第四話『その名はイッツーのジャン』1/2
◆【雀荘・夜】
女の低い声が、卓の空気を凍らせた。
怒号にも堪えず、女性は淡々と点数を口にする。
女性「ロン。3,900」
正明「ざけんな詐欺野郎!!!」
女性「……」
充満するタバコの煙も対戦相手からの怒号も冷ややかに見つめる長身の女性。
虫を眺めるような冷ややかな目つきに、ついに正明は折れた。
正明「チッ……ボケぇ!」
女性「……ッ」
点数を投げつけるが、そんな悪態にも何も言わずに長身の女性は床に落ちた点数を拾い上げる。
女性「詐欺野郎、と言いますが詐欺じゃない。それにボクは女なので野郎という言葉は相応しくないと思う」
正明「ごちゃごちゃうるせえなクソ女!」
女性「……ここまでにしますか?」
正明「――あ?」
露骨に空気が変わる。
竹原正明の口と態度の悪さはある意味でのデフォルトだったが、これは完全にその一線を超える空気を纏う。
正明「てめえ女のくせに調子乗るなよ――ッ」
同席1「ま、正明君……」
正明「ッハ。バーカ。別にこの女ボコったり暴れたりしねーよ」
前かがみになった椅子にドサリと深々と腰を降ろす。
正明「ただ、な。もう一回勝負するぐらいはいいだろ」
女性「はい。負けてるアナタがそれでよろしければ」
正明「レート倍でもいいんだろ?」
女性「はい。負けてるアナタがそれでよろしければ」
正明「てめえ……!」
今にも飛びかかろうとする正明に対し、同席者は首を横に振る。
同席1「お、オレはもうお金ないから……!」
同席2「オレもそろそろ……」
正明「おい! 頼むよ! もう一回! もう一回だけでいいから!」
女性「どうしますか?」
正明「やる! いいな!」
その迫力に、同席者は再び座るしかなかった。
正明「勝つ……勝つ……ッ!」
呪詛のように、対面する女性を睨みつけた。