二品目
王都の外れの半分スラムに近い場所、私が勤めていた侯爵家をやめてから二日が経っていた、表立っては侯爵家も騒いでいない、だからと言って盗んだものをすべて売り払うのは恐ろしい。
「これを売りたいのだけど、いくらで買ってくれる?」
そういって盗んだ目立たない宝石類をカウンターに置く。
うひひ、街で見かけた人相の悪そうな男に宝石を拾わせて後をついていくだけでこんないい場所が見つかるなんて最高ね。
と、思ったのもつかの間―――
「6万Gだな」
「はぁ!?6万G!?ふざけんなよ爺さん!どう見ても10万G―――」
そうだ、さっきの男は30万G手に入れていた、ならこの宝石だって、少なくても10数万は――
「なぁに知ったかぶっとるか小娘、盗品なんぞこれでも高いほうじゃて、そぅいえばさっき来た男の真珠はすごかったのー、誰のおかげで手に入れたのかは知らんがこうしゃk――」
爺完全に分かってやがるし!?どうしてわかった!?
内心で驚愕していると爺さんはむかつく笑みを浮かべて此方を嘲っている。
「ひひ、どうするのじゃ?」
うぜぇ・・・こいつの見下すような顔がうぜぇ・・・まぁいいこんな所で躓いている場合じゃない。
「わぁかったわよ!6万G!口止めもこみにしておいてよね!」
そう言って両手の平をカウンターの向かい側にいるよぼよぼ爺に差し出す。
「おぉ、怖い怖いじゃあ商談は成立ということで、よいしょっと」
白髪頭の爺が棚の下から金庫を取り出して金貨を六枚取出し机の上に置く。
「ふんっ」
金色の硬貨が1万G、銀色の硬貨が5000G、白い硬貨が1000G、赤色の硬貨が100Gで銅色の硬貨が1Gだ。
誰にも取られないようにそれを強く握り込み自分の財布に入れて厳重に裏ポケットに入れる。
「しかしお主も怖いもの知らずじゃな、貴族に、しかも侯爵家にケンカを売るなんて普通やらんわい」
「………私は何も知らないわよ?」
うかつなことは口に出さない、それがこの世界の掟というか、注意だ・・・まぁ普通自分がそんな馬鹿なことをしたって言わないと思うけど。
「そうじゃったの、ひひひっ、またのご来店をお待ちしておりますよ」
踵を返した私に頭を下げる老人、私は扉を開け手に入れたお金とともにある意味清々しい気分で外に出る。
「まだまだ私の人生は始まったばかりよ!」
少し重くなった財布に口を緩め大事に服の上から財布の入ったポケットを撫でる、そして気を引き締める、そうだ私の夢は金銀財宝のプールで泳ぐことなのだから!
とりあえず次の標的が見つかるまでここら辺周辺を散策して金目のものがあったら考えておこう。
「すまない、二か月ほどここに泊まりたいのだけど」
とりあえず寝る場所だ、ということで人通りの多い場所に面する宿屋に行く、中に入りカウンターの内で計簿帳に何やら記載しているもようの女将、文字数字を十分に理解している平民はこの世界ではあまりいない、大抵が簡単な単語と数字の計算ぐらいだ。
「あいよ、1600Gだよ」
女将に話しかけると彼女はこちらをちらりと見た後すぐに返事を返し、私は彼女の言った言葉の内容について困惑する、なぜなら宿屋の一か月の平均相場は1000G前後、なのにここは一か月800Gである。
「わかった・・・それにしても安いわね?」
おいしい話には裏がある、いつでもどこでも裏切りが潜むこの世界はゴミみたいなもんだ、右手で握手して左手にナイフを持つ、そんな世界だ。
「おや?あんた知らないのかい?」
上機嫌に話す女将、何かあったのだろうか、最近の出来事といえばこの国の王が変わったぐらいだろうか・・・。
「何をだ?」
「新しい王様が税金を下げてくださったおかげで物価が少し安くなったのよ」
「ふぅん・・・なるほどね・・・あぁそれと食事はいらないから」
「ん、それじゃぁ1000Gでいいよ、これは部屋の鍵だから」
「ありがとう」
財布から白色の硬貨を一枚取り出して女将に渡し、その代り鍵をもらう、この後酒場に言って情報収集しなくちゃね、どうせたいした話はないだろうけど。
部屋で一休みした後の夕刻に近い、そんな時間に私は表通りを少し外れた所詮歓楽街といった場所に来ていた、そのうちの一つ、私がメイドの仕事をする前、この国に来てからよく通ういきつけ・・・というほどでもないがよく行くバーの扉を開け、席に座る。
「マスター、苦くないやつ一杯ちょうだい」
「ん……」
辺りは冒険者や貴族、お姉さんやお兄さんの喧騒に包まれている、ここのマスターは寡黙であるため私のお気に入りの場所だ。
お酒を一杯頼むとすぐに甘い果実酒が出される、琥珀色でとってもきれいだ。
「マスターなんかいい話ない?」
お金を余計につかませて何かいい話がないかと聞いてみる、すると。
「そういえば、王が新しい側妃の侍従を探しているそうだ、条件は侯爵以上の階級の下で侍従をしていたことだ」
「ふーん」
まぁ私も一応資格があるが行きたくない、お姫様の侍従なんてもうこりごりだよ、そう思いながら甘いけど喉を熱くさせる琥珀色のお酒を一気に飲み干す。
机に頬を押し付け氷がコップの中で溶けていく様を観察する、周りの人間がコップと氷に映って溶け込んでいく、赤や黒や茶色。
感傷に浸っていると店の中央辺りのテーブルで品のない笑い声が響く、そちらを見やると昼に宝石を拾わせた男が数人の仲間とともに酒盛りをしていた。
「うるさいわね」
これだからこの世界の馬鹿は困るわ。
「お前の蒔いた種だろ?我慢しろ」
時が止まった、どーして知ってんだよぉぉおおお!?
「……どーしてばれてんのかねぇ、はぁ」
まぁ大体予想はつくけどね。
「あそこの爺は俺の知り合いだ」
「あががが、あの爺今度会ったらただじゃすまさねぇ」
頭を抱えカウンターに沈みこむ、誰にもいわねぇんじゃねえのかよ?
「あんまり無茶するな」
マスターが少し困った顔で私を見てくる、あーあの爺殺す、絶対殺す。
「むぅ、ありがと」
どうしてかここのマスターは私に優しい、女って便利だなーぐらいにしか思わんが。
「それと―――」
マスターが何かを言いかけた時。
「ここにライカンという男はいるか!」
店の扉を吹き飛ばして騎士たちが数人入ってくる、ライカンという言葉でさっきまで騒いでいた中心の男が青ざめた表情をする。
「あいつだ!捕えろ!」
最初に入ってきた赤い服を着た騎士が叫び、他の騎士たちが動き出す。
ライカンと言われた男は少し逃げた後、私を見つけて懐からナイフを出して走ってくる。
人質ってか?残念なことに私そんなになまっちょろく無いの。
私の首根っこを掴もうとするライカンの右手首をつかみ右に倒す、走った勢いのままカウンターに勢いよく頭をぶつけたライカンはそのまま意識を失った。
……ついでにお金も少しもらっておこう。
とっさに隠れようとするがすぐにばれ、逃亡する。
が、ここに逃げ場などなくすぐに捕えられそうになるが、視線の端に黒髪の侍従服をきた少女が映り、突破口を見つけ出す。
「くくっ」
そうだ俺はライカン様だぞ、こんなところで摑まるわけがない、やっと俺に運が回ってきたんだ、今ならなんでもできるに違いない。
懐からナイフを取り出して女を人質にしようと走る。
「しまった!?」
騎士たちが狙いに気付いたようだがもうおせぇ!
女の首根っこを掴もうとした瞬間女は俺の手首をつかんで片方の手で内側に押した、たったそれだけの動作で俺の軌道は変わり視界がカウンターの角に変わり、激しい痛みと共に俺の意識は途切れた。
『解析』の魔法でライカンの動きをくまなく解析して力の点をずらしてやった、するとあら不思議、簡単に人が転びました、このくらいは朝飯前だ、その気になれば片手で人体関節を全て外せる・・・そのくらいこの魔法は便利なのだ。
初歩の初歩だからあんまり気づかれないのもお得だよね。
「協力感謝するよ」
「あ、はいお役にたてて光栄です」
貴族であろう赤い騎士が私と会話している、ライカンは連れて行かれたので俺としては早くこいつに帰ってもらえないかなーとか思ってるんだけど。
「君はこの近くで侍従の仕事でもやっているのかい?」
多分この服を見て言ったんだろう、これだから貴族は嫌だ、替えの服なんて持ってないに決まってんだろ?
「いえ、この間お暇をいただきましたので」
無職でーす、私を知る数人の常連客が苦笑している、おいこらマスターも苦笑いするな!そんなに敬語がおかしいか!?可笑しいのか!?
「そうかい、もしよかったら僕の所で働いてくれないかな?」
煌びやかな金の髪の毛と金の瞳で俺を覗き込んでくる。
「私のような貧民出の女子では騎士様のような立派なお方の所で働くなど――」
――できません、そう言いかけると赤い鎧の騎士は私の肩に顔を近づけてまるで頬にキスをするかのように。
「金貨三枚」
私にだけ聞こえる声ではっきりといわれる。
「―――っ!?」
どうしてライカンから盗んだ金を!?
「そういうことをしていると怖いお兄さんがやってくるよ?」
微笑みながら静かに告げる目の前のムカつくイケメン、馬鹿にしやがって……。
「ほ、ほほほ、何のことかわかりませんわね~ひゅぃっ!?」
せめてもの抵抗に白を通そうとすると頭を掴まれ耳に小さな声でささやかれる、息が耳に当たる。
「逆らうつもりかい?」
「ぐぅ………分かりました」
悔しい!悔しい悔しい!こんな奴に!こんな奴に手玉に取られるなんて!
現在112000G