心配をかけてしまいました
んみゅ? 目が覚めたら、私の周りにはみんなが揃っていた。あれ? みんな涙目だね、どうしたの?
んー、私、寝る前に何かしたっけ? っていうか、何かさ、周り暗くない? もう夜? ――ご飯食べてないよ!!
そう思っていたら、突然お母さんに抱き上げられた。え? 本当に何!?
「よかった、目を覚ましてくれて……。気を失ってから、あのまま目を覚まさなかったらどうしようかと――」
「エイシェリナ、俺にもエーデルフィアを抱かせてくれ」
「俺たちも!!」
「あ、お父さん、私もだからね!!」
「俺! 俺もっ!!」
いやだから、何事? って、お父さん、抱きしめ方強い! 痛いよ!!
「い、痛い! 痛いよ!!」
「あ、っと……すまない、大丈夫か?」
「きゅー、痛かった……」
というか、抱きしめ方の強さを謝る前に、まず何があったのか教えてもらえるかな?
「……覚えてないのか?」
「うん、全然」
全然全く皆目。
「大泣きして、気を失って丸二日眠っていたんだが記憶に無いのか?」
「全然」
大泣き……、したっけ? っていうか、いつの話? んんーっ?
「覚えていないんならそれでいいさ。無事に目を覚ましてくれた、それでいいんだ」
「うん?」
とりあえず、考えなくてもいいって言うことかな? でもまぁ、今は―――。
「おなかすいたー」
ぎゅーきゅるるー。思い切りお腹が鳴ったよ、お腹空いたぁ。
何か食べ物をもらうために、潤んだ瞳でお父さんとお母さん、お兄ちゃんたちをじっと見る。とにかくじっと見る。
それから少しして、お父さんが私のそばから離れ、少しして戻ってきた。その手には包丁が握られている。そしてお父さんはお母さんにその包丁を手渡し、お母さんはその包丁を腕に走らせた。
あぁ、いいにおいがする。美味しそうなにおい。それは、私の大好きな食料だ―――。
「んっく、こくっ、……ごくごくごく」
美味しい。お母さんの血が、体に染み渡っていく。美味しい、すっごい美味しいよ……。
「すっごい飲んでるね。まぁ、丸二日も何も食べたり飲んだりしてないから、普通か」
「珍しくお腹も鳴ってたしね。相当空いてたんだろうさ」
お兄ちゃんもお姉ちゃんもうるさい。とにかく私はお腹が空いてるんだ! そう思いつつも、とにかくお母さんの血を飲み続ける。
ん? あれ? いいにおいが、増えた………。
「エーデルフィア、簡単なものですまないが、作ってきたよ。食べるかい?」
「食べるーっ!!」
「うわー、口の周り血だらけ。ほら、拭くからちょっと待って」
いいにおいは、お父さんが用意してくれた軽食? だった。
いっただっきまーす! かぶりつこうとした瞬間にお母さんに止められた。うん? 血だらけ?
「よし、きれいになった」
言われてみてみると、私の口元を拭った布は真っ赤だ。空腹で何も考えられずにただただ貪った結果、口の周りが恐ろしいことになっていたようだ。
ま、まぁ気にせずにごはーん!
「大丈夫、そうだな。よかった」
「元気いっぱい食べてるからね。一時はどうなるかと思ったけど、これなら大丈夫だよ」
「長老を呼びに行く前でよかった。呼んでたら、長老まで相当心配させることになってたわ」
うわー、相当心配かけてたんだね。自分でもびっくりだよ、丸二日眠り続けてたなんて。しかし、本当に何があったんだっけ……。
食事を取る手を止めることなく考えるのだが、やはり答えは出ない。うーむ、本当に何したっけ。
がぶがぶはぐはぐ。とりあえず、考えはするけど食べる手を止めるつもりはない。だって、空腹が限界だったからいくらでも入るんだ。
「ごちしょ、さまぁ」
いっぱい食べた、おいしかったぁ。お腹ぱんぱんになるまで食べちゃったよ。おかげで大満足。
「いっぱい食べたね。あれだけ血を飲んで、その上でこれだけ食べるとは思わなかったよ」
「だって、お腹空いてたんだもん」
オマケに、今の私は成長期だよ? 食べないと大きくなれないじゃないか。
そうして満足していると、突然お母さんに抱き上げられた。うん? どうしたの、お母さん。
「しばらくこうさせていて。本当に心配したんだから」
お母さんはそう言って私を抱きしめる。
「本当に心配した」
「よしよし、エーデルフィアは可愛いね」
「しばらくは俺たちから離れないでね」
お兄ちゃん、お姉ちゃんたちはそう言って、お母さんに抱かれた私を撫でてくれる。
「無事に目を覚ましてくれて本当によかった」
最後に、お父さんがお母さんやお兄ちゃん、お姉ちゃんたちごと私を抱きしめた。えへへ、何だか落ち着くね。
そうしていると、お父さんがお母さんから離れ、そして私を奪い取った。そして言う。
「さ、エーデルフィアも起きたことだし、みんなで出かけるか。外は気持ちいいだろう」
「あら、いい考え。でも、エーデルフィアは返してね、フォンシュベル」
「いいじゃないか少しくらい」
「きゅ?」
あれ? 何か、お父さんとお母さんの間で私の奪い合いが起こってるんだけど。うーむ、平和に済ませるためにはっと。
私を奪い合う二人の手をすり抜けて、ぱたぱたと飛んでお姉ちゃんの頭の上に着地する。よし、これで安全。
「あら? エーデルフィア、お母さんのところにおいで?」
「いいや、お父さんのところに来ておくれ?」
「エーデルフィア、呼ばれてるよ?」
「やー。二人とも何か怖いからお姉ちゃんの頭の上がいいー」
だって、このまま二人のところに戻ったら、また奪い合いに巻き込まれそうなんだもん。巻き込まれたくはありません。平穏こそ人生です。
って、お姉ちゃんと私を見る二人の目が怖いなぁ。んしょ、よいしょ。私はしっかりとお姉ちゃんに隠れた。これで、二人の恐怖の視線を見るのはお姉ちゃんだけっと。
「ん? ちょ、エーデルフィアずるいって! お父さん、お母さん、目が怖い!」
「あぁ、ゴメンねオースティア。どうしても、エーデルフィアを愛でたいと考えるとこうなっちゃうの」
「そのとおりだな。エーデルフィア、お父さんのところに来てくれないか?」
はい、行きません。行ったらすぐお母さんに奪われるよ? お母さんだから、お父さんからなら絶対に軽く奪い取るよ?
そんなのいやだから動きません。仮に動いたとしてもお兄ちゃんたちの頭の上にしか行きませんよ?
「……イヤだって。いいから行こうよ。エーデルフィアも早く外、行きたいよね?」
「うん! お外行く! みんなで外!」
お兄ちゃんたちと一緒、とかお母さんと一緒って言うのはよくあるんだけど、お父さんと一緒っていうのや、みんな一緒に外って言うのは初めてだから今のうちから楽しみなのだよ!
わくわくが止まらない! もう最高に楽しみすぎる!!
「うわー、エーデルフィア楽しそう。可愛すぎ」
「ホントだー。超可愛い」
「ふふ、行こうか」
うん! 行こう、行こうお外!
でも、ここで問題が一つ。
「さて、ここから少しお出かけとなると、お父さんかお母さんがドラゴンに戻って、全員がその背に乗って移動したほうがいいんだが、―――大丈夫か、エーデルフィア?」
うん、怖い。にっこり笑って答えてやった。
「だが、カーヴだとちょっと遅いからな……。どうする? お父さんに乗るか、外出をやめるか」
………!! 究極の選択肢が! 怖いお父さんのドラゴンの姿を見るか、外出自体を取りやめるか……。いやいや、外は行きたいよ。だって、初めてみんなで出かけるんだし。でも、お父さんのドラゴンの姿は怖いんだよね。ソレを考えるとちょっと引く。
―――でも、行きたい。怖い。行きたい。怖い。………どうしろってんだか。
「怖いなら、隠れていればいい。お父さんがドラゴンの姿でいる間、オースティアに隠れるなり、お母さんに隠れるなりすればいいさ」
「そうだよ。またフード付きの服着るから、それに隠れなよ」
う……うぅ、確かに隠れてれば見なくて済むし、お出かけも出来る………。
「お姉ちゃん、しっかり隠してね、見えないようにしてね!」
お父さんとお母さんのドラゴンの姿は大きすぎるから本当に怖いんだもん!!
だってあの二人なら、間違って踏まれそうだし、踏まれたら即死決定だし。お兄ちゃんたちなら気づいてくれそうだし、踏まれる前に私の攻撃飛ぶからいいけどさ。
お父さんたちにも踏まれそうになったら攻撃すればいいじゃん、って言ったやつ、舐めるなよ? お父さんたちがドラゴンの姿になったら、私の爪如きじゃ殆ど気づいてもらえないのだよ。お兄ちゃんたちは爪で引っかけば気づいてくれるけど、お父さんたちは引っかいても気づかないという前に、私が恐怖で何も出来ないから。
お父さんたちのドラゴンの姿怖い→踏まれそうで怖い→ソレを避けるために攻撃→ドラゴンの姿が大きすぎて怖くて動けない
こうなると完全に悪循環ですね。だから、しっかり隠れます、見たくありません、怖いです! でも外出は楽しみです。
そして、私たちが準備を終え、しっかりと隠れたのを確認するとお父さんはドラゴンの姿に戻ったらしい。お姉ちゃんがお父さんの背に乗る感じが伝わってくる。
とにかく、私は絶対にフードから出ない。お父さんのドラゴンの姿を見ない。怖い思いはいや。
それから少しして、お姉ちゃんが地面に降り立つ感じが伝わる。でも、私はまだ隠れたままだ。だって、お父さんが人態を取ってるとは限らないし? ドラゴンのままだと怖いし?
「エーデルフィア、もう大丈夫だから出ておいで」
そう思っているとお母さんに呼ばれた。恐る恐る、お姉ちゃんの頭の上で、ごそごそとフードから頭を出して周りを見渡す。―――よし、ドラゴンの姿は取ってない。
「おかーさん」
確認をして、お母さんのところへと羽を広げ、移動する。よし、甘えよう。
「よしよし、可愛い子。ほら、見てごらん、頂上に来てるから」
「うん?」
言われて冷静にあたりを見回す。あ、ホントだ、頂上だ。なら、これをやらなくては―――。
「やっほーっ!!」
うんうん、頂上ではこれをやらなくては。頂上ではこれをやるのが鉄則だよね、うん。
ちなみに、その様子をお父さんやお兄ちゃん、お姉ちゃんは微笑ましげに眺めていたよ。
そしてお母さんには、叫び終わると同時に思いっきり抱きしめられました。幸せです。
「その叫びに何の意味があるのか分からないけれど、本当に可愛い」
「ホントだね。ねぇエーデルフィア、その叫びは何なの?」
……あれ? この世界では山びことかってないのかな? 日本では山びこポピュラーだったのに。
「叫ばないの?」
「普通叫ばないね。でも、エーデルフィアが叫んでるのを見てると叫びたくなるな」
「うん、一緒に叫ぼー!」
せーの、やっほー! やっほー! やっほー!
おぉ、山びこ。しっかり返って来たぞ。お兄ちゃんたちも返って来た山びこに楽しんでる。
「すごい、音が響いてるのかな?」
「あはは、どーだろー」
山びこの仕組みって覚えてないしね。でもいいじゃん? 楽しいから。
そして今日は、みんなで盛大に叫んでから洞窟に戻った。本当に楽しい一日だった。
心配をかけた? 何ソレ美味しいの? そんなこと、今日一日の楽しさで全部忘れちゃったよ。
ちなみに、エーデルフィアが従妹たちに会った記憶、
そしてその前後の記憶は死の世界のあの人によって消されています。
幸せな生活のために、従妹たちの記憶は
邪魔な記憶として削除された、ということで。