第十三話『これぞまさにポーカープレイヤー!』6/9
ダリア(――気付いているかい、晃)
この少年は、今、"場を作っているのに必死"なのさ。
恐らく、喋り方などは素のままだろう。
何が演技で、何が本命か。少なくとも本命の要素が多い、だからこそ上手く千尋や晃を手玉に取れているが――ま、ボンクラな晃にはムリだろうねえ。
この少年が先程から使っている。ピュアブラフを見抜くには。
正明「あー、だりい。おい。ビールつったよなおっさん」
なるほど、これが竹原正明――あの御方が注視するだけの面白さはある。
正明「……何笑ってんだよババア」
ダリア「おや、老人にも容赦がないねえ」
ほら、脆い。結局表面だけで少し擦ればすぐに本当の声、薄い不安が漏れた。
正明「別に二百万で買えっつってんじゃねーんだよ」
正明「二百万で買った金で、その後誰かが死ぬまでポーカーしようって言ってんだぜ――ッ!」
晃「……ッ」
千尋「……」
心配そうに千尋の様子を伺うが、もうその視線は正明のチケットから離れていない。
まるで、炎に魅入られた虫けらのように、
千尋「買うです――」
晃「――俺が買ってやる」
ピシャリと遮る。
千尋「な……店長!?」
晃「その代わりポーカーに負けたらお前は無一文でチケット失って惨めに帰ることなるな。いいんだな?」
正明「ッハ。上等だぜおっさん。オレだって3渋沢と、この女の金があと9渋沢。合計12渋沢に200足して212渋沢でもいいってのか?」
晃「ああ。それとこの勝負終わったら、結果はさておきお前は出禁だからな。次来たら警察に言うぞ」
正明「いいぜ――てめえこそ、ダダこねるんじゃねえぞ?」
斬「マサ! そのお金はボクが……」
正明「うっぜえんだよ!!!」
斬「うわあ!」
△【イベントCG003・正明に殴られるジャン】
千尋「ちょ……」
ダリア「おっとっと」
ガシャアアアアアン、と大きな音を立てて椅子と一緒に老婆の足元まで吹き飛ばされた。
正明「いい加減にしろよクソ女! いつまでもオレの女みたいに横にいんじゃねーよ邪魔女!」
椅子と一緒に倒れ込む女性は、その怒鳴り声で糸が切れたように涙が漏れた。
ダリア「おやおや、大丈夫かい?」
斬「うぅ、うう……ううぅぅぅ……ああああ……」
優しくされる老婆に抱きつくと、斬はすすり泣いた。
正明「うざ。盛り下がるから消えろよ。うぜえ」
正明「んじゃやるか。おい。お前そこ片付けとけよ」
斬「うう、うううう……ヤダ……もうヤダ……なんで、なんでこんな……」
出血さえしていないものの、間違いなく顔にアザできたであろう。それを見せまいと声を押し殺して泣き続ける。
晃「おまえ……ッ!」
憤る拳を……ゆっくりと振り下ろした。
晃「……ルールを確認する」
千尋「待つです――店長。あれは私が買うです」
晃「ちょっと黙ってろ千尋」
千尋「イヤです」
晃「……」
晃「とりあえず、オレが買う。その後の事はその後話す。いいな」
晃「イヤって言うなら今即金で200万出せ」
千尋「……それはおかしいです」
正明「そういうてめえがまず200出せよ」
晃「……」
一度席を外してカウンターの奥に姿を消すと、すぐに戻ってきた。
テーブルに、200万円を出して。
正明「わーお!」
渋沢の塊。それはいつ見てもこの世に居るあらゆる美女を凌駕する美しさ。
晃「ルールを確認する」
晃「ブラインドはBB10,000/SB5,000で行なう」
晃「バイイン。持ち込み額なんだが、自由に設定できるとしよう。負けたらリバイも好きな金額だけOK」
晃「そのリバイの補充金額の単位がBB分を下回ったら勝負が決着」
晃「決着まで互いに店の外には出ない。これでどうだ?」
正明「……」
なんてことのないルールに聞こえるが、その内容では頷かない。
正明「なあ。オレは一人で、お前らは二人か? このババアも入れて三人か?」
正明「なんか……ズルくね?」
晃「なら帰ったらどうだ?」
正明「じゃなくてさ。オレも知り合い二人呼んで、そこで3VS3なら自然じゃん?」
晃「腕に覚えがある友達に頼るのか。情けない男だな」
正明「あ?」
晃「いいぞボク。そのお友達とやらも――」
ダリア「晃ッ!」
晃「……え」
首を横に振るダリア。初めて見る身を案じる真剣なその表情に、言葉を飲んだ。
晃「何を……」
何を子供の友達なんかに。
日本のトッププロである須藤晃がそう言いたい気持ちはわかるが、ただここではひたすら首を横に振る老婆。
正明「あ? なんだよ」
ダリア「……」
頭が回る子だねえ。ポーカーの才もそうだが商才もある。
ダリア「竹原正明。お友達、誰を呼ぼうとしているのかねえ」
正明「んなのポーカー上手いヤツに決まってんだろ」
だろうねえ。
こんな野試合に死神や重戦車が呼ばれたら、晃レベル一瞬で蒸発する。
正明「いいだろ。友達呼んで。なあ? お前ら多人数だろ?」
晃「……」
千尋「じゃあヘッズアップ(1VS1)でもいいです」
晃「千尋。いい加減にしろ」
千尋「いい加減にするのは店長です。邪魔です」
晃「店長命令だ」
千尋「それ以上言うならバイト辞めるです」
晃「……」
晃(こいつ、完全に頭に血がのぼって……)
正明「あーーーー、わーったよ。長えよカス」
正明「じゃあこいつ入れるわ。で、ババア抜きで2VS2。それならいいだろ?」
晃「あ、ああ……」
急に条件が緩和されて、
正明「但し」
そのまま進まないのが竹原正明。
正明「トランプはオレに配らせろ」
晃「……」
千尋「……」
露骨に、本命の狙いを提案してくる。拒めないタイミングで。
正明「お前がイカサマするかもしれねーからな。フェアって言うなら問題ねーだろ?」
ダリア「フフ……」
組み立てが上手い。
ダリア(キニー・ブラウンによく似ている……)
AがダメならB。BがダメならC。方法は違えど、算段を組み立てて計画的にここに足を運んだのが伺える。
そして予め通る要求と通らない要求を前提に組み立てている。
見た目や言動に反しての準備のタイプ。否、それを見せないためにオラついている言葉を使っているとなれば、まさに準備タイプとも言えるだろう。
晃「……いいだろう」
須藤晃。Queensの店長でディーラー経験も豊富。素人の付け焼き刃など簡単に見破る自信はある。
正明「じゃ、そろそろやるか」
正明「それじゃあ融資お願いしまーす」
突然軽い口調でそう言うと、何事もなかったかのように倒れていた長身の女性が立ち上がる。
斬「……もういい?」
正明「ああ。そういうの聞く時点でもうダメな」
そしてどこに置いてあったのか、紙袋をテーブルの上に乗せた。
その中に……、
△【イベントCG043・ここに800萬円あります】
千尋「え……」
晃「な……はあっ!?」
斬「ここに、800萬円あります」




