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第十話『空腹時の食事は牛丼かガムか』1/2

◆【繁華街】

牛丼屋を通り過ぎる時、ふと立ち止まる。

『期間限定スーパーカルビドド丼! 1,180円』

正明「……」


しばらく立ち尽くす。

亡霊のように意識なく眺めていると、中年男性が吸い込まれて行く。

正明「……」

そして未練がましく去るが、またしばらくすると戻ってきて店の前で立ち尽くす。

正明「……」


財布を確認する。

先日の勝ち分。渋沢が二枚ちょうど。


換気扇からの良いにおいに食指が動く。

期間限定とは言わん。せめて通常のサイズでワンコイン。

全然買える。お釣りが出る。むしろ渋沢二枚から見ても誤差の範囲。

もしくは、家でパスタでも作れば数十円で済む。


前回は、勝った。

あぶくぜにを、得た――。


正明「……ッ!」

ポケットに手を突っ込むと最後のミントガムを口に突っ込んでその場を去った。



テキサス・ホールデムに出会ってから、資金は減る一方……ってのはいちゃもんだよな。

腐れヤクザに雀荘注意されて、そうじゃなくても最近は有名になって相手も探しにくい。

それなのにパチンコも出禁食らって資金ルートが完全に絶たれた。


それならポーカーで……ってなわけだが、完全に食っていくには時間がかかる。

いや、もしかしたら食っていくだけならもう少し勉強すればいけるかもしれないが、何にせよ麻雀に比べて人口が圧倒的に少ない。


疫病神が家に居座ったから……ま、それも関係ねーか。麻雀も長期間拘束される事を考えたら寝不足になる。



冬になる。夏物の洋服が大セールで売られる絶好のチャンス。来年のために買いたい。

新しいブーツも欲しい。高いから手を出さなかったがそろそろシルバー系のファッションも取り入れたい。

もう、ガムの味がしない。

くそ、くそ――ッ!



●WSOPルート

――ずっと考えないようにしていた。


モチみたいなクズといれば薄まると。

いつものジャンといれば忘れると。


でもダメ。

寝る前に。夜の街を歩く時。トランプが視界に入る度にあいつの顔を思い出す。

味のないガムを飲み込む。


苦しい。苦しい。手を伸ばせば、美味しい牛丼があるけど――

それじゃあラシェルを殺せない――ッ!


やっぱ――ダメだ!


あの男女おとこおんなは、オレから渋沢を奪った!

頭からビールをかけやがった!

オレにポーカーで勝った!

バカにした!


――煽った!


そんなヤツ、生きてちゃいけねえ。

あいつじゃない。オレがそうなんだ。

竹原正明がそれを許して生きてちゃいけねえんだよ……ッ!!!


無意識に充血するほど握りしめていた拳を解く。

貯金はある。

数百万単位である。

けど、その程度でもラシェルを相手にするには端金になるだろう。


もっと、もっともっとでかい金がいる。

二枚の渋沢。

これが大きく見えるのが、今のオレの位置。

多分あれと戦うには渋沢五百枚……もしくは、千。


考えたくないが、あいつに地獄を見せるとなると億単位の金が必要な可能性もある。

今のオレが用意するにはあまりにも途方のない金額だが、このまま細々とイライラしてても埒が明かないのも事実。


正明「……」

大きく、張るか――。

禁忌が頭を過ぎる。

オレの全財産。これを全て失えばオレはグッチー先輩の保護下に置かれる。


そうなれば終わり。

普通に働いて、普通に生活して、周囲の顔色を伺う普通の人間とやらに戻らさせる。

それは"竹原正明の死"を意味する。


もう少し時間が経てばパチンコにも入れてほとぼりが冷めたら雀荘に行って稼げる。

そしたらいつものクソみたいな生活に戻る。


それが利口。

賢い選択で――オレはそんなもの知らねえんだよ!



もしオレが今木葉とポーカーをしたら、敵としても見ないだろう。

全てを知った風なおちゃらけた憂ちゃんも、ポーカープレイヤーのオレに興味がない。

オレから金を奪ったラシェルは餌としてオレを待っている。



ムカつくんだよ――どいつもこいつも!!!



正明「ヒヒヒ」

力が欲しいか?

前にそういうの、あったよな。

あの時はどう答えたっけな……まああん時は別にどうでもいいけど。


力とは、何か?

その前提をテキサス・ホールデムに置き換えた場合。

正明「金だ――」

金策が必要になる。

財布に入っているWSOPのチケットを広げる。


もしこれで優勝すれば……!

禁忌を犯す前に、リスクを取らずに可能性があるのならばまずはこれだ。

つーかオレ程度の資金力で全力でリスクを取ったところで、億は決して掴めない。

コレ以外オレが億単位の金を掴む可能性なんてない――!


ラシェルを殺すため、土俵に上がるならWSOPで優勝するのがスタートライン。


WSOPのチケットは持っている。

金持ちである風雪木葉が、友達である竹原正明に渡した物。


そう――"友達"に渡したのだ。


正明「……」

だったらこれは……受け取れねえよな。


力がないオレがあいつらに並ぶってなると、それはもう――。

正明「ッハ」

なんだよ。結局迷ってるフリで答えなんて最初から出てるじゃねーか。

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