第十一話『誰でもじゃない君だけ』
◆【学園廊下】
ロクさんは憂ちゃんの事は認知していない。
大きいところならWENSCASINO。その言い方だと小さい場所もそれなりに把握していますと含ませている。
で、実際にその通り。裏カジノでなくても裏のスロットとか色々な店舗があって、そのどれもがロクさんの指示でオレが入店できない。
可能性は3つ。
1.リレイズ北村だけ黙認している。
2.リレイズ北村にオレを誘導している。
3.リレイズ北村を把握していない。
グッチー先輩がオレの保護者面している以上、黙認する理由がない。オレをもしも裏カジノに嵌めて……そんなシナリオをもしロクさんが描いていたとしても、他のカジノでも良いわけだ。
もちろんリレイズ北村でも良いが、オレ一人のためにわざわざ場所を作る必要ない。
つまり消去法で3。
リレイズ北村は六道組とは無関係な独自経営になる。
ヤクザに無許可で裏カジノ……こういうのがバレたら、まあ関係ないし想像したくねーけど、そういう事が起こるか案外金でどうにかなるか、まあどちらかだろう。
斬「マサ。木葉とは何か話したのかい?」
正明「おー。ジャンじゃん。なんか久しぶりだな」
斬「う、うん。えっと……この前の……」
正明「ジャン。週末。16日に雀荘に二人揃えてくれ」
斬「え、だって店長が……いや、わかった。マサが言うなら従う。場所はどこだい?」
リレイズ北村に通うかどうかを、決める。
パチンコができない。麻雀はセット以外できない。新しい賭場で勉強ができる。これが現状のベスト……その決定は変わらない。
憂ちゃん。北村憂という思わせぶりな態度にオレは惹かれていて、リレイズ北村に通うかどうか、迷っている。
とりあえずこれを――終わらせる。
正明「いつもの猛虎牌でいいだろ。店長もセットならOKつったし。猛虎牌とか言うぐらいなら縦縞の消しゴムでもあげときゃ喜ぶんじゃねーの?」
正明「人いねーならレート落としても良い。なるべく落としたくねーけど。当日はコンビじゃなくてヒラで行く」
斬「う、うん。わかった……」
斬(すごい。木葉ってすごい人なんだ)
正明「……?」
あれ……ジャンとなんかあったっけ?
まあいいや。とりあえず目の前のことだ。
斬「マサ。よかったら夜、一緒に食事に行かないか?」
正明「……和牛?」
斬「ううん。でも牛丼なら出してもいい」
正明「悪いな。今日は予定があるんだ」
斬「わかった。美味しいって噂されているラーメン屋があるんだ」
正明「しつけーな。予定あるってば」
斬「和牛」
正明「おおおっ! 行きます!」
斬「和牛ってオーストラリアだよね」
正明「じゃあなジャン。そんじゃ週末に」
斬「待ってマサ。ボクはマサと話がしたい」
正明「あ? 別にいいけど。なんだよ」
斬「……」
正明「……?」
斬「場所を変えたい」
あー、はいはい。そういうことね。
まあ……あー、あー……うーん……ジャン、か。まあ、な。ジャンなら……。
正明「チッ!」
があああああ! オレも甘いな!
正明「わかったよ! ジャンだからな! 言っておくがジャン以外には絶対こういう事しねーからッ!」
正明「繰り返す。本来オレ他のヤツには絶対そういうのしねえ。ジャンだけだから勘違いすんなよ」
斬「え、そ、それは一体……」
正明「年利10%で直筆サインと保険証のコピー。これで30万までな」
斬「君たちはボクをなんだと思っているんだっ!?」
正明「はあ~!? 調子飲んなよてめえ! 10%って消費者金融よりも銀行より安いって聞いたぞ!!!」
斬「わかった。マサ相手に言葉を探したボク悪いとしておこう。それじゃあ本題を言う」
斬「マサはホストなのかい?」
正明「ぶっ殺すぞクソハゲ」
斬「……」
黙って刀が抜かれて、やっと思い出した。
そういやオレ、こいつに追われたな。