第十二話『杳杳(ようよう)たる至近距離』1/5
◆【リレイズ北村】
正明「レイズ」
憂「リレイズ3,000」
ファーストアクションは互いにチェックで回した。
そしてフロップにハイカード。J,K,Aの三枚が落ちるとここぞとばかりにレイズに対してのリレイズ。
J,K,A。
これらハイカードを初めから持っているなら始めからレイズで入るはず。
よって、オレのレイズで降りるのが定石だが、ここで憂ちゃんはさらに上乗せの3,000のリレイズ。
正明「……」
1.上位カードを持っていたがあえてチェックで潜り、上位が落ちたからフロップとハンドが当たった。
2.中途半端なAが一枚のみなどで、降ろしても勝負でもどちらでも良いセミブラフ
3.下位カードしか持っていないピュアブラフ。
4.Qが一枚。もしくはTが一枚を持つセミブラフ。
正明「……」
3のピュアブラフはない。
ブラフは先手のみ有効な手段。リレイズが帰ってくる時点で本物。
もしオレがオールインをすればもちろん降りるかもしれないが、ある程度のリリレイズまではコールは受けるであろうそこそこの手であるはずだ。
となれば2なら……有利は取れる。
コチラのハンドはA8。
ボード【J,K,A】
トップヒットキッカー8
(※一番強いワンペアで、手持ちのカードが8)
8かAが出れば全部行く。
QやTが出ると……撤退準備というところ。
ただ……2ならコールで止めるだろう。
リレイズをするか?
心のわだかまりが払拭できない。
正明「チェック」
憂「チェックじゃなくてコールね」
四枚目のターンカード。
9が落ちてこれでダイヤが3枚。
フラッシュが揃うウソをつける条件も加わった。
正明「……」
A8はダイヤはない。
とは言え、相手に都合よくフラッシュはないだろう。
正明「レイズ1,000」
憂「リレイズ4,000」
正明「……」
ポット6,000点に対して小さな1,000点のレイズ。
それにハーフポット分のリレイズ4,000点。
正明(あるのか……フラッシュ……?)
もしくは、AJなど……?
リレイズの4,000。
何故?
ブラフならオールインだ。
乗れない。降りる。
乗って欲しいからの4,000点にしか見えない。
そうなるとやはりフラッシュかAJ……。
いや、AJはない。
AJなら初めにレイズをする。
そう考えるとダイヤは……ある。
正明「……」
1,000点に対しての3,000点のリレイズというのも嫌らしい。
あとたったの2,000点で次のカードが見えると思えば、付いていきたくなる。
正明(ぐ……ぐううううううぅぅぅぅ!)
中央にカードを投げ捨てると、憂ちゃんのカードが開かれる。
Jと4。
正明「チィ……!」
憂「正明君エースのワンペアだよね」
なんで分かるんだよこの女――!
壁がある。
見えない壁が。とてつもなく分厚く高い壁が。
憂「ねえ正明君。この後暇だよね?」
憂「たまにはデートしに行こうよ」
正明「あん……?」