表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/207

第十三話『フィッシュではなくスリーセブン(後半)』4/7

◆【WENSCASINO】

先程と同様に、もう今日はツイているとしか言いようがないぐらい幸先が良い。

ラシェル「レイズ2,000」

正明「コール」

ディーラー「ショウダウン」

正明「よし……!」


正直、序盤だ。

ジャブの差し合いに過ぎない名刺交換みたいな駆け引きだが、それでもチップを優勢に進めている。

正明「……」

顔色を確認する。


それは駆け引きに長けているラシェル本人ではなく、その取り巻きの素人集団。

こいつらからは嘲笑がなく、真剣にテーブルの上を一喜一憂で眺める視線。

ってことは、オレへのリップサービスじゃねーってことは間違いない。

ラシェル「……」


ゲームは続く。

ラシェル「リバイ3万」

紙幣を3枚、テーブルに置く。

正明「……」

ラシェルの資金を全部奪ったにも関わらず、この時点でチップ差が逆転する。


ゲームは続く。

流れは変わらず、こちらが優勢にゲームを進めてはいる。

正明「オールイン」

ラシェル「コール」

ッハ、喰らえ!

ボード7,8,7,Aに対して、8,8ポケット。4枚目のターンカード時点で88877のフルハウスが成立している。

ラシェル「……」

ラシェルの手はA,K。もちろんツーペアの組み合わせとしては最強。オールインに乗っても仕方ないカードだが、こちらはその上位に位置するフルハウス。

ディーラー「最終カード、リバーカードオープン」

発声と共にめくられたカードは、A。

ラシェル「逆転だね」

正明「ああッ!?」


逆転。オレの88877のフルハウスと同等の役で、上位に位置するAAA77のフルハウスが成立。


ラシェル「イカサマしてるか気になるかい?」

高木「そ、そんな……」

恭介は首を横に振る。

正明「……」

サマはしていない。

一度現場を取り押さえられた人間が、ふてぶてしく二回目を行える度胸はこいつは持っていない。

チッ。

とにかく、渋沢を1枚失った。


現状では、まだそれだけだ。

正明「リバイ」

そう言ってテーブルに投げた10枚の渋沢に歓声が挙がる。

正明「早くチップもってこいよ」

ここまで。

ここまでなら、痛くない。

元々これは高木君のお金だ。ルーレットの勝ち分を引いても11渋沢を上回る。

テキサス・ホールデムは、金のゲーム。

今有利かどうか、それは持っている金額。チップ数にそのまま比例する。

もちろんそれはリスクを背負う意味にもなるが、この額の差なら……。

ラシェル「ねえ、その鞄の中出して」

男性「え、はい」

ラシェル「お札あるでしょ。全部換えてもらって」

ディーラー「確認します」

あん……?

ディーラー「31万円です」

ラシェル「うん。チップでちょうだい」

淡々と、チップの山を積み上げていく。


正明「……ッ!」

初めの1万ずつ。加えてリバイの3万。そして31万。

ラシェル「賭けすぎたなら、戻してもいいよ」

ラシェル「十万円って、キミが将来稼ぐ月収だよ?」

優位取ったつもりかてめえ――!

10万 VS 36万。それはそのまま、二人の勝率に直結する。

なるほど。今みたいな事故が逆に起きても保険として、3倍近く置いとけば大丈夫と。

勝率は20%……経験者と素人の実力差を差し引けば、そこからさらに小さくなる。


……分が悪い。

とはいえ、とはいえだ。


あいつは36渋沢ものリスクを背負っている。ならば、それには正当性が保たれる。

金の価値なんざ人それぞれだが、ここでは絶対だ。

正明「なあ――これは使えるのかよ?」

取り出したのは、本屋でもらった金入りのチップ。

ディーラー「それは正規のレートで遊んで、かつ10万円以上の出金をした場合にのみ……」

ラシェル「いーよ。使わせてあげなよ」

ラシェル「それも、さ。前借りで渡してあげて」

ディーラー「いや、でも……」

ラシェル「ボクが後で建て替えるから」


ラシェル「その代わり条件が2つ」

出たな。


ラシェル「ここからはトーナメントにしよう」

要するに、途中退席無しってことだろ。

こっちはそのつもりだった。だったが……36万相手か。

ラシェル「それと、レートを上げよう」

正明「ああ? オレこれしかお金ねーぞ」

ラシェル「うん。知ってるってば。団地の子供」

こいつ本当に一々――ッ!


ラシェル「そうじゃなくて、BB/SB」

ラシェル「まだるっこしくて、さ。ボクも暇じゃないし。10,000/5,000にしよう」

正明「……ッ!」


ラシェル「あれ? 素人君なら、運の要素入るから良い提案だと思ったんだけどね」

ラシェル「それにキミが背負うリスクは増えない。悪い提案じゃないと思うんだ」

正明「……」

確かに……オレのリスク面は変わらない。今まではたまたま有利にいったが、長々とポーカーをやれば不利になるのは間違いなくオレだ。

ラシェル「じゃ、それで交渉成立でいいかな。あ、ちょっと待ってね。彼に5万円渡す前にこれもお願い」

そう言ってテーブルに投げたのは、ポケットから出した渋沢の束。

ラシェル「20枚あると思うから確認してみて」

ディーラー「はい」

20枚、だと――!

15万 VS 56万……つまりオールイン勝負で勝利して、それでようやく五分。

50%の、二回。約25%……以下。

そう、以下だ。


二度も勝ちが拾えることもなくはない。もちろんポーカー。最後の最後は運ゲーだ。

だが運ゲーに至るまでの過程が実力差が出るこのゲームで。このチップ差はまずい――。

ラシェル「提案だけど、さ。あと10乗せるなら、このチップもう一枚あげるよ」

正明「あ……?」

ラシェル「そしたら25万に5を足して、30万。10万円分のハンデで戦えるね」

正明「……」

きたな、釣り上げ――。


予想していた通りの展開。

ラシェル「それでボクは上に44乗せる」

正明「……ッ!」

ラシェル「勝てば100万円。わお。キミの将来の年収だよ」

百、渋沢――。


正明「……」

思考が、止まる。

待て。考えろ。

今日10万勝った。そこから10万のリスク背負う。10万のハンデ。

オレは10万円だけで、100万円チャレンジができる。

それも10:100でなく30:100。

正明「……」


それでも勝率25%を切る。実力差が今後出るとしたら20%。

勝ち分10と身銭10。足して20として、期待値20%なら、5倍の配当……100万。

悪くは……ない。


ラシェル「よく考えてね。勝てば、将来の年収だよ」

正明「いいぜ――やってやるよ!」

歓声の湧くギャラリー。こっち側である恭介さえも、面白そうにこの場を眺めている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ