると、俺たちも辛いんだ」
辛い、か。お兄ちゃんたちに辛い思いをさせないために、急いで涙を拭う。そして、―――にっこりと微笑む。
「うん、大丈夫! ゴメンねお兄ちゃん」
もう大丈夫だから、お母さんたちのところに戻ろ? 戻って、いっぱい本読んで。
サーファお兄ちゃんに抱っこしてもらい、そのまますりすりと甘える。いやー、人間の姿って、お兄ちゃんたちに抱かれて甘える分には最高だね。
「うーん、すりすりと甘えてくれるのは嬉しいなぁ」
「いいじゃないか、可愛くて」
理由は何か変だけど、まぁいいや。とにかく甘えられればそれでいいやー。
「おにーちゃん、もっとぎゅーってして」
そうすれば何があっても離れなくて済む。それだけでかなり安心できる。お兄ちゃんたちとずっと一緒なら、もう平気。怖くないよ。
だからさ、もう離さないで? ずっとそばにいて? ずっと、ずっと一緒。
「んー、このくらい?」
「もっと、もっとぎゅーってして」
「んじゃ、このくらいかな」
うん、そのくらいー。ちょっと痛いくらいが、何があっても離れない感じがするからいいよ。
ちなみに、お母さんたちのところに戻ったら、私は着せ替え人形と化していた。
「エーデルフィア、サイズを見たいから着てみてくれる?」
「あ、これもね」
「わー! いっぱいありすぎるよー!!」
あの時間でどれだけの服のサイズを変更したのさ!? たくさんありすぎるー!
「少しずつ着ようね。ほら、今着てるのを脱いでー」
「ひゃ! いきなり脱がせないでよ!!」
いいきなり脱がされるとひやってするじゃないか! 寒い寒い!
「はい、腕上げて。ばんざーい。はい、いい子いい子」
そうしていると、あっという間に服を着せられた。反射的に指示に従ってしまったよ。
ってか、今回のこれはちょっと大きくない? さっき脱がされたのよりもよっぽど大きいよ? だって、袖から手が出せないよ。
「うーん、もうちょっと縮めなきゃかな」
「オースティア、もう少し頑張りなさいね。エーデルフィア、次はこれね」
って、本当に私は着せ替え人形かよ!? 何着着たり脱いだりってすればいいのかな? ぱっと見、まだまだ何着もあるよね。
まぁ、今サイズの変更を済ませてる分は私の趣味にあってる物ばかりだからソレでいいと思うけど。
「はい、次はこれねー」
そう言って見せられたのは青色のワンピース。やっぱりちょっと大きいかな? でも、可愛いからそれでよし。
「まぁ、すぐ大きくなるよね」
「うん、大きくなるよ!」
って言うか、意地でも大きくなってみせるし!
と言うわけで、本を読む暇も与えられずにいっぱいの服を着せられたよ。可愛いのがいっぱいだったからよかったんだけどさ。
そして今は、最初に着たいって言ったあの服、白と黒のモノトーンの服だ。
「みんな、ご飯出来たぞー!!」
そうしていると、ご飯が出来たらしくお父さんが私たちを呼んだ。お腹空いた、ごはーん!!
2/2
すみません、文章の最初の方と最後の方で矛盾してましたね。
訂正して矛盾点は削りました。
が、まだ矛盾点があるかもしれませんので、
見つけた方、報告お願い致します。