第一話『船はいいなあ』1/3
◆【ホテル】
国内最強のポーカープレイヤーは?
日本で新しく設立されたプロ制度。そこに登録された4名の男女。
テキサス・ホールデムの強さというのは何を基準にするかは難しいが、実績ならば意見はまとまる。
ジャパンAHP杯第二回優勝
ジャパンAHP杯第四回準優勝
ジャパンAHP杯第五回優勝
第34回WSOP決勝進出
第38回WSOP八位
第5回CKRP杯優勝
第7回CKRP杯準優勝
第8回CKRP杯七位
20XX年日本ランキング1位
20XX年日本ランキング1位
20XX年日本ランキング1位(3年連続)
遠目なら中学生でも通じる小柄の男性は今年30歳を迎える。
その男の名は『二階堂春樹』(にかいどうはるき)。
春樹「……」
パソコンと向かって3時間経ったところで、コーヒーを入れ直して休憩をする。
春樹「これは手強い」
外国人ならばもっと脇が甘いと思っていた。それは依頼者も、ボク自身もが過去の経験から勝手に判断していた。
9.使用者等が次の各号の一に該当する場合は、使用許可を取り消し、変更し、または原状回復を命ずることがある。
当該処分により使用者等にいかなる損害が生じても管理者(共同企業体)はその補償を行わない。
(1)公用または公共の用に供するため必要が生じた場合。
(2)許可条件に違反した場合。
(3)管理者の指示に従わなかった場合。
この手の公的文書なんて基本テンプレの使い回し。
穴をついたのかとも思ったがそうじゃない。
裏でどんな悪どいことをしているのやらと思ったが、まさか正々堂々根幹から覆すとは。
テーブルの上に置かれたスマートフォンから、相手の声が小さく響く。
スピーカー越しの声はどこか乾いていて、微かに電子音の混ざったノイズが耳に残る。
???「つまりどういう事だ?」
春樹「使用申請書の成約内容が異なる物を2種類用意してますねー。一般用と常連用って感じの使い別けじゃないかな」
春樹「きっと表向きは常連さんは確認時間を短縮できます~って流れ……なのかな?」
自分でアウトプットしながらよくわからなくなってきた。
春樹「一般の利用者からすればどうでもよくて、別に従来の手続きも特別面倒くさいわけじゃないしどちらも問題なく出港できる」
春樹「本丸は――文を一行削っている」
(4)公序良俗に反する行為があった場合。
なんでもないこの一文が、ごそっと抜けている。
……そもそもこんなのもの、責任逃れの役人が作るペーパーに過ぎない。蟻の一穴さえ許さないというのか。
しかし、これで政治献金の内訳が繋がった。
その献金の先は……。
春樹「そうか……国土交通省、なるほどね。てっきりカジノ設立後には予算お願いね、って意味だと思ったけど……そうじゃないっぽいですね」
まだ調べてないけど、間違いなく港管理組合にも資金が流れている。
オンラインカジノの取り締まりが目に見えて厳しくなった。
ランドカジノの設立。
大阪万博の開発後、新たに始まるカジノ利権を牛耳る省益争いで我こそはと有名人を片っ端から逮捕して実績を作って天下りを取りに来た警察庁。
パチンコ利権に飽き足らず、卑しい組織だ――では話は終わらない。
黙って見てるほど、他の省庁も大人しくはないわけだ。
春樹「アナタの言う通り、FOC船の購入もこれで繋がった」
???「そうか」
でも――それならどうする?




