第三話『懸念点は永久に』
◆【キニーの部屋】
△【イベントCG003・キニー・ブラウンのアジト】
まるで劇場の幕が開くように、鮮やかな赤い絨毯が敷かれている。
風雪ホテルを自室として暮らす細身の金髪の男性。
この日の来客は仕事仲間。
ゴドウィン「交渉はまとまったのか?」
キニー「はい。概ねは予定通りですね」
ゴドウィン「うお……マジかよ。流石はキニー・ブラウン! やるじゃねえか」
大はしゃぎする屈強な黒人とは対照的に表情一つ変えない男の名はキニー・ブラウン。
キニー「懸念点がございます」
ゴドウィン「出たな懸念点。お前が諸手を挙げて喜んでいるところなんて見たことねーや」
ティーポットを傾けると、湯気がふわりと立ち上り微かな香りが広がる。
キニー・ブラウンは他人から提供される食事を一切採らない。それを知っているからこそ、ゴドウィンは自分の分だけミルクを加えた。
キニー「今回の話は成功ではなく、成功への足掛かりに過ぎません。具体的には次のステージをクリアして初めて成功と言えるでしょう」
ゴドウィン「あん? まさか政府が注文してきたのか」
キニー「まさか。日本の役人はとてもとても利口で賢く、逆に言えば駆け引きはできません」
キニー「こちらは私が課す題材。即ち課題ですね」
それじゃあそのステージとは? 黒人の大男が嬉々として問いかける。
キニー「日本市場の独占。及びブランドの確立。おっと、回りくどいですね。申し訳ございません。有り体に言えば――」
キニー「――WSOPの成功」
ゴドウィン「ハハハハハ! そりゃあそうだ!」
待ちきれない、という感じで持ち込んだビール瓶を空けた。いつの間にかカップに入っていた紅茶は空になっていた。
キニー「もちろんやり遂げるという意味もございます」
キニー「私のシナリオとしては――WSOPでスターを望んでいます」
ビールを仰ぐ横でコーヒーカップに口をつけてから砂糖とミルクを追加した。
キニー「そうですね――若い年齢。25歳以下……否、23歳以下。若ければ若いほど好ましい。かつ初心者、かつ外見が良い。素行は問いません」
ゴドウィン「よくわからないな。外見と若さまではわかるが、手元に置くなら利口な方がいいだろ」
キニー「人が嫉妬を抱く条件……それが、今の理想的な人物像に反映されます」
キニー「自分よりも下の人間が栄光を手にする。それにより大衆は嫉妬と羨望を抱きます」
ゴドウィン「なるほどな。浮かない顔ってことはその人選がいないのか」
キニー「同時に最悪なシナリオも幾つかは想定できます。一番は大会が開催されないことですが――」
ゴドウィン「それは任せろ」
力強く言い切るその言葉にゆっくりと頷く。
キニー「はい。頼りにしております」
開催されれば、他の懸念点は招かれざる客。ですが――そちらは私が動けば事足りるでしょう。
となると、
ゴドウィン「他には?」
キニー「……」
キニー・ブラウンにしては珍しく、言葉を探した。
キニー「恐らく、日本に居るようです」
ゴドウィン「ああ、お嬢様か」
首を横に振る。
キニー「イシュタム」
ゴドウィン「……」
今度はゴドウィンが言葉を失った。