第十二話『フィッシュではなくスリーセブン(前半)』1/5
◆【繁華街】
仕込みとしては十分。
必要な軍資金も十分。イカサマ対策もそこそこ。
不安要素はオレの実力。
時期尚早なのはわかっているが、だからこそ良い。
――今回は勝てなくてもいい。
勝てばもちろんだが焦点はそこじゃない。
目的は裏カジノのポーカーで"勝ち続ける"こと。
麻雀で半荘3万円前後動く卓ならその20倍までは許容値。
ポーカーの場合も同様……とも思うが、あのゲームは一瞬でMAXBETを張るオールインが存在するためマネーコントロールが麻雀の概念と同じかいまいち自信がない。
強制ベッドであるBB/SBの額が参考になるのか、どれぐらいの金額でいくら動くのか。
ブラフで削って削って、コツコツドカンを食らった時。それがプラスかマイナスか。
ポーカーのストラテジーとやらはある程度把握したが、何より多人数でのプレイはまだ経験がない。
◆【リレイズ北村階段】
もちろん負けても良いとは言ったが実力アップは今後も必須で――ということで、本番前の最後に是非北村憂先生からご教示頂きたいっつーわけだ。
前回同様怪しげな看板を避け、ドアを開ける。
正明「……っ」
不意に、心臓が跳ねた。
長い長い髪のせいで一瞬遅れたが、それは横たわる人。
目的の人物はポーカーテーブルの下に倒れていた。
正明「憂ちゃ……!」
憂「なんで~……ウィック、ヒック、なん、なんで~……」
憂「なんで誰も、いなヒック、いなウィック! ぐええええぷ」
正明「……」
憂「あー、もう死んじゃおうかなー。誰もいないよ、誰もいないんだよこの世界には」
憂「んく、んく、んく……ゲフーイ。ん……んんー?」
憂「あは、あははは! なーんだ! すごーい! いぱーい! いぴゃーいいるー! あはっはあ!」
憂「はいもうただいまー! すぐお持ちしまゲフーイ! あは、あはは、あははは! そんなにお店に入らないので、外で待っててくださいよ~!」
正明「……」
どうやら憂ちゃんは不在のようなので、リレイズ北村を去る。




