あの日を想う
すっごい気まぐれに書いてみました。
人外生物が主人公の連載小説書いてみたかったんですよね。
守らなくては。この子達だけは、守らなければ。
私はどうなってもいい。死んだってかまわない。
だけど。だけどこの子達だけは………。
だから、逃げなさい。私のことなんて放っておいて。
早く、安全な場所まで行きなさい。絶対に振り向かないで。
イヤホンをはめて、まわりの音が何も聞こえないように。
聞いてはいけない。聞いたら狂ってしまうかもしれない。
だから、何も聞かずに逃げなさい。
――――そして、ここには戻ってくるな。
私は、あなたたちさえ無事ならばそれでいい。あなたたちさえ日常に戻ることが出来たなら。
ねぇ、どうして戻ってきたの? どうして泣いているの?
暗闇の中で、ふと思う。
あの子達が泣いている。悲しそうに、辛そうに。
―――泣かないで。
重たい腕を必死で動かす。重たい瞼を必死で持ち上げる。
そして、口を動かす。
「…………に、泣いて……の、ちびっこ……」
「っ! 姉ちゃん!」
「え!? 姉ちゃん!!」
「この、泣き虫……おちび……ズが……」
「ちび、じゃないもん!」
おいおい、泣かないで欲しいのに、どんどんと涙が溢れてるよ。これは、動かしづらい私の手じゃ、拭いきれないな。
「い……から、泣くな……。……げろ……」
泣かないで早く逃げて。早く、安全なところへ。
私は放っておいてかまわない。だから、早く逃げなさい。
「逃げない! お巡りさん、いるもんっ! も、すぐ、救急車も、来るから!」
「は、犯人も、捕まった、よ!」
そか、この子達は大丈夫だね、警察がいるのなら。
でもね、おちびーズ、救急車は多分、無駄だよ。私は多分助からない。
致命傷を負うと痛みを感じないって本当なんだって、今実感してる。
―――痛みを感じない。体の感覚が何も、何もないんだ。
分かるのは、傷口からどんどんと血が流れていく感覚、どんどんと体から熱が消えていく感覚だけ。
「な……くな……て……。寧ろ……笑え?」
ねぇ、だから最期に笑顔を見せて? この目に、あなたたちの笑顔を焼きついて逝かせて?
あぁ、可愛い私の従妹たち。泣かないで、嘆かないで。
二十一年の人生は、良いものではなかったけれど、私は幸せだよ?
――だって、可愛いあなたたちを守れた。私が、あなたたちの未来を繋いだ。
私自身の未来はどうでもいい、どうせ死にたかったんだから。だけど、あなたたちの未来だけは、守りたかったんだ。
だからね、私は不幸じゃないんだよ?
あぁ、目の前が少しずつ暗くなっていく。音も遠くなっていく。
あの子達が泣いてる。ずっと、ずっと泣いてる。
だけど、私の瞼に焼き付いているのは、最期に見た、あの笑顔。
涙を流しながら、それでも私の要望に応えて微笑んだ、あの笑み。
もう、何も見えない、何も聞こえない。
―――深い闇に、堕ちた。
ようこそ死の世界へー! 目を覚ましてすぐにかけられた言葉は、これでした。
死の世界。つまり私は死んだ、と。まぁ、それもそうか。あれだけ殴られ、刺され、嬲られってすれば死ぬだろうね。
でも、目を瞑れば見える、あの子達の笑顔。涙を堪えて必死に微笑んだ愛らしい姿。
そんな、可愛いあの子達を守ることが出来たのだからよしとしよう、うん。
まぁ、とりあえず。私は近くにいた人を捕獲し、声をかけた。
「とりあえず、いろいろと説明が欲しいです」
「はいはーい! じゃ、簡単に説明していきますねー!」
まず、ここは先ほど言ったように死の世界、死した人の集まる世界です。
普通は、天命に従い、人はこの地を訪れます。ですが、たまに天命に逆らい死した人がいるんですよ。
―――あなたのように。
普通、天命を果たし死した人たちは、しばらくこの地で過ごし、輪廻の輪に戻っていきます。
ですが、あなたたちのように天命を果たさずに死した人たちは違います。
天命を待たずに死した人たちは、この世界に転生することが出来ない。
ですが、天命を待たずに死した人たちの中には、あなたのように望まずして死した人、あなたたちのような人たちもいますし、自ら死を選んだ人もいます。
その人たちを、みんな一緒くたに考えるわけにはいきません。
ですから、あなたたちのように望まずしてこの世界に来た人たちには、しばらく魂を癒してもらい、異世界に転生してもらいます。
その際は、我々が絶対に幸せな生活になると保障し、そしてお助けしましょう。
だから、あなたはしばらくお休みなさい。
今はただ、その魂を回復させるために、眠りなさい。