敵を知った日
無断外出から十年のときが流れました。やっと、やっと私の外出禁止が完全にとかれました!! 長かったよ! お父さんたちにはたいしたことない期間だったのかもしれないけど、私にはすっごい長かったよ!
まぁ、それまでも何回かお試し期間的な感じでお母さんと一緒に少しだけお出かけ、くらいならやったんだけどね。
でも、町に出ること言うことはなかった。あくまで、山だけ。だから退屈だったんだよー!
「いい? 久しぶりだからってはしゃぎすぎないの、絶対にカーヴたちから離れたらダメだからね?」
「うん! 分かってるよ! 絶対にお兄ちゃんたちと一緒にいるから」
久しぶりの町だー! お兄ちゃんたちと一緒にお出かけだー! うん、すっごい楽しみだよ?
「いいか、絶対に、絶対だからな?」
「うん!」
だから分かってるってばー。お父さんもお母さんもしつこいなー。お兄ちゃん、お姉ちゃん、いいから行こうよー。
そうしないと退屈なんだってばー。はーやーくー!
「お兄ちゃん、エーデルフィアがそろそろ限界みたいだよ? いいから行こうよ。エーデルフィアは、きちんと約束を守れるいい子だよね?」
「うん! いい子だよ! だから早く行こー」
「だって」
「ははっ。分かった分かった。なら、行こうか」
うん! いい子だから行こう! 私が再び元気いっぱいに言うと。カーヴお兄ちゃんは淡く微笑みながらドラゴンの姿に戻り、ティアお姉ちゃんは私としっかりと手を繋ぐ。そしてサーファお兄ちゃんと余ったもう片方の手を繋いだ。
よし、準備万端だよ行こー!!
「んじゃ、行って来るね」
「あぁ、気をつけるんだぞ」
「何かあったらすぐに帰ってきなさいね」
むー、お母さんたちが過保護になってるよ。大丈夫だって、お兄ちゃんも、お姉ちゃんもいるんだから。この三人がいれば、私は大丈夫だって。
そうやってしばらくお父さんとお母さんを納得させて、私はお兄ちゃんの背に乗って町へと出かける。
うわぁ! お母さんたちと一緒に外に出て、遠目に眺めるくらいのことはしてたけど、こんなに間近で見るのは相当久しぶりだぁ。
エーデルフィアと町に行くのは、いつ以来かなぁ。お兄ちゃんの背で、お姉ちゃんたちが微笑みながら問いかけてくる。
うーん、外出禁止の前に一緒にお出かけしたのが最後だから、とりあえず十年以上は前だよね。
「十年、十年……かぁ。短いようで長かった……」
「よねー。エーデルフィアが生まれてから、十年をこんなに長く感じたことはなかったわ」
あはは、私もこの十年がとっても長かったよ。大体、私ってまだ六十歳とちょっとしか生きてないから、十年はとっても長かった。
だからね、お兄ちゃんたちとのお出かけ、楽しみなんだよ。
「よーし、着いた、降りてくれ」
山を下りるとすぐにお兄ちゃんは言う。そうやって私たちが降りると、お兄ちゃんはすぐに人態を取った。そして私の手を握る。
「ここまではティアとサーファと繋いでたんだから、今度は俺でいいだろう?」
「うん! 今度はカーヴお兄ちゃんとだね」
私としても、カーヴお兄ちゃんと手を繋ぐのはイヤじゃないし、寧ろ嬉しいからね。
「よーし、走るぞ。エーデルフィアは飛んでおいで。いいね?」
「うん!」
手を繋いだままだと飛びにくいから、その間だけは手を離すね。でも、町に着いたらまた手、繋いでね。
「ふいー、着いたな。みんないるか?」
「えーっと……、うん、いるみたいよ」
「カーヴおにーちゃん、手ー繋いでー」
「エーデルフィア、反対側は俺が手を繋いでいい!?」
「うん! じゃあ、帰りはティアお姉ちゃん、手を繋ごうね」
そうすればみんな公平だから喧嘩したりしないよね、あははははー。
「うん、約束だよ、エーデルフィア」
約束ー! と言うわけで、今日はいっぱい町を回ろうか。久しぶりの町だから、いーっぱいうろうろして回りたいなぁ。
中々動き出さないお兄ちゃんたちに、少し目を潤ませて訴える。そろそろ、行こう? ね?
「よしよし、じゃあ行こうね」
そうしてお兄ちゃんたちと町をうろつく。うわーい、久しぶりの町ー! 楽しいー!
あー! 来なかった十年の間に何か増えてる、あれ何ー!?
「エ、エーデルフィアのテンションが恐ろしいな」
「十年ぶりだし、仕方ないんじゃないか?」
そうだよ、十年ぶりなんだよ!
「あー! あれ何見に行く何ー!?」
やばい、自分でも分かるくらいにテンションがヤバイ。暴走状態入っちゃったよ、お兄ちゃんたちの手を振り切って興味のあるものに突っ込んじゃったよ。
それが、誤りだったんだ。
気がついたら路地裏のような場所にいて、その瞬間目の前が真っ暗になって、そのあとに気がついたら、………お兄ちゃんたちの手足はロープで拘束されていた。
「エーデルフィア!!」
「気がついたのね、大丈夫!?」
「怪我は無い!? 平気!?」
「ふえ……?」
最初は、何が起こったのかまったく理解が出来なくて。何故兄と姉がロープで拘束されているのか、まったく分からなくて。
そして、自分自身も首にロープがかけられていて、兄や姉に駆け寄ろうとするとロープがしまり、私自身の首が絞まることにも気がついていなかったんだ。
「エーデルフィア、動かないで! 動いたら危ないから!!」
お兄ちゃんたちがそう告げる理由も分からず、ただただ大好きな兄姉に近寄ろうとして、私は初めて自分の置かれている状況を理解した。
――――人間に捕まり、拘束されている、と。
「動いたら首が絞まっちゃうから動いちゃダメだからね? いい?」
「うん……」
お姉ちゃんに問われてとりあえず頷く。でも、本当はお姉ちゃんたちに飛びつきたいよ! いっぱいじゃれたいよ!
「―――……全員、静かにしろ。誰か、来る」
そうしていると、突然カーヴお兄ちゃんが言う。誰か来る? 誰だろ。
「おんや? 兄貴、全部目を覚ましたみたいですぜ」
「おぉ、そうか。ふひゃひゃ、面白そうじゃんね」
お兄ちゃんの言っていた誰か、とは人間だった。下卑た笑みを浮かべるニンゲンという生き物が二匹。
そんなニンゲンの二匹を、カーヴお兄ちゃんは思い切り睨みつける、が、お兄ちゃんがロープで縛られ、身動きが取れないためかニンゲンは何の反応も返さなかった。
「しかし、今回は随分と大きいのばかりじゃんね。……売り物になるのは、そこの赤いドラゴン一匹くらいじゃん?」
「いえ、そこの青髪の小さいほうもまだ何とか……」
「まぁ、安いと思うじゃんね。でも、ただよりいいじゃんね」
………このニンゲンの言っていることが理解出来ない。
売り物? 何? 私は売り飛ばされるの? お父さんやお母さん、お兄ちゃんお姉ちゃんたちから離されて、私は売られるの?
「でしたら兄貴、この赤青二匹はどうするんですか?」
「決まってるじゃんね。………殺すじゃんね」
「しかし、竜神ですよ、兄貴!?」
「生かしてたら、俺たちの命が無いじゃんね。殺すしか無いじゃんね」
「そ、それもそうっすね」
………何だって? 今、このニンゲンと言う下等生物は何と言った? お兄ちゃんたちを殺す、とそう言わなかったか?
私がそう考えている間に、ニンゲンの一匹はカーヴお兄ちゃんとティアお姉ちゃんの首にロープをかける。
そして、私とサーファお兄ちゃんを縛る縄は、しっかりと「じゃんね」と言う言葉を繰り返す下等生物に掴まれた。……動けない。
「いいじゃんね、やるじゃんね」
そして、一匹がそういうと同時に、もう一匹はお兄ちゃんとお姉ちゃんの首にかけたロープを、思い切り引っ張った。
サーファお兄ちゃんが二人を助けようとロープに縛られたままで必死で足掻く。だが、そんなサーファお兄ちゃんを一匹は蹴りつける。
その間も、カーヴお兄ちゃんとティアお姉ちゃんの首はロープによって絞められ、息が出来なくなっている。
――――助けて。誰か、二人を助けて。
――――助けたい。二人を助ける力が、欲しい。
二人を、二人を……、――――私が助ける!!
その瞬間、あたりは光に包まれた。
真っ白な光。混じりけのない真っ白な光。
白い、白いきれいな光。
その光の下で何が起こっているのか。
それは私には分からない。
ただ、光が消えてみると、私の首からはロープが取れていた。
「お兄ちゃん! お姉ちゃん!!」
だから、それを幸いと私は二人のもとへ向かう。二人の首を絞めるロープを爪で無理やり引きちぎる。
そうやって引きちぎった瞬間に一匹に蹴飛ばされたが、それでもまた二人のもとへ向かう。
助けるために。二人の命を奪わせないために。これからも、ずっと一緒に生きていくために。
「っくしょう! もういい、全部殺すじゃんね!!」
一匹がそう言うと、もう一匹はナイフを取り出した。あぁ、それで殺そうとしているのか。……でも、殺させない、私が守る!!
その瞬間にあたりはまた光に包まれた。そして、誰かが私たちを抱き寄せた。
「よく頑張ったね、エーデルフィア」
この声、―――お父さんだ。
光が消えて、冷静にあたりを見回すと、そこには私たちのそばで膝をつき、私たちをしっかりと抱き寄せてくれるお父さんとお母さん、そしてそのそばにじいちゃんとばあちゃん、そして、もう一人知らない人がいた。
「フォンシュベル、エイシェリナ、こいつ等の最終的な処分はお前たちに任せる。が、それまでは預からせてもらっていいな? ほかの仲間を聞き出す」
「あぁ。だが、全て終わったら必ず寄越してくれ。……どんな殺し方をしても、きっと満足は出来ないだろうがな」
「私も思うわ。……この子達を、こんな目に合わせて……」
お母さんたちはそう言って、私たち四人をしっかりと抱きしめる。うん、少し痛いけど、まぁいいか。怖かったし。
「辛かったでしょう、四人とも。遅くなって本当にごめんね」
「フィニ、一度ソレを貸してくれ。一度二度、死にたくなるくらいの被害を与えてもいいだろう?」
「ふぃに?」
「あぁ、エーデルフィアとは会うのは初めてだったね。長老は知っているよね? 俺はその孫のフィニトリシアス。フィニと呼んでくれる? あ、属性は見てのとおり、光ね」
お父さん、お母さん、じいちゃんばあちゃん以外にいたもう一人は、長老の孫だったらしい。フィニシトリアス、だっけ? いや、何か違うな。うん?
「えと、フィニシトリアス、さん?」
「あー、ちょっと惜しいな。フィニ、トリシアス、ね。言ってみて?」
「フィニトリシアス、さん?」
「そ、正解。と言うわけで、今回の件はしっかりと爺さんにも伝えておく。から、人間どもももう少し大人しくなるだろ」
あ、それとエーデルフィアはしばらく大人しくしてろよ? 人態を初めて取ると、魔力が恐ろしい勢いで消費されるからな。
フィニさんは言う。うん? 人態? 言われて自分の姿を確認してみた。うん、ほっそい指が五本あるね。それに、肌も昔見慣れた白っこい肌。
―――――あれ?
「私、今人の姿になってるの?」
『………気づいてなかったの?』
みんなに言われた!!
「俺たちのロープを引きちぎってくれたときは、既に人態だったぞ?」
「うん。光ったかと思ったら、いつの間にか人態を取れてた」
「ほら、これを着てなさいね」
あれぇ? 人態って百近くにならないと取れないんじゃないの? 私、まだ六十くらいだよ? あれぇ?
そう思いつつ、お母さんが手渡してくれた上着に手を通す、のだが大きいわ。私、今何歳児くらいの身長なんだろう。
「今は何も考えないで、休んだほうがいいよ。また近いうちに、話を聞きに行くね」
「そう、ね。エーデルフィア、あなたはもう寝なさい。カーヴァンキスたちは、悪いけれど帰るまでは起きていてね。帰ったら、問答無用で休みなさい」
「問答無用か。まぁ、俺は大丈夫だが、ティアとサーファは休め。特にティアは、かなり首が絞まってたろ?」
「ソレを考えたらお兄ちゃんもでしょ。いいから、帰って休もう?」
うん、みんな一緒に寝ようよ。人態のまんまなら、カーヴお兄ちゃんの部屋のベッドとかで一緒に眠れるでしょ? だから、一緒に寝ようよ。
「おにーちゃん、おねーちゃん、帰って一緒に寝よう? 一緒に寝て?」
「ん、あぁ。人態なら、一緒に寝れるな。ティア、サーファ、いいか?」
「もちろん。帰ったら一緒に寝ようね」
「だな。エーデルフィア、怖かったろ? ゴメンな、守りきれなくて」
いいよ、気にしてない、というか私が勝手に突き進んだから悪かったんだよ。だから、自分たちを責めないで。
だから、今は帰って寝ようよ――――。