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第3話 追跡

清水寺、寧々の道、高台寺、八坂神社・・・

京都の定番観光スポットを満喫した寿々菜と武上。


武上としては、デート気分を味わいたいところだが、

高校1年生の寿々菜は24歳の自分のことを、いいお兄さん、としか見ていないことを

武上はちゃんと分かっている。

だから、必要以上に寿々菜に近寄ることはしない。



焦る必要はないさ。

寿々菜さんが高校を卒業した頃に、

今度こそ恋人同士として一緒に旅行でもしよう。



見上げた男気で、武上はしっかりと寿々菜の子守をした。

一方寿々菜は、そんな武上の気遣いになど全く気付かず、

観光客が化けた舞妓を本物だと思い込み、一生懸命写真を撮ったりしている。


そんな姿ですら、武上には微笑ましく思える。


「はあ~、いっぱい歩いたらお腹すいちゃいましたね」

「そうですね。夕飯は旅館で食べることになってますけど、まだだいぶ時間があるし・・・

あそこの喫茶店で、何か甘い物でも食べましょうか?」


そう言って武上が指差したのは、寿々菜でも知っている超有名な甘味処。

もちろん寿々菜に反対する理由などない。


「あそこのパフェって有名ですよね!でも・・・うわあ、すごい並んでる・・・」


寿々菜たちと同じ観光客なのであろう、ガイドブック片手にその店に並んでいる人の列は、

歩道にまで長く伸びていた。


「どうします?」

「うう・・・せっかくだから食べたいです・・・」

「わかりました。じゃあ並びましょう」

「はい!和彦さんのサイン会の時の行列に比べたら、大したことありませんもんね!」

「・・・」


和彦のサイン会ともなれば、何千人、というレベルの行列なので、

確かに寿々菜の言う通りなのだが、武上としては同意したくない。


とにかく、2人は列に並ぶことにした。

が。


「あ、あの」

「どうしました、寿々菜さん?」

「ちょっと・・・お手洗いに行って来ていいですか?」


寿々菜はもじもじして言った。

本当はもう少し前から行きたかったのだが、

寺や神社のトイレはどこも並んでいて、やり過ごしてきたのだ。


ちょうど今並んでいる喫茶店の近くにコンビニがある。

そこのトイレを借りようと思ったのだ。


「ええ、もちろん。ここは僕が並んでいます」

「ありがとうございます!」


寿々菜はすぐさま列から外れると、コンビニに早足で向かった。






私と同じことを考えてる人が、少なくても三人いるんだわ



寿々菜はそう思いながら、コンビニのトイレでも列に並んで、

4番目にようやく目的を果たすことができた。


その後、「何も買わずに出るのは悪いかなあ」と思い、

意味も無くコンビニの中をぶらついた。

そして、アイスクリームケースの中に、さっき武上と並んでいた喫茶店が売り出しているアイスクリームのカップを見つけ、「これでいいじゃない!」とか1人で文句を言っていたのだが・・・


突然、寿々菜の右肩に何か固いものがぶつかった。


「あ。すみません」


寿々菜が振り向くと、見上げるほど大きな男が寿々菜に向かって申し訳なさそうに頭を下げた。

その肩には、なにやら四角くて薄っぺらい黒の鞄がかけられている。

「私の部屋に貼ってある、和彦さんのポスターくらいの大きさだなあ」と、

寿々菜は思った。

つまり結構大きな鞄なのである。

どうやら寿々菜にぶつかったのは、コレらしい。


「いえ、大丈夫です」


寿々菜はそう言いながら、思わず男を見つめた。



本当に大きい人だなあ。

背の高さは和彦さんくらいだけど、

筋肉質でがっしりしてるから、余計に大きく見える・・・



その時、男の肩から鞄の紐の一つがずり落ちた。

男は慌ててそれを肩に掛け直したが、その一瞬、

鞄の中身がチラッと見えた。


額である。

そしてその中には絵があった。



あれ?どこかで見たことがある。



寿々菜は首を傾げた。

本当に少ししか見えなかったが、

馬が荷台のような物を引いている絵だった。

そして、その荷台の車輪の跡が地面に描かれていた。



車輪・・・

車輪の跡・・・

・・・轍?

そうだ!「轍」だ!



そう。その絵は、さっき山崎に見せてもらったチラシに印刷されていた「轍」と同じように見えた。

寿々菜がそれに気付き、顔を上げた時にはもう、

男はコンビニから出て行っていた。



間違いない。

あの絵は「轍」だ。



寿々菜は確信した。



寿々菜は、和彦と一緒に趣味で(?)探偵まがいのことをやっている。

和彦は主演ドラマの「御園探偵みそのたんてい」で鍛えた推理力で、

いくつか事件を解決しており、そのことについては武上も一目置いている。

そして寿々菜は、推理という点ではからっきしダメなのだが、

何故か直感が優れており、和彦の推理の手助けをしているのだ。


直感には少し自信がある。

和彦もそれは認めてくれている。


寿々菜は、男が持っているのが「轍」だ、という直感を信じ、

急いで男の後を追いかけた。






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