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第10話 源流

「はぁ?偽物?」


和彦の顔が歪む。


「はい。一見『轍』に見えますが・・・違いますね」


山崎は自信があった。

パンフレットやネットで見た「轍」と似てはいる。

だがしっかり見ると、完全に素人の仕事だ。


「おい、門野社長、じゃなかった、狸、じゃなかった、おっさん」


もはや誰のことを言っているのかよくわからないが、一応フォローしておくと、

館長のことを言っているのである。


「し、知らん!私は知らん!!」

「この期に及んで言い逃れしようなんて考えない方がいいぞ」

「そうですよ、館長さん」


キレ気味の(いや、キレている)和彦を制して、武上が前に進み出た。


「まだ、警察にも保険会社にも盗難届けは出してませんよね?

適当な理由をつけて、早く本物の『轍』を展示して下さい。今ならまだ何の罪にもなりません」

「だから!確かに私は絵を隠して、盗まれたことにしようとは思っていた!それは認める!

だが、ここに本当に本物を置いておいたんだ!」


和彦と武上は顔を見合わせた。

館長が嘘をついているようには見えないし、

計画がばれている以上、絵を隠しても仕方ない。


ということは・・・


「館長がここに置いてあった絵を、誰かが本当に盗んだってことか?」


武上が呟く。


「だろーな。おい、おっさん。荒らされたような跡はあるか?」

「な、い、と思う」


館長はまだ真っ青のままだ。


「頼りねーなあ。でも、そうだとすると、犯人は普通に鍵を使ってこの家に入り、

『轍』を持ってったってことか」

「そうなるな」

「おっさん。この家の鍵は、他に誰が持ってる?おっさんの家族とかか?」

「・・・」


何故か黙り込む館長。

和彦にはその理由が分からなかったが、

数々の犯罪者を相手にしてきた刑事の武上にはピンと来るものがあった。


「誰も持ってないんですね?」

「・・・」

「ご家族、つまり奥様ということですが、奥様もこの別荘の鍵を持っていない。

そもそも、この別荘の存在も知らない。そうですね?」

「・・・」


和彦が呆れたように「はは~ん」と言った。


「ここは女を連れ込むための別荘って訳か」

「・・・この家のことは、家族には・・・」

「んなこた、どーでもいいんだよ。じゃあ、本当に鍵を持ってるのはおっさんだけなんだな?」

「あ、ああ。そうだ!合鍵なんかもない!」



このおっさんのことだから、寝てる間に女にこっそり合鍵作られてもわかんねーだろーな



和彦はそう思ったが(ちなみに武上も思った)、そこを追求しだすと切りがなさそうなのでやめた。

とにかく、誰かがどうにかしてこの家に入り、本物の「轍」を持ち去ったことだけは確かなようだ。


しかし。


「・・・和彦さん」


寿々菜が偽物の「轍」から目を離さないまま、和彦を呼んだ。


「どうした?」

「・・・何か、ちょっと・・・」

「お。来たか」


寿々菜は頷いた。


昨日は寿々菜の直感、というか勘は外れたが、

今日のこの違和感は・・・間違いない。

いつも事件が起きた時に感じる、あの違和感だ。



なんだろう?あの絵。

何か凄く違和感を感じる。



「どんな感じの違和感だ?」

「えっと・・・あの偽物の絵・・・誰が描いたんでしょうか?」

「は?」


寿々菜はようやく絵から目を離し、和彦を見た。


「『轍』が欲しいなら、盗むだけでいいですよね?どうしてあんな偽物を用意したんでしょうか?」

「・・・なるほどな」


言われてみればその通りだ。


「轍」が本当に盗まれたということに館長が気付くのを遅らせたかったとしても、

わざわざ絵を描いてまで偽物を準備するだろうか?

山崎でも素人が描いた物だとすぐに分かったのだ。

盗難に気付くのを遅らせる方法としては、手が込んでいる割に意味がない気がする。

それなら、同じような大きさの白いカンバスに布を掛けておくだけでもいいのではないだろうか。


「おっさんが、最後に本物の『轍』を見たのはいつだ?」

「一昨日、ここに運び込んだ時だ」

「・・・ふーん」

「ほ、本当だ!」

「誰も嘘だとは言ってねーだろ。ついでにもう1つ質問だ。

おっさん、実は絵に興味なんてねーんだろ?金になるから好きなだけだろ?」


聞くまでもなくそうだろうが、

和彦は思うところがあり、念のため確認した。


「い、いや、その・・・私は絵には余り詳しくなくて・・・」


和彦はため息をついた。



やっぱりな。

つまり・・・なるほど、そーゆーことか。



「よし、こーなりゃとことん付き合ってやる。おい、武上」

「なんだ」

「源流まで遡るぞ」

「源流?」

「ああ」


和彦は、いつの間にやら床にへたり込んでいる館長の胸倉を掴んで立ち上がらせた。


「おっさんにも、付き合ってもらうからな」





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