世界の終わりは、君のまばたきと同時に訪れた
それはほんの一瞬の出来事だった。
君が瞬きした瞬間、僕は地球の滅亡を幻視した。
まるで地球が悲鳴を挙げるかのように、突然数多の天災が降り注いだ。
太陽は見えず、寒冷化がどんどん進み、草木は生えなくなり、生き物は成す術もなく死んでいった。
人類もまた同じ。
僕たちは最後の配給レーションを頬張り、凍えた身体をお互いの体温で温め合い、それでも間に合わず死んでいく。
予知と呼ぶにはあまりにも鮮明で、幻覚と呼ぶにはあまりにも論理的だった。
「どうしたの?ぼーっとして」
君が僕の顔を覗き込む。君の柔らかい茶色の瞳の中に、僕の顔が映る。
「いや、なんでもないよ」
僕は慌てて言葉を取り繕った。何も顔に出てないだろうか。不安だ。
君は怪訝な表情で、「ならいいけど」と呟いた。
心臓が早鐘のように、ドクドク鳴っている。
さっき、僕は未来を見た。時刻は明日を示していた。
「明日さぁ、ゲーセン行こうよ。サトシも呼んで、それで変顔プリ撮ろうよ」
「いいね」
指先の感覚が冷えていくのが分かる。
この事実を誰に伝えればいいんだ。でもこんな話、誰も信じてくれないだろう。
せめて、君だけでも。
僕は唾を呑み込んだ。
この地球にいる限り、逃げ場はないのに、どうやって君を生かせる?
僕だけが知っている未来で、君は何も知らない。この事実に、心が折れそうになる。
思考は堂々巡りを繰り返した。
僕は震える声帯を抑えて、平常みたいな顔で言った。
「明日世界が終わるとするなら、どうする?」
君はジト目をした。
「なぁに?そんなこと考えてたの?らしいっしゃらしいけど。そうだなぁ、私だったら、今日をいつも通り生きるよ」
「いつも通り?」
「そ、だって明日世界が終わるってことは、明日死ぬってことじゃん。だったら今ある日常を精一杯生きたい。それだけ」
「そっか」
君は僕の肩を軽く叩いた。スクールバックが少し揺れる。
「何悩んでいるか知れないけど、話したいとき話してよね!」
「うん」
夕焼けに包まれた君の顔に、退廃の気配を感じた。
「それでねー」
今日が気持ちよく終わって、明日が何事もなく来ると信じている君の声。
僕たちの影法師がゆらゆら揺れる。
頭上ではカラスが鳴いていて、冷たい風が早く家に帰れと急かしている。
「うん、うん」
僕は君の話に相槌を打ちながら、明日のことを思った。
明日世界の終わりが来る。
あっという間に死んでしまうそのときまで、僕はこの日常を噛み締めよう。
これが幸せだと思おう。
空を赤く染める夕日は、憎たらしいくらいいつも通りだった。
それを睨みつけながら、僕は君と共に、帰路に着いた。
未来の果て、死ぬ間際の意識が無くなる瞬間、僕たちは何を思っていただろう。
それでも共に生きよう。
君と歩く今が、僕にとっての世界そのものだ。




