時の流れは早いものです
成長しました。
あっという間に五十歳代です。
時の流れって本当に早いよね。エーデルフィアとして生を受けて、早五十年以上経ちました。今の年齢は、えっと、ごじゅう………よん! 五十四歳だよ。
ちなみに、五十歳の誕生日の日からお父さんたちに魔術を習うようになりました。最初はみんなに渋られたけど、納得させた。
「まだ早いな、やめよう」
「そうね、まだ早いよね。まだ五十だもんね」
「うん? でも俺たちって五十くらいの頃からやってたよな?」
「え? 私は六十超えてたと思うけど」
「俺もそのくらいか。なら、あと十年くらいはいいだろ」
全員から見事に反対を喰らいました。
「覚えたいな……、覚えたいんだけどな………」
お父さんたちをしっかりと見つめ、目を少し潤ませて懇願する。
―――こうかはばつぐんだ!
「あ、いや、でも、魔術は危ないものなんだぞ?」
「分かってる。だから、お父さんたちに教えて欲しいな?」
お父さんたちなら、私が危ないことしそうになったら全力で止めてくれそうだもんね。だから、教えて欲しいなー?
そうやって懇願した結果、私は少しずつ魔術を教えてもらえるようになっていた。
から、私強いよ? 並の人間なんかよりもよっぽど強いよ? だから、一人で町へ行ってみたいなぁ?
「一人で町、か。さすがにそれはダメだろう」
「町は危ない人もいるんだからダーメ」
「……襲われるよ?」
「……捕まっちゃうよ?」
「……誘拐されちゃうよ?」
お父さんたちの止め方は可愛いけれど、お兄ちゃんたちのは完全に脅しだ!
大丈夫だよ、襲われそうになったり捕まりそうになったり、誘拐されそうになったら魔術使いまくるし。
炎吐いていっぱい燃やし尽くしてあげるしー。
「だから、行きたいな?」
ちょっとした冒険だよ。大体、この山では一人での行動全然オッケーじゃん。
なら、町もいいんじゃない?
「危ないって、ダメだよ」
「諦めなさい」
「やだー! 行く、絶対に行く!!」
大体さ、五十って前世で考えればおばさんなんだからさ、いいじゃん、少しくらい。
懇願の時間は長かったよ。でも、おかげでお父さんたちが折れた。
「なら、町でこれを買ってきてくれるか?」
そうしてお父さんが買うものの名前をつらつらと連ねていく。
―――これは初めてのおつかいですね!! ……っていうことは、多分お兄ちゃんたちが後ろからこっそりついて来るんだろうね。
ま、いっか。とりあえず。
「いってきまーす」
「気をつけるんだぞ、何かあったら呼ぶんだぞ」
「うん、行って来るねー」
えへへ、初めての一人での町だ。今まで何度もお兄ちゃんたちと来てはいたけど、一人では初めてだもんなぁ。
何だか楽しみー。パタパタと飛ぶ私のテンションは本当に高いぞ。
そして、後ろから結構離れてお兄ちゃんたちがついてくる気配が……。まったく、過保護なんだから。
まぁ、お兄ちゃんたちに言わせればこれは過保護ではなく、竜族の本能らしいのだが、よく分からない。過保護が本能って、何だろうね。
―――まいっか。気にせずおつかいを済ませようっと。
「おや? 小さき竜神様、どうなさいました?」
「おつかいー」
「ん? きょ、今日はお一人ですか? 護衛をお付けいたしましょうか?」
「大丈夫。……後ろにお兄ちゃんたちいるから」
絶対後ろにいるから。見えないし、感じないけど何となく予想がつく。
「それでしたら安心です。お気をつけてお買い物をお楽しみください」
「うん、ありがとう」
さって、町だ町ー。まずは何を買おうかな。んっと、ここから一番近いのは、洋服屋さんだね。
「いらっしゃいませ、竜神様。今日は何をお求めですか?」
「えっと、防寒用の服が欲しい」
「どなたさまの服をお求めですか? 小さき竜神様、あなたさまのですか?」
「うん。竜態で着れる服が欲しいな」
「畏まりました。でしたら、採寸をさせていただいてよろしいですか?」
「うん、お願い」
そうして私は服屋の言うままで羽を広げたり、前足を上げて広げたりとする。少しして採寸は終わったらしい。
「では、完成までにしばしお時間いただきます。一週間と半分ほど経ちましたら取りにいらしてください」
「うん、お願いねー」
さて、洋服の注文は終わったし、今度はどこに行こうかな。ここからならどこが簡単に行けるかな、うふふふふ、楽しみだなぁ。
―――まだ、お兄ちゃんたちの干渉はないしね。
よし、次は野菜を買おう。自然には出来ない、人間たちが作ることの出来る野菜。人間だった頃は普通に食べてたのに、ドラゴンになってからは滅多に食べてなかったからなぁ。だから、野菜って恋しいんだ。
えっと、今日買って帰る野菜はっと。私はメモを取り出して買う物をしっかりと把握する。
「こんにちはー。お芋と根菜をいくつかちょーだい」
「いらっしゃいませ竜神様。ちょうどいいときにいらっしゃいましたね。ちょうど新鮮なのを入荷したんですよ」
「ホント!? やったぁ!」
「では、ここのこれと、これ、そしてこれを包みましょうか」
そう言って店員は並べてある野菜を包んでいく。おぉ、いっぱいだ。
「これでいくら?」
「本来は銅貨を七十枚ですが、竜神様にはお世話になっておりますので、六十五枚にしておきます」
「やった! ありがとー」
「いえいえ。その代わり、次もうちで買ってくださいね」
「うん!」
やった、まけてもらえたね。しかし、これだけたくさん買っても銀貨一枚にもならなかったか。
それで考えれば、初めてお金の価値を知ったときのお菓子を買ったあの量は半端無かったんだね。
「よっし、次だー!」
次はどれかな。………って、これだけか。ならかーえろっと。
って、ちょっと荷物が重すぎない? 町の外までは飛ばずに歩いてたからそこまで激しく重さを感じなかったけど、飛び出すと重いな。ふらふらする。
――って、わわわ。か、傾く、怖い!! お、落ちそうだ!!!
ひやあああぁぁぁあぁぁぁぁぁああああ!!!!!
お、落ち、落ちるぅぅぅぅううぅぅぅぅううう!!
「危ないなぁ。大丈夫? エーデルフィア」
「ふえ?」
来るべき衝撃に備えていたのだが、予想していた衝撃は来なかった。代わりに、軽く痛みを感じるだけだ。
だって、私は今飛んでいるカーブお兄ちゃんに軽く咥えられているのだから。
「よし、買い物したのもちゃんと掴んだし、もう大丈夫だよ」
お兄ちゃんの背に乗ったお姉ちゃんは言う。よかった、これで買い物したヤツなくしてたら、私しょんぼりだったよ。
そうしていると、私を咥えたままのお兄ちゃんは一度下に降りた。咥えたままじゃしゃべれないしね。
「ふぅ、心配したぞ、エーデルフィア。重たすぎて飛べないくらいなら、半分くらいは店に預けて、後から取りに行くと言っていればいい」
「あ、そうすればよかったのか」
うーん、考えなかったよ。確かにそうすればよかったんだな。そう考えながら、私は助けてくれたことに感謝し、カーヴお兄ちゃんに抱きついた。
くぅ、成長したとは言っても、カーヴお兄ちゃんのドラゴンの姿に抱きつくのはまだキツいか。でもね。
「お兄ちゃん大好き」
そう言って、とにかく抱きつく。えへへ。
「エーデルフィア、私たちは?」
「お姉ちゃんもサーファお兄ちゃんも大好きだよ」
当たり前じゃん。私はお父さんもお母さんも大好きだし、カーヴお兄ちゃんもティアお姉ちゃんもサーファお兄ちゃんも大好きなんだから。
んー、こうすればわかってもらえるよね。
「んー、エーデルフィア可愛い」
「可愛すぎるよ、これ」
二人に思いっきり抱きついたら二人に喜ばれた。よし、分かってもらえたね。
「ふふ。さ、そろそろ帰ろうか。お父さんたちも心配してるだろうからね」
「だな。そろそろ帰らなくちゃお父さんたちがどうかなっちまう」
あー、確かに初めてのおつかいって、親は相当心配するよね。うん、帰ろう? お母さんたちにも甘えたいしね。
うん、家に帰ったらかまい倒された。
「お帰りなさい、エーデルフィア。怪我は無い? 怖くなかった? 大丈夫?」
「あぁ、無事に帰ってきてくれてよかった。初めての一人での町はどうだった? 不安じゃなかったか?」
うわぁ、疑問文だらけ。よし、一つずつ答えるべきか。
「だいじょーぶだよ。怪我も無いし、怖くも無かった。それに、不安でもなかったから平気」
実際、新鮮な感じがしただけだもん。
「さて、今日はエーデルフィアが買ってきてくれた野菜を使って食事を作らなくてはならないな。エーデルフィア、楽しみに待っていてくれ」
うん! 楽しみに待ってるね! でも、今はとりあえず―――。
「眠い………」
初めてこんな長い間を自力で飛んだからね。いつもは町に行くときは大抵お兄ちゃんの背中の上だし。――その方が早いから。
でも、今日は帰りに落っこちかけるまでは完全に自力だったからね、疲れたんだろうね。
「疲れたのね。ふふ、部屋で休んでいなさい」
あぁそうそう。五十歳を過ぎた頃から自分の部屋を与えられた。お兄ちゃんたちの部屋と比べるとまだ狭いけど、成長に伴って少しずつ掘り進めて大きくする予定。
そして、私の部屋のベッドは、お兄ちゃんたち特製だ。お兄ちゃんたちの部屋のベッドと同じ、干草のベッドだ。ま、まだお兄ちゃんたちのベッドよりも格段と小さいけどね。
でも、気持ちいいんだよね、干草ベッド。
というわけで、部屋に戻った私はそのままベッドにダイブする。ふわ、ベッドに上がると一気に睡魔に襲われるな―――。
「エーデルフィア、起きて。ご飯だよ」
「んみ?」
心地よい眠りの中の私を無理やり叩き起こすような声で完全に覚醒した。何の用だくそう、気持ちよかったのに。
「目付き悪いなー。ほら、ご飯だよ、ご飯」
ご飯……、ご飯………、っ!! そうだよご飯だよ! 今日のご飯はきっとご馳走だよ! 今日買った野菜が存分に使われてるはずだよ!
よし、起きて、起きてっと。まだ寝惚けてフラフラするけど、今の私じゃお姉ちゃんたちの肩に乗るには大きすぎるしなぁ……。
結局、ふらつく体を支えてもらいながら飛んでいくことになった。
「おはよう、ゆっくり休めたかい?」
「うん……、まだ眠い……」
でも、ごはーん。
「はは。今日はご飯を食べたらすぐ寝なさい。疲れたんだろう」
「うん、そうするー」
成長に伴って、夜寝る時間も遅くなったけど、今日は昔みたいにご飯を食べたらすぐ寝るか。
どうせ、今も昔も食べた分は成長にしか使われないんだから。