第一章 イタル
寂かに 欝とたたずむ吐歎 飴のよう 溶けた 色彩が ペイズリー模様のように 歪み 滴り落ちて 雫が眸 奇型して絶叫 退廃の中に耽りながらも 神経細胞が自発的に生んだ虚しい像を 再び眺める こうして彼は生前 その緋色の鬣を 頻りに振り靡かせて いた
ナルキッソスΝάρκισσος(古代ギリシアの美少年。ナルシシストの語源となった)じみた演技(act)。人が眉顰め皺寄せ蹙ませ、苦笑し、愚弄嘲笑さえし兼ねないと知っていても、いや、知るからこそ、彼は敢えてやる。
それがイタルStyleだった。たとえば涎を垂らし、白眼を剥いて痴態を晒すことによって、自虐的に世間の良識を凌辱する行為に酷似する。髪を緋色に染めたことなど、後々のことを思えば序章に過ぎない。その次はもっと凄かった。とは言え、片田舎の私立眞神高等学校にとってはそれだけでも大センセーショナルであった。
青龍が曼荼羅のごとく生々しく膚を這い飾るのはそれより後のこと。緋色の髪など序章に過ぎなかった。しかしすべてはその萌えいずる兆しのときが美しい。黎明の兆しが星辰の闇空を、薄青い透き通った穹へと変え、きよらさやかに広がり澄み渉らせるように。生誕のときこそその最も本質の時なのである。交響管弦楽の序曲や映画のプロローグや小説の冒頭のように。