第九話『収穫なしという収穫有り』2/3
◆【リレイズ北村】
憂「最低限の金額で次のカードが見たいっていうのがチェック＆コール」
憂「私は既に100点払っていて、それに合わせて100点出すのがコール。私はそのままでいいと思ったらチェック」
正明「んで、カードが3枚出るじゃん？ そこでチップを上乗せしないっていうのは……」
憂「チェックだね。で、私もチェックしたら、4枚目のターンカードが出るよ」
正明「んで次にオレが100点レイズして、それに合わせるのがコール」
憂「そう！」
ほうほう、チェック＆コールってのはそういうことか。
全員チェックで次のカードが見れるのがチェック。誰かが500とか上げて、その500に全員合わせて次のカード見るのがコール。なるほどなるほど。
正明「ダウン/フォールドって何が違うんだ？」
憂「あ、それはね。実際同じなんだよ」
憂「正式には降りる時にフォールドって言うんだけど、コールと発音似てるからダウンにしよう！ って後付で変更されたんだ」
ほー。適当だな。
憂「別に一々言わなくてもいいんだけどね。線の内側にカードを伏せたまま捨てたらフォールドになるから、無言でポイって捨てればOKだよ」
正明「んじゃレイズとリレイズも一緒？」
憂「んーん。それは違う。私が100点レイズして、それに正明君がもっと上乗せしたい！ って思って200点出す。これが、リレイズ」
正明「150点とかでもいいの？」
憂「ダメ。二倍だね。だから100点だったら、リレイズは200点以上。250点とかはオッケーだよ」
正明「ほうほう。そんで、憂ちゃんが次にさらに800点乗せるのもリレイズ？」
憂「それはリリレイズ。その更に上乗せがリリリレイズ。更にその上乗せがリリリリレイズ……そうやってどんどん"RE"が続いて行くんだよ」
ほうほうほう。
憂「オールインは持っているチップ全部出す名称。チップが100点しか持ってなくても100,000点持ってても、全部出したらオールインになるよ」
レイズは上乗せ。リレイズがそれに対しての上乗せ。リリレイズがそれに対して更に上乗せ。そんでオールインが全賭け、と。
ほーん。
そういやこの店の名前が……。
正明「さらに上乗せがリレイズ……リレイズ北村、良い名前だな」
憂「あはー。嬉しいなー」
正明「んで、ゲーム楽しみたいんだが客がいねーなあ」
憂「実は正明君とすれ違いで100名様の団体様が帰ったばっかりなんだよ」
憂「えっとね！ 次！ 次来た時はもう人で溢れかえってるから！」
正明「じゃあオレいらねーじゃん」
憂「なーんてことはなくて、誰もいないからこれからも通い続けてね」
細かいポーカー用語も少しずつわかってきた。
正明「ん……オレが10,000点持ってて、他の二人が20,000点でオールインしたらオレが勝ったらいくら貰えるんだ？」
憂「その場合10,000点×3人の30,000点だね。残りの20,000点は貰えないよ」
まあそうだよな。それでもらえるってなりゃ100点と10,000点がぶつかって負けたら全額没収なんてウルトラクイズだよな。
憂「ちなみに残りの20,000点は2位の人が貰う。基本的に1位のみが総取りだけど、今の例みたいにオールインしたプレイヤーがチップ保有が少ない場合、1位、2位、って順位を決めていくんだ」
正明「極端な話オールインが8人居て、チップが少ないやつから順番に勝っていた場合は……」
憂「うん。1位が持っているチップ×8倍と途中で降りた人のチップがもらえるよ」
憂「2位がその差分の中で、自分が残っているチップ数×人数分が貰える。同様に3位が～～～って続いていくよ」
憂「でもあんまりそういうケースないから深く考えなくていいよ」
んー、はいはい。わかってきた。
正明「……っと。こんな時間か。そろそろ帰るわ」
憂「……」
正明「会計頼むわ」
憂「もうちょーっと遊ぼうよ。ね？ お姉さんビールごちそうしてあげる」
正明「……」
初めて来店した時も、同様に引き止められた。
オレに対して何か嵌めようと……そんな訝しげな考えだが、こいつに限っては間違えてない。オレでなくても危ないと判断する。
鬼が出るか蛇が出るか。予想と期待に反して待ちに待った結果何もなく、結局何事もなく帰宅した。
その前例がある以上、今回も暇つぶしに構ってと時間を浪費する可能性が高い。
……もしかして本当に、こいつ暇なだけなんじゃねーの？
実はオレの中での9割がその結論だったりする。
正明「ビール持って帰る」
憂「あははー」
正明「そんでもって会計サービスしてくれたら明日も来る確率がぐんと上がるな」
憂「お会計は結構です～。またのお待ちをお待ちしてますー」
その間違え方はなんとなく親近感を覚える。
