第十三話『CRポーカー物語開会式』1/2
△【イベントCG016・WS社役員会議】
キニー「私が外で活動している間色々な出来事があったと承っております」
キニー「特に必見すべきはカメルーン。こちらは表向きは国との交渉と呈していますが、恐らくは風雪お嬢様を力技で確保する試みかと」
回りくどく流暢な日本語を扱うのは元ブラウンカンパニーの代表。キニー・ブラウン。
全てを有するノルンの妃と言えど、手持ちのカードでこの男以上に頭が回るカードは保有していない。
キニー「私の不在中で正直肝を冷やしましたが杞憂に終わったようですね。どこかに優秀な情報源が居るのでしょうか?」
木葉「うるさいわね」
キニー「はい。賢いです。身内でも全てを伝達するのはリスクです。情報は分散し小出しにしておくのが良いでしょう」
事実は小説より奇なり。
まさかマフィアよりも先に自分の学園の同級生に誘拐されるなんて言えるわけがない。
それぞれ席に着く。
中央にいる木葉を基点に円にして座る6名は表向きは木葉の側近達。
その対局に位置するのが代表、キニー・ブラウン。彼の経営手腕を買ってそのポジションを与えている。
キニー「皆様、おまたせしました」
キニー「カジノリゾート計画。通称"CR"は我らウインドソリューション社が一枠入り込みました」
おおおおおおおおお!
周囲が熱狂する中、冷ややかな視線を投げるのは木葉。
木葉「IRじゃなくてCRなのね」
キニー「Integrated Resort。正直に言いますとそこまでは権限がなく、国の癒着業者でほぼ固められている現状です」
キニー「仰る通り欲を言えば全てをWS社が主導したかったですが、こちらは電卓を叩いている想定より利益は薄いでしょう」
キニー「よって、ここは全て国。今の政権へ譲渡し恩を売る形を取りました。恐らくそこから各省庁や閣僚のお膝元が場を仕切るでしょう」
キニー「仮に政権交代が起き担当大臣が一新されようとも既存の天下り先は絶対に手放しません」
キニー「中枢であるCRさえ手にすればリスク回避としては十分な落とし所と考えます」
まだ不満そうなものの、一応は木葉も納得はした。
キニー「今後、我々WS社としてましては、もちろんカジノビジネスの拡大。観光客と現地民の集客に全力を注ぎ込みます」
キニー「我が社最大の目的は当初の予定通り白田様を中心に事を進めて行くと考えております」
ぶくぶくに肥えた中年の男は無言で立ち上がると、一礼をして席に座り直す。
体を高級スーツで隠すその容姿は、ある意味では信頼できる。この手のタイプは自分を守る嗅覚に秀でているケースが多い。
キニー「カジノの拡大。それは当然。利益の最大化という点では定石かつ最重要課題ですが……別の切り口が欲しいのです」
キニー「ラスベガスの市場規模は年間1.5兆円。これを遥かに上回るマカオは4兆円程」
キニー「それは中国人がお金を持ち、かつギャンブルが好きだから……?」
キニー「答えは『いいえ』」
キニー「その大半が中国元から香港ドルへの両替窓口」
キニー「我々の場所に、それを誘発する動線もきちんと確立させます。事前に知らせている通り光岡様を中心に活動をお願いします。こちらはくれぐれもご注意ください」
クリストファー「マネーロンダリングなんて必要なのか? 方法はさておき、そんなのに窓口を設けるほど潤う話じゃないだろう」
キニー「いえ、潤う話なのです。通貨規制を引いている中国の元が米ドルへいくら換わっているかご存知ないからそう仰るのです」
キニー「加えて、中国共産党と言えばごく一部の限られたエリート……そういう誤った認識をお持ちの方が多いのですが……」
木葉「どうでもいいのよそんなこと! あんた話長いの! バカなの!?」
この会談に居る場違いな年端もいかない小さな小さな少女。
この子が騒ぐと居心地が悪そうに全員下を向く。キニー・ブラウンを除いて。
キニー「まとめますと、アジアの市場全てを確保したい。その殆どが日本と中国。但し中国は10億超の数字は意味なく、1億人の共産党員のみがお客様です」
木葉の癇癪を気にも留めず喋り続ける。
キニー「そう――日本人。この素晴らしい国の民こそが、我々のお客様になります」
キニー「ラスベガスの1.5兆円よりも。裏金有りきのマカオの4兆円よりも。正規でその5倍の大きさを叩き出す世界一のギャンブル国家」
キニー「パチンコ漬けにされた我が日本。その市場規模――15兆円」
木葉「あんた日本国籍もってないじゃない。あたしは持っているわよ」
キニー「ただいま申請中でございます。それに私は納豆を食べることもできます」
お茶目に笑いを誘うが、誰も乗ってくれないのはいつもの事。
キニー「この世界最大の市場を奪取します」
クリストファー「今の癒着元。パチンコ産業をどう黙らせる?」
キニー「取り込めば良いのです。パチンコにもカジノにも。最上位層がどちらに転んでも利益が入る構造は既に出来上がっています」
キニー「パチンコ・スロット台を作っているメーカーは日本のみならず既にマカオを中心に世界展開を行っています」
キニー「我が社での採用はもちろん、より広域な世界展開への手助けもすることになります」
富士見「横から失礼します。これは私からキニー社長への提案です。中身を確認させて頂きました。先方も非常に満足されておりました。現在は友好な関係を築いております」
キニー「定石のカジノ事業。裏側の資金移動」
キニー「そしてさらにもう一つ」
キニー「日本市場のテキサスホールデムポーカー。確立と収益化と独占です」
その提案には頷く者と首を傾げる者で二分化される。
ここでもつっかかってきたクリストファーが筆頭に不満に思う者が木葉の顔色を伺うと、
木葉「あたしが乗ったわ」
その一言で反論の余地がなくなりまとまるが、キニー・ブラウンは力による制圧を好まない。単に彼がお喋り好きなだけかもしれないが。
キニー「とはいえ、もちろん簡単ではありません。ポーカー人口を収益化するため色々準備を行っています。それもとても難しいです。そしてそれ以上にそもそもの人口が居ません」
キニー「まずはポーカー市場の確立。即ち、プレイヤーの確保が最大のテーマになります!」
名案とばかりに思い切り手を叩いて視線を強く集める。
キニー「この計画は日本にポーカー旋風が巻き起こる"物語"が必要になります」
キニー「もちろん我々主催者が不正をするわけにはいきません。よって、物語に適応できる人物が優勝するまでトーナメントの数を重ね、適応者が現れた時に大々的に告知を行います」
白田「買収した柴崎プロダクションがそこで生きてくるんですね」
キニー「王道としてはモデルを活用した広報ですが――それでは60点」
キニー「理想としては女性。それも素人。もちろん、一般人という意味でもあり強いて言えば未経験者などが望ましい」
キニー「男性でも構いませんが……容姿が絶対条件ですね。中身はなんでも良いですが我々の手元に置く事も必須になります」
マイク「なぜ素人を?」
キニー「妬みを買うのに適した人間がベストです。自分よりも劣る人物が億万長者になったと知れば、それならば自分もと参加する動機に繋がります」
木葉「底辺層は大変ね。同じ底辺なんだから仲良くすれば良いじゃない」
キニー「模範型も良し。悪童も良し。どちらかに偏って頂ければ売り出し方が異なりますが結果は変わりません」
マイク「そこまでの素材があるのならば私が確実に掴み成長させて見せます」
キニー「是非お願いします。その際は柴崎プロダクションの力を活用していく予定でございます」
木葉「――わかるわ」
偶然にも、今キニー・ブラウンが口にした全ての要素を含む人物を木葉は知っている。
確かにああいうクズが幸せそうに暮らすのを見ると苛々が増すのはよくわかる。
キニー「風雪様にご理解頂けるのは予想外でした」
キニー「テキサスホールデムにおけるゲーム・及び集客や宣伝などは不肖ながら私、キニー・ブラウンと風雪木葉様が担当させて頂きます」
マイク「私はテキサスホールデムの界隈に熟知しています。現在大規模な世界大会をWS社主導で進めていると伺っています」
マイク「世界の頂点13人。及びそれに続くクラス保有者達。彼らを毎回収集させるのでしょうか」
マイク「また、今大会は広告費含め20億円と多額な費用を投入します。単体であればそこまでは大きくありませんが、もしこの額を定期的に行うとなると回収する道筋が見えません」
木葉「初めだけよ。一発で決めるわ」
キニー「はい。次のWSOPは宣伝に多く費用を割き、海外の実力者が優勝するでしょう。初回のみは大々的な広告と順当な結果で構いません」
キニー「予算も白田様の会社を活用するのであくまで巨大な金額は会計上だけですのでご安心ください」
何が言いたいのかは汲み取れた。要するに二回目以降から予算を極端に小さくして、優勝してから大きく騒ぐと。
マイク「毎回テキサスホールデム世界レベルのプレイヤーをゲストに呼ぶとなればそれなりの予算がかかるのではないでしょうか?」
この場にいる誰もがテキサスホールデムに詳しいわけではないので、要所要所は砕いて質問する。
キニー「ギャラは発生しません。彼らはハイエナ。飼う事は難しいですが餌さえぶら下げれば勝手に集まってくるでしょう」
この男がそう断言するのなら、そういう事なのだろう。
キニー「それにCKならば、ここにもう揃っています」
キニー「至らない私ですが世界大会で唯一連覇を成し遂げた実績に加え過去CKの称号を得ています」
キニー「加えて、一晩で100億を稼いだ現CKの風雪様。この二人が参加して敗れたとなれば、名前負けはしないでしょう」
この二人がテキサスホールデムを担当するということは、そういうことなのだろう。
キニー「それでは風雪様。ここまでのプランと内容、何かご意見や要望はございますか?」
木葉「あんたの喋り方うざいわ」
キニー「ありがとうございます。日本語というのは答えの前に過程を重視するのです」
それから一時間後に、会議は終了する。
20××年10月12日日本時間21時03分。
ウインドソリューション社代表取締役キニー・ブラウン。
ここに、CRポーカー物語を宣言した。