無断外出です
ふふ、お兄ちゃんたちの目を盗んで、洞窟の外に出ることに成功した! やったね!! 今は一人のんびり山をうろついています。
―――――そこで見てはいけないものを見た気がするのは気のせい、だよね。うん、気のせいだよ。と言うわけで、回れー右っ!
「こらこら、どこに行くんだエーデルフィア。せっかく会えたのに、その行動は無いだろう?」
「ぴぎゃーっ!!」
な、ななななな、何で目の前にいるの!? さっきまであっちのほうにいたから回れ右して離れたのに! いつの間に移動したのさ、じいちゃん!
「おっと、驚かせてしまったか。すまないな。だが、せっかく会ったんだちょうどいい、じいちゃんたちのいる洞窟に来なさい。ばあちゃんが喜ぶぞ?」
いやいやいやいやいや、じいちゃんとばあちゃんは昔お兄ちゃんたちといったときに恐怖を植え付けられたからあんまり会いたくないんだけど! あの時は本当に怖かったんだよ!
そう思いつつ、逃げようと足掻いているのだが、やはりじいちゃんからは逃れられないらしい。
そうやって頑張っていると、じいちゃんが突然あたりを見渡し始めた。うん、どうしたの?
「エーデルフィア、カーヴァたちはどうした? まさか、一人で来たのか?」
「うん!」
一人で元気いっぱいうろついてましたとも! いつまでもお兄ちゃんたちと一緒に行動しているとは思わないでくれたまえ!! なんちって。
「……少し急ぐか。まったく、エーデルフィアはまだ小さいんだから一人で行動しちゃダメだろう」
「大丈夫だよ? だから、離して帰るー!」
じいちゃんたちと一緒にいるほうが危険だって! 帰る! 帰るから離してよじいちゃん!
「離せるわけないだろう? ここでエーデルフィアを帰したらじいちゃんはばあちゃんに叱られるんだ」
「何で?」
「じいちゃんばっかりエーデルフィアと触れ合うのはずるいってな」
怒られろ!
「帰る、帰るー!」
「そうかそうか。なら、一緒にじいちゃんの暮らしてる洞窟に帰ろうな」
「やだー! おとーさーん、おかーさーん、おにーちゃんーん、おねーちゃーん!」
帰るー! お家帰るから離してー!
「おかーさん助けてー!」
「そう呼んでも来ないだろう」
「おかーさーん! じいちゃんが怖いよー!!」
「しかし、エーデルフィアは何があっても、しゃべれなくなる、と言うことはなくなったんだな。少し寂しいな」
それいつの話さ!? いや、確かに小さい頃はさ、怖いときとかショックなときとかはしゃべれなくなってたよ。でも、私、もう五十過ぎてるんだよ? それでそんなことあったらダメじゃない?
「今も可愛いが、昔の小さくて可愛かったエーデルフィアが懐かしいな」
今も小さいは余計! もう五十だよ? 大分大きくなったもん、小さくないもん!!
「じいちゃんから見れば、エーデルフィアはもちろん、カーヴたちも小さな小さな子供だからな」
「でも、もう五十だよ! そんなにちっちゃくない!」
「今現在の最年少のドラゴンが何を言うか。大人しく愛でられていなさい」
くう! 最年少と言うところは否定できない。うーん、ほかのドラゴンのところに子供って生まれないのかなぁ。あんまり聞かないよね。
そういえば、キースエリナさんも私と百以上離れてるもんね。サーファお兄ちゃんが、その前に生まれたドラゴン。………そういえば、私、お兄ちゃんたちの年知らないよ!
「じーちゃんじーちゃん」
「ん? どうした?」
「お兄ちゃんたちの年、教えてー?」
「………知らなかったのか?」
うん、聞いたこと無かったの。だから、教えてよー。
「サーファが大体二百五十くらい、ティアが大体四百くらい、カーヴァが六百くらいだったかな。それを考えれば、フォンシュベルもエイシェリナもすごいな」
五百年少々で子供を四匹も生すとはな。じいちゃんは少し遠くを見ながら言う。それってすごいのか?
「エーデルフィアは、ユフィネスとは会ったんだよな?」
「ユフィー? うん、会ったよ」
「ユフィーが今やっと千五百に届こうかと言う年だ。そして、フォンシュベルは二千五百ほど。千近く違うんだよ、あの二人の年齢は」
ふえー。ユフィーとお父さん、かなり年離れてるんだね。………って、あれ? 私とお兄ちゃんたち、それで考えればかなり年近いの?
だって、一番上のカーヴお兄ちゃんとも、五百ちょっとしか違わないし、サーファお兄ちゃんとは二百くらいしか違わない。……お父さんたちすごいなー。
「何をやったらそこまで仕込めるものか」
「仕込めるって、言い方がやらしいよ、じーちゃん」
「いいだろうこのくらい」
いやいや、私、一応子供だからね? 大分おっきくなったけど、まだ普通に子供らしいからね?
曰く、ドラゴンは百に近づき、人態を取れるようになったら成人とし、大人扱いがされるようになるらしい。つまり、私はまだ子供です、はい。
「お、着いた着いた、おーい、ニアー!」
じいちゃんがばあちゃんを呼ぶと同時に、視界が動いた。……ばあちゃん、何て速度で私をじいちゃんから奪ってるのさ。
「久しぶりね、エーデルフィア。ここ数十年、ちっとも会いに来てくれなかったから、寂しかったわ」
「だって、じいちゃんもばあちゃんも怖いもん」
だから、あんまり近寄らないようにしてたんだよ?
「まったく、じいちゃんたちのどこが怖いんだか」
「そうよそうよ」
「え? どう見ても怖いよ?」
人の話を聞かずに突き進むところとか、人で遊んで楽しんでるところとか。
「ふむ、楽しんでもらおうと思っての行動だったんだがな」
「絶対そう思ってない!!」
純粋に自分たちが楽しみたいだけじゃないか!!!
くそう、こんないたずら大好きの巣窟にはいたくない! 帰る! 帰るから離してばあちゃんーっ!
「え? イヤよ」
「ニア、離すなよ。離したら、本当に飛んで帰るぞ」
ちなみに、比喩にあらず。離してもらったら即座に飛んで帰るよ? で、お母さんに助けを求める。
「くぅ! 離してよー!!」
私の力じゃじいちゃんもばあちゃんも振り払えない!
「おかーさん助けてーっ!!」
「だから、ここでエイシェリナを呼んでも無駄だ。諦めなさい」
「やだー! お母さん助けてー!!」
『エーデルフィア!!!』
ふえ? この声、お兄ちゃんたち?
「おにーちゃん助けてー!!」
「やっと見つけた! 帰るよ」
「お母さんたちも心配してるんだから帰ろうね」
「じいちゃん、ばあちゃん、エーデルフィア離せ」
やっぱりお兄ちゃんたちだ。私を探しに来てくれたんだ、助けに来てくれたんだ。
「何を言うか、カーヴァ、ティア、サーファ。お前たちも一緒にゆっくりしていけばいいだろう」
「いい、帰る」
「うん。だって、お父さんもお母さんも、エーデルフィアを心配しながら待ってるし」
「だな。だから、じいちゃん、ばあちゃん」
『エーデルフィアを離して』
おぉ、声ぴったり。さすがはお兄ちゃんたちだ。………ってなワケで、帰る! から、離してよじいちゃん、ばあちゃん。
「ジャン、フォンシュベルにエーデルフィアたちは家にいるから安心するように伝えてきてちょうだい」
「イヤだ。その間にお前はエーデルフィアと一緒にいるんだろうが。そんな面白くないことはするつもりは無いぞ」
「いいから、行ってきてちょうだい」
―――ひぃっ! ばあちゃん怖い!
「あら、ゴメンねエーデルフィア。ほら、ジャン。早く行ってきてちょうだい」
「う、済まないエーデルフィア」
怖いよぅ怖いよぅ、ばあちゃんが怖い。だから、お兄ちゃんたちのところに避難させてよ!
「カーヴァたちのところに行ったら、その瞬間帰るでしょ。ダーメ」
「やだばあちゃん怖い!」
だから避難させて、帰らせて! お兄ちゃんたち、助けてぇっ!
「ばあちゃん、エーデルフィアが心底嫌がってるから」
「んもう、仕方ないわね。カーヴァ、今帰ったらどうなるか、予想はつくわよね?」
「後から教育と言う名の暴力が待ってるんだろ」
だから、帰らねぇよ、今は。お兄ちゃんは苦々しそうな表情で告げる。なら、離してよばあちゃん。離してくれればお姉ちゃんのところに行くからー!
だが、ばあちゃんの拘束はまだ止まない。離して、はーなーしーてー!!
ちなみに、転生してからものすごく頑張ったことは、第一に魔術、そして第二にじいちゃんやばあちゃんから逃れることだったりする。
それから少しして、お姉ちゃんのところに避難した私のところに、お父さんとお母さんが飛んできた。
「エーデルフィア!」
「誰にも何も言わずに出て行っちゃダメだろう。さ、帰ろう」
「おとーさん、おかーさん!」
ゴメンなさい、ゴメンなさい! もう勝手に何も言わずにお出かけなんてしないから、連れて帰ってー! じいちゃんたち怖いんだよー!
ってか、じいちゃんたちは本当にお父さんのお父さん、お母さんなの? お父さんは優しいのに、じいちゃんもばあちゃんも怖すぎるんだよぉ!
大体さ、私は前世で二十一年。立派に成人するまで生きてるから、人間のきれいな場所汚い場所、怖いものもいっぱい見てるのに、じいちゃんたちの怖さはそれ以上のものなんだ!
「オースティア、エーデルフィアを。エーデルフィア、おいで」
「おかーさん!」
うぅ、じいちゃんたち怖かったよぅ、何をされるか分からないあたりが余計怖かったよぅ。
「もう大丈夫。一緒に帰ろうね」
「父さん、母さん。孫を可愛がるのはいいが、怖がらせるのだけはやめてくれ。……また決闘かな」
「お? やるか? なら、相手になってやるぞ」
お父さんがじいちゃんに喧嘩売ってる! って、それは絶対恐ろしいものになるでしょ! やめさせなくてはなるまい!
「お父さん、じいちゃん、喧嘩はやめてよ!」
「ん? あぁ、安心しろエーデルフィア。これは、喧嘩ではなく決闘と言う名の、正式な勝負だ」
「だな。まぁお互いの実力を確かめるためでもある」
それは屁理屈だ!
「じゃあ、戦うのをやめて! 二人とも怪我するのはヤダ!」
特にお父さんが怪我でもしたら、私泣くよ? まぁ、泣かないかもしれないけど一応泣くって言ったほうが脅しになりそうだから言っておく。
ちなみに、私が泣くと言ったところで、じいちゃんは腹を抱えて笑い、お父さんは停止した。じいちゃん、何故笑う。
「フォンシュベルも本当に親ばかだな。エーデルフィア、サーファイルス、オースティア、カーヴァンキス。何かあったら存分にフォンシュベルを使うといい。力になるうだろうさ」
「本当にねぇ。ユフィネスのことは結構いじめてたのに」
「お父さん、ユフィーいじめてたの? ひどっ」
「いやいや、いじめてはいないぞ。ただ少し、からかいが過ぎていただけだ」
どっち道ひどいよ! 今まで私の中のお父さんは優しくて立派なお父さんだったのに、そのイメージが崩れて、お父さん=いじめっ子になったよ。
ちなみにそれはお兄ちゃんたちも同じようだ。お父さんを軽蔑したような目付きで見ていた。いや、その目はやめてあげようよ。
「あ、お前たち! そんな目でお父さんを見るな! エイシェリナ、お前まで!」
あ、お母さんもなんだ。全員から軽蔑の目で見られるお父さん可哀想。でも、いろんな意味で自業自得だよね。
ちなみに、全員のその目は、私たちでからかうのに飽きたじいちゃんたちから逃れるまで続きました。