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まさかの転生物語  作者:
ちびちびドラゴン
16/53

泣きましょう

若干暗い話になってしまいました。


暗い話が苦手な方……、

流し読みでお願いいたします。


「お姉ちゃん、これは!?」

「残念、これも毒。ほら、ここ見てごらん。ここがとがってるのはダメだよ」


 うむぅ、毒があるのはこうやって、草のまわり? がとがってるんだね。学習します!

 あ、ならこれは大丈夫かな? とんがってないし、裏に黒い毛も生えてないし、くさくもない。


「これはー?」

「あ、それは大丈夫。変なにおいとかもしないでしょ?」

「うん、普通!」


 なら大丈夫だね、大丈夫だよね! 目をキラキラと光らせながらお姉ちゃんに無言で問いかけた。

 そんな私にお姉ちゃんは淡く微笑みながら頭を撫でてくれた。えへへ、気持ちよすぎる。


「えへへー」

「よしよし、さぁ次を探そうね」


 うん、褒められると伸びるんだよ、私は! だからもっと褒めて、撫でて!




「おぉ、っと。今日は毒のあるものは……っと」

「無いよ! お姉ちゃんにチェックしてもらったもん!!」

「そうかそうか。でも、一応な。これでカーヴやサーファが間違えて毒草を摘んでいたら困るだろう? エーデルフィアに何かあったらいやだからね」

「う……」


 そう言われるとこれ以上文句は言えない感じ? まぁ、確かにお腹も壊したくないし、死にたくも無い。

 うぅ、仕方ない。お父さんの行動に関しては特に何も考えずに、とりあえず今は―――。


「さ、エーデルフィアはご飯までお昼寝にしようね」


 そうなるよね。朝からいっぱい寝た、っていうか横になってたから寝れないと思うんだけどなぁ。

 でも、お母さんは許してくれないんだね、抱えあげられる運命(さだめ)にあるんだね。


「いい子だから寝なさい」

「多分寝れないよ?」

「大丈夫、疲れてるだろうから寝れるよ」


 んむう、そこまで言うのならば……。ひとまず今はベッドで丸まっておくことにしよう。


 うん、寝てません、寝れてません。丸まって目を瞑ってはいるけど、全然寝付けないんだよね。眠れるまで、何か考え事をするか。例えば、前世の私の死後がどうなったか、とか、―――おちびーズのこととか、ね。

 あの子達は元気だろうか。私が死んだ後、しっかりと生きてくれているだろうか。

 私は、あの時あの子達を守った。でも、その後は知らない。きちんと生きてくれているのか、元気だろうか。

 薄れていく記憶の中のあの子達は、笑顔だ。最期に見たあの笑顔しか浮かばない。それでも、それでも。


 ―――泣き声だけは、耳に届く。



「エーデルフィア? どうしたの、大丈夫?」

「ふえ?」

「嫌な夢でも見た? ほら、涙を拭こうね」


 涙? え、私泣いてる? 鋭い爪を出さないように気をつけながら目に前足を触れさせる。うん、濡れてる。


「どうしたの? 怖い夢でも見た?」


 お兄ちゃんたちはそう言いながら、自分の服で私の流す涙を拭っていく。ありがとう、お兄ちゃんたち。しかし、どうして泣いちゃってたんだろう。

 久しぶりにおちびーズのことを考えたから? あの子達の泣き声を思い出してしまったから?

 そんなはずは無い。あれは、終わったことだ。私の記憶の中のあの子達は、いつだって笑ってくれているんだから。


 でも、あの子達のことを考えれば考えるほど、涙が溢れて止まらないよ。


「わわ! 大丈夫? そんなに怖い夢だったの!? ちょっと待って、お母さん!」


 私を抱き上げたお兄ちゃんが動く感じが伝わる。お母さんのところに行ってるのかな? 確かめたい、でも、視界は涙で滲んで殆ど見えない。――悲しい。


「ふ、うえぇぇぇえぇえ………、おかあさぁあぁん……」

「え!? どうしたの? ほら、もう大丈夫だから泣かなくていいのよー」


 お母さん、お母さん、お母さん。頭の中で何度も呼びながらお母さんの腕の中に納まる。離さないで、思い出させないで。思い出すのは最期の表情だけでいい。私は守ったのだから。

 なのに、どうして頭の中で声が聞こえるの? どうしてあの子達が泣いているの? 泣かないで、幸せに生きて。そう、願っているのに。

 思い出してしまう、あの日の泣き声を。逃げろと言ったのに戻ってきて、死にかけの私のそばで泣いていたあのときの声を。


 あの子達は、今何をしているの? 誰か、教えて。あの子達は、どうしているの―――?




『教えてあげましょうか』


 突然聞こえた声。誰の声かも分からないが、それは懐かしい言語だった。それは、―――日本語だった。

 そして私は、その言葉を聞いた瞬間に気を失った。



 目を開けてみれば、そこにはにこにこと微笑む人が見えた。えっと、この人は―――。


「お久しぶりですね、私が分かりますか?」

「死んだときに会った、説明くれた人」

「正解です。今回は、そのときに助けると言ったので、有言実行しました。助け、必要でしたよね?」


 そういえば、言ってたっけ。幸せな生活を保障し、助けるって。今回はそのためか。まぁ確かに、今回は助けが無くてはちょっときついな。


「というわけで、前世のあなたの従妹さんの様子を見に行きましょうか。あぁ、暗くならなくても大丈夫です。お元気ですよ」

「本当に?」

「ええ。お元気です、安心してください」


 それに、それが真実かどうかは、あなたが直接見て確かめればいい。その言葉にすごく納得してしまう。確かに、そのとおりだ。私自身が確認してみればいい。


「あぁ、ですが今日はちょっと暗いかもしれませんね。―――この日は、あなたの命日ですから」

「めい………にち……?」

「ええ、六回目の命日ですね。あなたが亡くなって、この世界ではまだ六年しか経っていないんです」


 命日……。つまり、私が死んだ日ということか。じゃあ、今日は前世の私の誕生日でもあるのか――。今考えてみれば、皮肉だな。二十一歳の誕生日に事件に巻き込まれて死ぬなんて。

 あの日、家に帰ればきっと、お父さんがケーキを買ってきてくれていただろう。大きなケーキじゃなくて、小さなケーキが十個くらい。毎年がそうだった、好きに選べるように、いろいろなケーキを買ってきてくれた。それも、遠い過去なのか。


「っと、つきましたね。あなたの従妹さんたち、もうすぐここに来ますよ。彼女たちは、毎年この日は墓参りに来ていらっしゃいますから」


 考え事をしていると、目的地についたらしい。そこは、―――墓だった。私の骨の納められた場所。私の眠る土地。


「新しい……」

「ええ、あなたのお家の墓は山の中であまり人が来れないから、とおじいさんがお金を出してくださったそうですよ? たくさんの人が来てくれるように、新たに作ってくださったそうです」


 じいちゃんが、お金を出してくれたのか。そこまでしなくてもよかったのに。どうせ私はそこにはいないんだから。

 そうしていると、後ろのほうから聞き覚えのある声が聞こえてくる。反射的に振り向くと、そこには、そこには会いたかった従妹たちがいた。


「お母さん、まず何する? 先に花を変えたほうがいいー?」

「好きにしなさい。亜紀、悪いんだけど、水を汲んできてくれる? 忘れてた」

「あ、うん。ちょっと待っててー」


 元気そうでよかった。私の死は、そこまで激しく影響しなかったみたいだね、それは幸い。

 ―――でも、やっぱり表情は暗いんだね、でかちび。笑ってはくれないんだね。


「お母さん、沙耶ー、水汲んできたよー。花変えよー」


 あぁ、おちび、お前もか。二人とも、やっぱり表情は暗いな。笑って欲しいのに。

 そして、その気持ちが伝わったのか一緒に来ていたおばちゃんが二人に笑うよう言う。そうしてやっと二人は笑顔を見せてくれた。


「あんたたちね、そんな暗い表情であの子が喜ぶと思う? 笑ってやりなさい。あの時も、笑ってって言われたんでしょ? 笑ってやれ」


 おばちゃん、感謝!! この声は聞こえないだろうけど、ここでお礼を言うね、ありがとう。本当に感謝してる。

 だからさ、おばちゃんが泣きそうにならないでくれる? 確かにおばちゃんは私を可愛がってくれた、だから私もおばちゃんが大好きだった。

 おちびーズと同じくらい、いや、それ以上におばちゃんは好きだったかもしれない。だから、おばちゃんも泣かないで。自分のせいでおばちゃんを泣かせたとなると、ちょっと自己嫌悪がキツイ。


「お母さん、私たちに笑えって言ったくせに、自分が泣きそうじゃん。それじゃ姉ちゃん悲しむよ?」


 よく言った、でかちび!! よし、おばちゃんの表情にも笑顔が戻りだしたな。これで、一安心。

 それにしても、私が死んで六年、でかちびも二十二歳、おちびも十九歳か。大きくなった。本当に、大きくなったな。

 でかちびもおちびも、体つきは完全に大人のそれだ、立派に、女性の体になった。これならば、もう彼氏もいるだろう。幸せに生きていけるだろう。


 私の可愛い従妹たち。元気な姿を見れてよかった。

 私の愛する従妹たち。君たちの笑顔を見れてよかった。


 6年間、毎年この日に私のために、こんなところに来てくれて、本当にありがとう。

 住んでいる市とこの墓の所在地、違うから毎回移動が大変だよね? それでも来てくれて、本当にありがとう。


 ―――さよなら。




「泣いていいよ、いっぱい泣いていい。全部受け止めてあげるから」


 優しい言葉。あの子達から離れてすぐ、あの人がその言葉をかけてくれた。その言葉に甘えて、遠慮なく泣かせてもらう。

 悲しい、悲しいさ。あの子達は、私の死を吹っ切った。なのに、死んだ本人の私が一番吹っ切れていない。



 ―――私が、一番あの子達に執着している。


 離れなくては。あの子達から、離れなくては。これ以上関われる場所にいると、今まで以上に執着してしまう。どうにかしてでも、自分の声を届かせたいと、話をしたいと考えてしまう。

 だが、それはあの子達にしては迷惑以外、何も無いはずだ。せっかく吹っ切れたのにまた現れては、厄介だろう。


 だから、今は泣かせて。たくさん、涙を流して、その涙と一緒にあの子達への執着心も流してしまって。

 こんな心、今生(エーデルフィア)であっても、邪魔なだけだから。だから、全て流れてしまって。


 私の名前は、エーデルフィア。あの子達と同じ時間を過ごした"堤円香(つつみまどか)"という少女は、もう存在しないのだから―――。



 さよなら、前世の私(堤円香)

 さよなら、おちびーズ。

 さよなら、みんな。


 ―――――私は、新しい人生を生きているよ。




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