表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

過去形にならないI love you

作者: ごはん

「忘れられないってことは、まだ、終わってないってことだと思うんだ。」


彼がそう言ったのは、春が終わりかけたころだった。

桜の花びらが舞い落ちて、通学路に白い絨毯をつくっていた。


あのとき私は、何も言えなかった。

ただ、手に持っていたイヤフォンから流れる曲に耳を澄ませていた。


幾億光年を超えて、会いにきてくれるような

そんな声が、確かにあった。

心に触れるように、名前を呼ぶように。


でも現実は、彼が引っ越してしまうことだけが確かで、

私は残される側だった。



数年後、都会の地下鉄。

人混みの中でふと耳に入ったのは、

あの曲のイントロだった。


コンビニのスピーカーから、少し小さな音で流れていた。

けれど私の中には、大きく響いた。


最後のフレーズ。

「過去形にならない I love you」


時間が経っても、距離が離れても、

言葉にならなかったあの想いが、今もちゃんと生きていた。



私はスマホを取り出して、彼に初めて送った。


「あの時、何も言えなかったけど、

 私も同じ気持ちだった。

 ずっと。

 いまも、“過去形にならない”って思える。」


しばらくして、画面が震えた。


「音楽って不思議だね。

 あの曲、今朝、ふと口ずさんでたんだ。

 やっぱり繋がってたんだね。」


涙が頬をつたった。

でもそれは、悲しみではなかった。


幾億光年よりも長い沈黙を越えて、

ようやく届いた、ひとつの「I love you.」


それは過去にならないまま、

今日も私の心の中で、静かに、優しく響いている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ