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薄い彼女  作者: りゅう
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27 夢の先へ

 結論から言うと、共感状態で一度白い世界へ連れて行けば転移能力を獲得することができた。

 つまり、共感エージェントは全員、転移出来るようになるはずだ。実際、神海意次も神海希美も難なく転移能力を獲得した。


「白い世界は、転移を実現するシステムの一部であると考えられます」と今宮信二。

「恐らく、『転移能力者』を登録する必要があるんだと思います」もちろん、これは今宮の仮説である。


 また、『転移能力』では、遷移と違い時間を移動することはできなかった。実体としての肉体を伴うので当然と言えば当然と言える。

 『共感遷移』は未来へ飛ぶと言っても『意識』つまり『情報』を移動させているだけであり、肉体が移動しているわけではない。しかし『共感転移』は実体そのものが移動するのだ。


 いづれにしても、白い世界は謎だらけだ。

 研究所の人間がやる気を出しているのもわかる。上条絹も興奮していた。きっと近い将来解明してくれるだろう。


  *  *  *


 こうして神海一族が共感転移可能だと証明してみせたわけだが、その意味は大きかった。

 別世界共感遷移が使えなかったのは、単に遷移先に自分と同じ存在がいないという理由だけだった。唯一の存在なのだから憑依できないからだ。


 もちろん、当然と言えば当然の話である。

 そもそも、多重世界を転移で渡って来て『唯一の存在』になった神海一族である。転移で戻れない筈はないのだ。

 ただ、別世界転移に加え別世界遷移も使うことができず自信を失っていた神海三世界だった。


 だが、ここにきて夢物語ではないことが証明された。このニュースは神海三世界に激震となって伝わった。


  *  *  *


「故郷の世界の復興も待ち遠しい話ですが、その前に神海三世界を自由に行き来できるようになることも大きいですね。これは素晴らしいことです」


 共感転移成功の報を聞いて、学園村の村長までやって来て俺達に握手を求めてきた。


 実際にはまだ転移可能なことが示されただけで、『自由に行き来できる』レベルには程遠いのだが村長の目にはそう映るようだ。

 実際、自由に転移出来る人間は、これから沢山生まれるんだろうが。


 その後、神海三世界では転移能力を獲得しようとする者が続出した。

 もちろん、転移能力そのものも魅力的な能力だが、神海三世界の実務的な面でも必要とされたからだ。

 『原初の星』復興のための三世界の緊密な連携には転移能力は必要不可欠だからだ。


  *  *  *


「共感転移訓練センターを作るそうよ」


 上条絹が中央研究所から帰ってきて報告した。


「共感転移訓練センター? そんな目立つことしていいのか?」

「ああ、そうね。正確には『神海フィットネスクラブ』よ」


「ってことは、もしかしてインストラクターになってくれとか言われるのか?」


 俺は、ちょっと心配になった。


「その、もしかみたい」

「やっぱりか。俺、レオタードとか着ないからな」


 レオタードを着てる自分を想像できない。


「希望を言うなら今の内よ」


「そうか。じゃ、カルチャーセンターにしておけって言っとこう。陶芸教室でいいじゃん」


「ううん。どうかなぁ。どうも、転移に失敗した時のことを考えて、スペーススーツのようなものを開発するらしいよ」

「スペーススーツのようなもの? ああ、それでフィットネスクラブなのか。確かに、スペーススーツ着て陶芸教室はないわな」


 思わず想像してしまった。てか、レオタード着た陶芸教室とか恐ろしいな。


「ないよね」


「まぁ、フィットネスクラブも無理無理だけど。レオタードに見えそうなスペーススーツを開発できるのかな?」

「神海の技術なら出来そうね」

「ホントに出来そうで怖いな」


 出来ても俺は着ないぞ。まぁ、ウェットスーツくらいになればいいが。


  *  *  *


 スペーススーツの開発はともかく、転移能力者の養成は順調に進んだ。

 共感エージェントの育成は難しいが、転移のみのオリジナル機能に限定すれば使用可能な人間は意外と多いからだ。これなら、各種機関に置けるのもすぐだろうとのことだった。


 訓練と適性が必要な『共感遷移』については、引き続き共感エージェントのみ使用が許されることとした。未来へ飛べる『共感遷移』は危険であり、慎重に管理する必要があるというのが神海三世界の連携協議会の結論だった。


 転移能力者の育成にめどが立ったため、神海一族は次なる目標の検討を始めた。


「目下の最大の関心事は、集団転移装置の復活よ」と上条絹。


 彼女は最近、共感定期便の依頼が減っていることもあり中央研究所に張り付いているが、今日は珍しく遊びに来ている。

 依頼が無いので俺達共感エージェントもお休み状態で、今日のように接客テーブルでお茶していることも多い。


「やっぱり、いくら転移能力者が増えても、それだけじゃ限界があるからな」

「そうなのよ。転移能力者になれるのは数%くらいかしらね。それだけだと、民族として集団転移すると言うには少なすぎる」と絹。


「思ったより少ないのね」麗華は、紅茶を飲みながら言った。

「ホントです。私、両親に改めて誉められちゃいました」と妖子。


 転移能力者以上の共感エージェントは今や花形職業だものな。

 転移出来る花屋の店員ってのも、あまりいない。別世界まで花のデリバリーサービスしちゃいそう。


「そうだな。共感さえできれば人間なら一緒に連れていけるけど、荷物はあまり持てないからな」


 本格的に移住するなら、体一つという訳にはいかない。共感転移はあくまで個人的な転移なのだ。集団転移こそが多重世界を渡る本命の技術と言える。


「しかし、そうなると次の目標は……」

「うん?」と絹。

「『原初の星』の捜索だろうな?」

「確かに!」

「そうね!」と麗華。

「もちろんです!」と妖子。


 おとぎ話というか伝説にある神海一族の故郷の世界は、文献に多少残っているだけで、もちろん誰も行ったことはない。何処にあるかも不明だ。

 そして、例え見つけられたとしても今も移住可能な状態なのかどうか全くわからない。


「かなり、気の長い話になるんでしょうね。でも、どんな世界か一度見てみたい」と上条絹。

「ホントです。きっと夢のような世界です!」と妖子。


 まぁ、千年は経過しているんだ。そのまま残っている筈はないんだが、これだけの技術を生み出した民族の星だ。どうなったのか興味は尽きない。


「そうだな。神海一族の悲願だからな。転移技術が復活したんだから、探さずにはいられないだろう」

「そりゃそうよ。それに唯一の存在が普通の存在に戻れるかどうかも掛かってるしね! やるしかないよ!」


 麗華は夢見るように言った。そこには俺の夢もある。


 俺達の前には、あの白い世界で見た広大な多重世界が広がっていた。それは、銀河と呼ぶにふさわしい大きさで俺達の前に横たわっている。


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