第十三話『フィッシュではなくスリーセブン(後半)』5/7
正明「レイズ」
ラシェル「ダウン」
正明「レイズ」
ラシェル「ダウン」
ラシェル「レイズ」
正明「ダウン」
差し合いは全くの五分で進む。
BB/SBが巨額になったため、差試合でも変動するかと思われたチップは不気味にも静止したまま。
強いカードが入った時に相手は降りて、オレが弱いカードの時に向こうは攻める。
中途半端なカードの場合、こっちがリスク覚悟でブラフに出るが、向こうも必勝ではないので乗り切れないのが現状。
つまり、そろそろカウンターパンチを食らうか。
もしくは本命の時に誘発できるか。
【ダイヤA】【クローバーQ】
正明「レイズ20,000」
ラシェル「リレイズ50,000」
――よし!
勝負手でのレイズ!
正明「リリレイズ100,000」
ラシェル「コール」
チップを捨てる覚悟で「ハッタリをかます」初心者戦法がここにきて最高の形を迎えている。
ディーラー「ツープレイヤー。フロップ。オープン」
正明「……!」
――来い!
フロップ前に全財産の3割以上。この手は絶対に勝たなければならない!
ラシェル「……」
AとQ。こいつをぶっ殺す、カード……!
三枚のカードがめくれるーー!
【ハート8】【ハート9】【ハートT】
全て、ハート。
正明「……」
ぐっ……!
正明「チェック」
ペアができないのもそうだが、相手は下手すりゃこの時点でハートのフラッシュ、もしくはストレートが揃ってる可能性もある。
ラシェル「レイズ20,000」
正明「……?」
レイズ20,000は、かなり小さい。
もちろん普段で考えればでかい額だ。
だが今は場に双方が100,000を出したので200,000ある状況。
それを、20,000で降りてくれなんて虫が良い話だ。
正明「……」
だからその裏を返せば、本当は強いカード。
その裏を返せばやっぱりブラフで……。
はは――ギャンブルだな。
表情を伺う。そこには余裕を感じるが、それはいつも通り。
正明「……」
ぐ……!
ラシェル「……」
舐めた目で見下しやがって――!
ここでコールに乗れば、私は弱いですと言っているようなものだ。
冷静に考えて、この時点でストレートやフラッシュが成立する可能性は極めて低い。
それも初めにリレイズしたカード。それならオレと同じ上を想定する。
【J,Q】【ハートのA,K A,Q A,J K,Q】【Tのペア】
この辺か……。
ない。
ないないないない。絶対ない。
そんな都合良すぎなカードが来るわけねーだろ。
だが……。
【J,ANY】【ハート,ANY】【7,ANY】(ANYはその他)
この辺のカードなら、ありえる。
つーか、これだろ。
あと2枚落ちて、必勝のカードへ化けての確実勝利。
その前に20,000で降りてくれれば儲けもの。
正明「……」
ラシェル「……」
ッハ。
なら、逆に――。
正明「リレイズ100,000」
ラシェル「へえ……」
騒ぐギャラリーとは裏腹に、静かに目を瞑り思考するラシェル。
正明「……」
どうだ……?
読み通りか?
で、読み通りだとして、どうする?
今必勝でなく、もう一枚必須カードを見るために100,000を払えるのか。
少なくともオレの想定であれば、ラシェルの勝率は五分を切る。
ラシェル「……」
正明「……ッ」
早くしろ――ッ!
タバコに火を点ける。
平静を装いながらも、対戦相手を眺める。
ラシェル「……」
正明「……」
半分ほど吸ったところで、灰皿に押し付けた時、
長考の末、ラシェル・オンドリィ。
ラシェル「コール」
正明「っは!」
賭けに、来た――。
持っているなら間違いなくリレイズオールイン。
ならば、こいつは現段階では揃っていない!
ディーラー「ターンカード。オープン」
4枚目のカードが、捲られる。
【ハート8】【ハート9】【ハートT】【ハート7】
な……。7?
しかも、ハートって……。
ラシェル「――オールイン」
正明「ぐ……!」
オールインに駆け引きは、ない。
一枚だ。
最強はハートのJ,6でストレートフラッシュ
次にハート1枚でフラッシュ
最低でも、J,6でストレート。
仮にブラフだとしても、7のワンペアにも劣る。
ハンドでは上位に位置するA,Qがただのクソカードに化けた。
クソ……クソ!
正明「……ッ!」
どこだ……? どこで失敗した……ッ!?
ブラフの印象を与えるのは大成功だった。
勝負手が入りレイズの釣り上げも成功した。
定石であり必勝だった。若干無茶なギャンブルもすべて良い流れで乗っていた。
それなのに……なのに……!
20渋沢……オレの20渋沢が……!
ラシェル「ポーカーの入門編には、こういう打ち方は書いてなかった?」
勝ち確だからと煽りにくると……とことん腐ってるなこのチビ!!!
正明「チェック」
ラシェル「オールイン」
正明「……」
そうだ。あと10万出せってことだ。
……あ?
AとQで。
ここまで来たから、ハイカード勝負で……10万?
ぐ……ぐぐぐ……!
クソ……ッ!
正明「……フォールドだ」
それでも、いけない。
舐められたから。それを許さないと突っ込めるほどポーカーは楽じゃない。
カードを捨てた。
ラシェル「素人らしいアクションだね」
そう言うと、カード表にして場に投げた。
正明「あ……?」
テキサスホールデムポーカーは、言わばブラフのゲームである。
相手に嘘つきの印象を意図的に与えるのもよし、逆にタイトな打ち方を見せるもよし。
ゲームが終了した際は通常、自分のカードを見せないで伏せたまま場に流すが、決着がついた場合に限り自分のカードを相手に見せることが許される。
ラシェル「2と4。スペードだよ」
正明「なッ……!」
え――。
24スペード。
それって、それじゃあ……。
ラシェル「ああ。いい忘れてた。もしイカサマしてる現場抑えたら、ボクのチップ全部あげるよ」
ああ――そうかよ。
イカサマじゃない。
運じゃない。
オレはこいつに、テキサス・ホールデムで敗れた。




