第五話『ふおおおおおおお』2/2
木葉「聞いた話しだとあんたギャンブルに負けるとそうなるらしいわね」
木葉「お金に困ったなら頼りなさいよ。遠慮なんてしなくていいわ。あたしは風雪木葉よ」
正明「……ッ」
落ち込んでる時はこういう無駄に優しい言葉が逆にイライラを加速させる。
ああ、そうだ。
オレは何よりこういう優しい施しを最も嫌って――!
このガキ、このオレに向かってこんな優しい施しをしたつもりに――ッ!
木葉「返済は月々5,000円でいいわよ。年利18%だけど300万円まで貸してあげるわ」
あ、これ全然優しくないヤツだ。心が落ち着いてくなあ。
ついでにタバコに火を付けた。
ようやく脳みそに酸素が回る感覚を得た。
正明「で? なんの用だよ」
木葉「用? 用件なんてないわよ。あんたがヘコんでるらしいからからかいに来たのよ」
こいつクソだな。クソ四天王最後の一枠に入りを検討せねばならんな。
ちなみに現在のクソ四天王は鏡望代(殿堂入り)、近藤、ハゲジャグさんの三人である。
正明「ん……あーそうだ。そういや木葉に話しがあったんだ」
木葉「ふふん。任せなさい。竹原の判子はもう用意してあるわ。あんた友達だから年利17%にまけてあげるわ」
正明「やめろ!」
ポケットに入っている財布から、チケットを取り出す。
正明「これ返すわ」
そう言って渡すのはC-1と書かれているWSOPチケット。
木葉「……」
それを見て、少しだけ寂しそうな表情を見せる木葉。
木葉「……なによ。お祭り事ぐらい参加しなさいよ。ちょっとぐらい付き合ってくれてもいいじゃない」
正明「あ……?」
なんだこの反応――。
拗ねたような、それは全く正明が予想していないリアクションで、
と、一瞬遅れて理解した。
正明「ヒヒヒ」
イラつくなこのチビ――。
本当にこいつ、敵としてではなく本心から友達として……。
正明「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
昨日のフラッシュバックがきた。やめろやめろ。
木葉「ねえ……あんたって、その、ちゃんと勃つの?」
正明「ふのおおおおおおう」
正明「って言わせたいだろ? バカか! 勃つわ! ギンギンのビンビンだし! 舐めんなチビ!」
正明「20cmはあるわカス!」
木葉「……」
正明「……」
正明「まあ、20cmはちょっと盛ったかな……」
木葉「チビ」
正明「ああああああ! 上等だ! てめえ誰に向かって! ああ見るか? 見たいのか!? 19.5cm砲が見たいのか!?」
正明「まあでもまあ、平日の昼間だしな。今日は風向きも悪いから次の機会っつーことで許してやるよ」
木葉「任せなさい。全校集会で次の機会を作ってあげるわ」
はいクソ四天王当確。確定のレインボー。
正明「ってそうじゃなくて、話し戻してオレもWSOPは参加するって」
そう言ってチケットを見せつけると、木葉の目の色が変わった。
木葉「あんた、これどこでよッ!?」
正明「オレから千円パクった紫ババアからパクった」
捕捉すると貴重な高橋さんの千円だけど。
木葉「紫ババアって……へー。やっぱりこの番号ダリアじゃない。凄いじゃない!」
木葉「それなら結構勝ったでしょ。車でも買ったの?」
正明「負けたつってんだろ!!! 傷口抉るな!!!」
木葉「ふーん」
うんうん、と嬉しそうに頷く。
木葉「私あいつら嫌いなのよ」
正明「オレも木葉嫌いだわ」
木葉「いいわ。気が変わったわ。ご飯ご馳走してあげる。斬も呼んできなさい」
こいつ本当に話聞かないよな。
つーか今日は、絡むなよ。
正明「……」
ご飯か……。
やべえ、拒絶できねえ。気分じゃねーけど、タダ飯って言うなら揺らいじゃう。ぶへへ、身体は素直じゃねーか。
あー、ヤベ。なんだこの近藤イズム。オレちょっと壊れてるな。
木葉「あとこれは受け取れないわ。この風雪木葉が一度恵んだ物を返すなんて失礼よ」
あん?
木葉「でもあんたは二枚もいらないでしょ。買い取ってあげるわ」
正明「……」
ってことは、オレはタダで100万円貰えるってことになるけど……。
正明「いらん」
『正明君って、本当にキレイな良い子だもんねー。こうやって施されるのが一番嫌いなんでしょ?』
正明「いらんわ!」
木葉「聞こえてるわようるさいわね!」
正明「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
木葉「うるさいわねっ!」
とにかくいらん、いらんのだと木葉のポケットに返却するが逆に無理やりこちらのポケットに押し込まれる。
木葉「食事にするわよッ! あたしもうお腹ペコペコなのよッ!」
木葉&正明「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
木葉「……」
正明「……」
木葉(あたしのスピードについてきた……?)
正明(こいつ、できる――)
木葉「……」
正明「……」
木葉「行くわよ」
正明「ああ……」
木葉「……」
正明「……」
お互い伝家の宝刀をいつ抜くのか探り合っているうちに、チェーン店のうどん屋で美味しい昼食を頂いた。




