お説教です
「さぁ、エーデルフィア。どうして何も言わずにお出かけなんてしたんだ?」
「突然いなくなるから、人間が何かバカを考えたのかと思ったでしょ」
じいちゃんたちから逃れ、家に帰ってくるとすぐに、お父さんとお母さんからのお説教という名の尋問が開始された。
「うぅ、ゴメンなさい」
「謝罪の言葉が欲しいんじゃないの。どうして、何も言わずにお出かけしたのか聞きたいの」
あー、勝手にお出かけした理由……、言ったら怒られそうだよね。―――今も怒られてるけど。
「ねぇエーデルフィア。そんなに外に行きたかった?」
これを聞いてくるのはお姉ちゃん。
「どういうことだ? オースティア」
「いや、昨日何度もお出かけしたがってたのを私が止めたの。だって、夕飯までそんなに時間が無かったしね」
「そうなのか、エーデルフィア?」
「う……うん」
補足するならば、お父さんたちに話したら、一人での外出はダメって言われそうだったから、何も言わずにコソーっと出たんだよね。
だって、言ったら間違いなく反対されるでしょ? 反対するでしょ?
「それはもちろん、反対するな」
「反対するわね」
「反対だな」
「うん、私も反対する」
「俺も」
ほら! こうなるから何も言わずに行ったんだよ! 大体さ、町に一人で行くのはよかったのに、どうしてお出かけはダメなの?
「お出かけがダメなんじゃない。何も言わずに行くのがダメなんだよ」
「前はよかったのに」
「………最近の人間の行動が怪しいんだ。最近、人間に襲われそうになる事件が続いてるんだ。だから、あまり一人で出歩かないでくれ」
「今日も、人間に襲われたのかと思って……」
お母さんはそう言って、私をぎゅっと抱きしめた。い、痛い………。
「長老が王に話して、人間の悪事を諌めようとしているようだが、それでもまだ安心できない。安心できるまでは、カーヴたちと一緒に出かけてくれ」
うーん、今回のナイショのお出かけでここまでいろいろと言われる理由はそこにあったか。しかし、最近は人間の行動がおかしいのか。
人間、一体何を考えているんだい? 行動が怪しいって、本当に何をしているの?
何をしているのか、ためしに尋ねてみたのだが、お父さんたちは教えてくれなかった。くぅ、面白くないな。
「今度からは、絶対に、何も言わずに勝手に出かけたりしないでくれよ? 危ないから」
「うん、ゴメンなさい」
とりあえず、今度からは無駄に心配をさせないようにしなくては。……てか、どこに行くか言ってからお出かけ、って言うのはダメなのかな。居場所が分かっていれば大丈夫、な気もするけど。
でも、それもダメらしい。曰く、いきなり人間に襲われたりしたら、お兄ちゃんたちがいれば誰かしらが人間を撃退するが、私一人だと複数人来たときは危ない、らしい。
「エーデルフィア、しばらくは外出禁止だ。いいね?」
「えー! やだ退屈ー!」
「勝手に外に出て心配をかけた罰だよ。いいから、大人しく受け入れなさい」
その結果が外出禁止かー。きついな。
「むー」
「いい子にしてれば、早く外出禁止も解けるからね」
でも、外出禁止は退屈すぎるよね。まぁいいや、その間に文字をしっかり覚えたり、魔術の特訓に励んだりするか。
「ほら、おいでエーデルフィア」
「お母さん」
とりあえず、甘えに行こう。すりすり。
「よしよし、可愛いわねエーデルフィア」
「おかーさーん、絶対にお出かけダメーぇ?」
「ダーメ。反省してないわね、あなた」
「はんせーしてるよ? だから、勝手にお出かけはしないよ?」
まぁ確かに、外出禁止を告げられてすぐに外にいけないかどうか聞いていれば、反省していないとも思われるかな。
でもさ、お外行けないと退屈すぎるんだもん。
「んもう、いけない子ね」
「だって、ずっとお家なのは退屈なんだもん。おかーさん、お母さんと一緒にお外に行くのも、ダメ?」
「か、可愛すぎる……」
だって、今は徹底甘えっこモードだもん。甘えん坊の子供のほうが、お母さんは許すの早くなりそうでしょ?
まぁ後は、とにかく甘えたいだけだったりもする。
「おかーさーん、だめぇ?」
「う! ………だ、ダメよ?」
「どうしても、ダメ?」
よし、お母さんが陥落寸前だ! 後一歩だ!!
「こーら、エーデルフィア。これはお父さんが決めた君への罰だ。お母さんに頼んで罰をやめてもらおう何て考えちゃダメだよ。この様子なら、罰を増やすよ?」
だが、最後の砦、お父さんが待っていた。やっぱりお父さんはそう簡単にほだされてはくれないよね。
「……ごめんなさぁい。もう言わないから、怒らないで?」
「本当に、きちんと罰を受け入れる?」
「うん。ゴメンなさいお父さん」
「よしよし、ならいいよ」
うぅ、罰は増やされたくない。なのでしっかりと謝る。……簡単に許されたよ。
「さぁ、エーデルフィアも無事に見つかったことだし、みんなで何か話でもしようか?」
「いいんじゃない? それとも、何か本でも読む? エーデルフィアの字の勉強になるよね」
「ふむ、どっちがいい?」
えっと、これを聞かれているのは私ですか? 主語がないと伝わりにくいよ、お父さん。
「んー、どっちでもいいー」
「どっちでもいいじゃないだろう。きちんと、どっちがいいか言ってごらん?」
「じゃあ、最初お話して、後から本を読んでー」
「それもいいだろう。さて、まずは何の話をしようか?」
うーん、何のお話をしてもらおうかな。
「最近の人間って、私たちに何をしようとしてるの?」
「それはまだ知らなくていいよ」
にっこり笑って言われた。しかも頭撫で撫で付き。
「ほら、ほかに聞きたいことは無いか? 答えられるものは教えてあげようね」
「人間たちは何がしたいの?」
「ほか」
「人間たちは何を考えてるの?」
「ほか」
「人間たちは私たちに何をしてくるの?」
「ほか」
「人間たちは………、んーと」
ってか、さっきからほか、ばっかりじゃん。ちょっとは人間について答えてくれたっていいのに。
「人間の話以外は、何か聞きたいことはないのか?」
「人間のこと以外なら話してあげるよ?」
「人間の話がいいよー」
徹底的に私が一人でお出かけするのを阻止するんだ、その理由というか、原因? を教えてくれたっていいじゃないか。
「ねー、人間の話がいいな?」
人間が最近とってる行動の怪しいところ、教えて欲しいな? うるうる。
「エーデルフィアにはまだ早いよ。ほら、ほかに聞きたいことは?」
「俺もそれは聞かせたくない。エーデルフィア、諦めて?」
「私も教えたくないなー」
「だよな。エーデルフィア、人間の話は聞かないでいて」
「エーデルフィア、おいで。お母さんの横においで」
ぺたぺた。そんな足音を立てながらお母さんのすぐ隣に移動する。うん、べったりです。
「何で人間の話は私には早いのー?」
「人間の企みが危険だからだ。そんなこと、エーデルフィアはまだ知らなくていい、知らないほうがいい」
むむー、どこまで危ない企みを図ってるんだ、人間め。少しくらいならば教えてもらえるだろうに、教えてもらえないと言うことは、かなり危ないな!
「んー、じゃあ、んっと………」
う! 人間のことばかり考えて多から人間以外に話のネタが浮かばないんだけど……。むむむー。
「うーん、エーデルフィアには早いんだよな、人間の話は」
「どうしてー?」
「人間の考えが賢しいからさ」
「さかしい?」
「悪賢い、って言えば分かるかな?」
悪賢い? それでなんで私には早いになるんだろう。別に問題はなさそうなのにな。
「教えてー?」
秘技・子供の純粋な眼差し! とにかくじっと見つめる。じーっと見つめる。しつこいほどに見つめる。
「ダメだ。エーデルフィアには早すぎる」
「そうよ。あのねエーデルフィア。多分、あなたがこれを聞いたらしばらくは一人で寝られなくなるよ?」
何それ怖すぎる。でも、恐怖に興味が勝った! 聞きたい! 教えてー?
「あら? 諦めなかった」
「そうやって聞くと余計興味持つよ! 聞きたいな?」
「ふふ、ダーメ。エーデルフィアはまだ知らないほうがいいの」
なんだ、結局教えてもらえないのか。ならば、別の話のネタを考えなくては………。
うーん、何にしよう。人間のネタがダメならば………、あ、そうだ。
「おとーさん、昔、ユフィーに何してたの?」
「あ、それ私も聞きたいかも」
「んじゃ、俺も聞く。ユフィーに何していじめてたんだ?」
「ひっどいことするよなー」
「ちょ、何でそれを聞きたがるんだ、お前たちは!?」
何でって、ただの興味? 今は優しいお父さんが昔はどれだけひどかったのか知りたいだけだよー?
「い、いや、ちょっとからかってただけだぞ?」
「からかうってお父さんひどいねー」
「そうねー、お父さんはひどいねー。エーデルフィア、もう少しこっちにおいで?」
「あ、おい! エイシェリナ!!」
お母さんに言われてお父さんから少し離れる。元々お母さんの横だったけど、さっき以上にお母さんにべったりになった。
お父さんは悲しそうな顔をしていたよ? でも放置。だって、お父さんひどいもん。
「お父さんの中では少しからかっていただけなんだが……」
「でも、ユフィーにしてみれば、いじめられてたになってるんだね。お父さんひどっ!」
「オースティア!」
今日はお父さんがいじられ担当だ! お姉ちゃんもお父さんで少し楽しんでるね? ふふ、私も少し楽しーい。
でも、やりすぎたらお父さんもしょんぼりするだろうからそろそろやめるー。
「おとーさん」
「エーデルフィア!」
少し移動して、お父さんに甘えるように引っ付いた。えへへー、お父さんが一発で笑顔になったよ。
「おとーさんっ」
「オースティア。カーヴァンキス、サーファイルスまで」
考えるタイミングが同じだったみたいだね。お姉ちゃんとお兄ちゃんたちもお父さんに引っ付いたと言うか抱きついたと言うか。
そして仕上げは、お母さん。お母さんもお父さんに抱きついたよ。
「ふふ、からかってゴメンね、フォンシュベル」
「まったくだ、寂しかったぞ?」
……あれ? なんだか周りの空気が甘くなってきてるような……。
「エーデルフィア、少し離れようね」
「ふえ?」
「すまないな。……そうだな、夕飯が出来たら呼ぶから、それまでは子供たちだけでいてくれ」
………あぁ、大人の時間って言うやつだね。まったく、熱々なんだから。
「さーて、俺の部屋にでも行くか? エーデルフィアはまだ一人でいたくないだろ?」
「うん! 誰かと一緒にいたい!」
一人でいるときにじいちゃんに会ったから、なんだか、一人でいるとじいちゃんが現れそうな恐怖に襲われる感じがするんだ。
「なら、一緒にいような」
「うん! ご飯までずっと一緒!!」
一人じゃない、それだけで安心できるものなんだ。
私は、一人じゃないんだ。