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聖女覚醒!〜妹に婚約者を奪われ辺境に追放された公爵令嬢は精霊王に溺愛される。わたくしが真の聖女!? いや、でも、ちょっと執着されすぎで困ります〜っていうかあたし、ぽんこつ聖女じゃありませんよ?

作者: 友坂 悠


「アリスレィア。君との婚約は解消だ! 僕はもう君の顔なんか見たくない。とっとと荷物をまとめて王宮からさがるといい!」


「え? どういうことなのでしょう殿下。百歩譲って殿下がわたくしの事を嫌ってらっしゃるのはわかりましたけれど、それでもわたくしたちの婚約は王家と公爵家の関係強化の為のいわば政略的なものですもの。国王陛下やわたくしのお父様の許し無しには勝手にやめにするわけにもまいりませんよ?」


 そう。事はそう簡単では無いはず。両家の契約のもとにこうして幼い頃から妃教育を受けてきたあたしにしても、自分のわがままで逃げ出すこともできずにずっと厳しい躾に耐えてきたのだから。

 今更殿下の癇癪でこの婚約を無しにするだなんて、そんなの許される筈がない。



 午後の定例お茶会。

 正直あまり仲がいいとは言えないラクラス殿下とあたしアリスレィア•フェィアルイード公爵令嬢。

 そんなあたしたちのためにと王妃様がこうして何も行事のない午後を『二人だけの』お茶会の時間と定め。

 それからこうしてほぼ毎日、晴れの日は花が舞う庭園で、天気があまりよろしくない日は屋根のあるベランダで。寒い冬は暖炉のそばのお部屋で。薔薇の温室に王宮の最上階の展望室で行ったこともあるそんなお茶会は淡々と開催されてきた。


 あまりにも淡々と時間が過ぎていくものだから、もう最近では一緒におやつをいただくだけの時間、って、そんなふうに感じてた。

 時間になると侍女さんに呼ばれて本日の会場に連れて行かれ、そして殿下に会釈して着座すればあとはほんとお茶をいただきお菓子を食べるだけ。

 まあそれはそれ、王宮料理長が贅を尽くして用意してくれたお菓子は美味しいし、お茶だって毎日日替わりでいろんな種類のお茶が飲めて嬉しい。

 ちなみに今日のはオレンジやモモやベリーをたっぷり入れたフルーツティー。

 ほんと、ずっと厳しい教育が続いている中、唯一の至福の時間。

 もう、口の中が幸せに染まるくらい甘くて美味しくてあたしは大好きなんだけど、どうやら殿下の口には合わなかったのかな? 結局一口も飲まずで。

 だから言ったのだ。

「ラクラス殿下。お飲みにならないのであればそのフルーツティーをいただいてもよろしいでしょうか? そのまま時間が過ぎて冷めてしまうと用意してくださった皆様に申し訳なくって」

 と。


 さっと顔色が変わる殿下のお顔を見て。ちょっとまずかったかなって思ったけれど。

 それでももったいないものはもったいない。

 あんな美味しいフルーツティーがただただ捨てられてしまうのは、ちょっと我慢が出来なくて。


「だから君は嫌なんだ。公爵令嬢らしからぬその意地汚いところ、貧乏ったらしいところ、おまけにぽんこつときた。代々優秀な聖女を排出してきた公爵家の令嬢のくせに、ろくに魔法も使えないというではないか! そんなぽんこつ聖女、もうほんとお断りだ!」


 立ち上がり、そう癇癪をおこした挙句、「婚約は解消だ」と叫んだ殿下。


 あたしの反論にまたまたお顔を真っ赤にされて。


「ふん! もう君がそんなこと心配する必要なんかない! 大丈夫さ! 公爵家にはちゃんと替えがいるじゃないか! 僕は君との婚約は破棄し、妹のマリアベルと婚約し直す! それなら父上も母上も承知してくださるさ!」


 そう、怒鳴った。


 って、え?

 え?

 マリアベル??

 嘘!


「殿下は、マリアベルを愛していらっしゃるの、ですか?」


「ああ。僕は、真実の愛を見つけたんだ。それに、彼女はお前みたいなぽんこつじゃない、真の聖女であるからな!」




 とぼとぼと。

 とぼとぼと歩いて部屋に帰る。


 そっか。

 あたしはもういらないんだ。

 今まで頑張って厳しい妃教育にも耐えてきたけど、その努力もみんな無駄になったんだ。

 そう思うとちょっと涙が出て。

 もともと、あたしは家でもいらない子だった。

 お父様もお母様も妹のマリアベルばっかり可愛がって。

 特に、5歳の時の神参り。

 魔力特性値の判定であたしの数値が最低だったと聞いて落胆したお父様。

「祭司によるとアリスレィアの特性値は我が公爵家の人間としてあるまじき低い数値であったとのこと。ああ、お前のような出来損ないの子が我がフェィアルイード家の人間であるというのが恥ずかしい」


 そう聞こえるように言い放ったあとは、あたしを見ることも無くなった。


「そう言わないであなた。わたくしたちにはまだマリアベルもジーンも居るではありませんか」

「そうだなフラン、来年のマリアベルはきっと良い数値を出してくれることだろう」


 それ以降、あたしはまるで公爵家のお荷物のような扱いを受け続け、食事の席でさえお父様たちと同席することも許されなかった。


 マリアベルも、弟のジーンも、ちゃんと優秀な数値を叩き出し両親を納得させた後は、本当にあたしなんて邪魔者でしかなくって。


 そんな時、だった。

 国王陛下直属に、王子ラクラス殿下の婚約者にと公爵家息女が望まれたのは。

 婚約者ともなればそのまま王宮住まいとなり、妃教育が始まるという話に嫌だと駄々をこねたマリアベル。

 まぁそれはそうだろう。

 当時のあたしはまだ八つ。年子のマリアベルはまだ七つ。ちなみに弟のジーンこの時五つになっばかりだった。

 そんな子供に親と離れて暮らせとは、国王陛下ってなんてわからずやなんだろう。

 そんなふうに思ったものだ。


 で。


 結局のところ。


 お父様はあたしを王宮に差し出した。


 可愛いマリアベルが嫌だと言っているのに。

 いくら国内融和、政治的な安定のためとはいえ、可愛い娘を人身御供にはできない、と。

 そうおっしゃって。


「お前をとっておいて良かった。役に立ったのだからな」

 それがお父様からかけられら最後の言葉。


 なのに。


 こんなあたしがあの家に、どんな顔をして戻ればいいというのだろう。

 あたしには、ここを出ても帰る場所なんてどこにもないのに。



 あたしが毎日妃教育でいそがしい最中、殿下は王宮のすぐ隣にある王立魔法学院に通っていらした。

 とはいえ主な講義はお昼には終わる。

 午後はレベルに合わせた実技の時間。まあ王子殿下は何か危険なことがあってもいけないという理由で実技は不参加だったけど。

 それもこの春ご卒業なさった。 

 そのためこれからは正式な婚姻に向けての話になるんだろうと、そう思っていたのに。


 マリアベル。

 優秀なマリアベルのこと、きっと魔法学院の成績も良かったのだろうな。

 あたしは結局その学院には在籍もしていないしのぞいてみたこともないけど、もしかしたら殿下とマリアベルは学院で知り合い恋に落ちたということなのかな……。

 でもって、ラクラス殿下もあたしとの婚約を破棄するきっかけを探していたのかもしれない。


 マリアベルが将来の王妃の座を望むなら、お父様もお母様も反対はしないだろう。

 あたしはただの捨て駒だから。

 用無しになったら捨てればいい。そう思っているだろうから。



 荷物をまとめてとぼとぼと王宮の外に出ると、そこには公爵家の馬車が待っていた。

 なんて手際がいいこと。

 そうは思ったけれど、よくよく考えれば殿下だけのお考えとも思えない婚約破棄。

 あたしは大人しくその黒塗りの馬車に乗り込むと、ドアを閉めた。




 ♢ ♢ ♢


「どこに、どこに行くのですか!?」


 道が違う。


 最初は普通に公爵家連れて帰られるのだと思ってた。

 でも。

 いつまで経っても辿り着く気配がなくて不思議に思い窓の外をみると。

 明らかに知らない場所で。


「どうして! どこに行くつもりなの!!」


 どんどんと前の窓、御者の姿が見えるその窓を叩き叫ぶ。


 っていうかこれ間違いなくうちの公爵家の馬車だったよね。

 エンブレムも間違いない丸に竜だったし御者の人も昔見たことある人だったもの。

 間違えて変な馬車に乗ってしまったわけじゃない、はず。

 なら、なんで?


 怖い。


 そんな感情に染まって。

 パニックになったまま、前の窓を叩く。


 ヒヒーン

 という馬のいななきのあと馬車が止まった。


 御者の人がこちらに振り返り、窓を少しずらして。


「アリスレィアお嬢様。私はあなた様を北の果て、辺境の地にあります修道院に送るよう旦那様に命じられております。どうかそのまま大人しくしていてくださいませんか? 暴れられると馬にも伝染し危険な状況にもなりかねません。あなた様も、目的地に着く前に放り出されて路頭に迷いたくはないでしょう?」


 そう言って、また窓を閉め。

 運行を再開する御者。



 ああ。

 せめて、顔を見てから捨てられるのかと思った、のに。

 こんなかたちで王都からも追放され、北の果ての修道院行きか。

 そう思ったら、悲しくて、悲しくて、もうどうしようもなくて。


 気がついたらもう顔中涙でびしょ濡れになっていた。




 そのまま数日、日中の大半を馬車の中で過ごした。

 夜は野宿。食べ物は携帯食料だけ。

 ああ。なんだかんだ贅沢に慣れてしまってたんだなと、そう。

 王宮にあがるまえは、満足にご飯をもらえなかったことを久々に思い出して。


 山道を抜けて谷を抜け、そうしてまた山に差し掛かった頃。

「お嬢様、少しまずいことになりました」

「何があったのでしょう?」

「野獣に囲まれてしまったようですね。このまま馬車で逃げ切ることは難しいかもしれません」

 夜も更けて。本当だったらそろそろ野営にはいる時刻。

 あいにくと今夜は月も出ていない。

 これでは……。


「私は馬で近くの街まで応援を呼びに行きます。お嬢様は馬車の中から出ずに待っていてください。なに、この馬車は頑丈です。中にいれば野獣も手が出せないでしょうから」


 そう言って。

 御者さんはさっと馬のハーネスを外しそのまま乗って駆け出していた。

 取り残されたあたしは、ガツンガツンと馬車に体当たりをする野獣に怯えながら、馬車の中の隅っこで、毛布にくるまってじっとしていた。


 もう、何時間そうしていただろう。

 怖くて怖くてどうしようもなくて。

 嵐のように打ちつけられる騒音、衝撃に。このまま死ぬのかな。そんなふうに半分あきらめた時、だった。


 ガトゴン!!

 凄まじい地響き、衝撃で馬車全体が揺れ、窓の外に激しく眩い光が走った。

 そしてそれが収まった時、周囲の物音が消えて。


 毛布から顔を出し、カーテンを捲り上げ外を見るとそこには。

 月が無い夜。あかりもないはずの夜だったのに、燻って燃えカスになった樹々が少しだけあたりを照らしていた。

 黒焦げになった地面。消し炭になった野獣。

 馬車の周囲はかなりの広範囲でそんな地獄絵図のような光景に変化して。


「ふむ。誰かそこにいるのか?」


 天から聞こえてくるような、渋く心地の良い男性の声があたりに響く。

 なぜか、怖いとは感じなかった。

 あきらかにこの惨状を生み出した張本人であると思われるのに。

 人を超越した力を持った、神か悪魔か、そんな存在であると思われるのに。


 あたしの心に響くその声は、どこか懐かしく、て。


 びくびくしながら馬車の戸を開け外を眺め見る。


 すると。

 月はないはず。月は出ていないはずなのに、空にぽっかりと丸い光球が見える。


「レイア! レイアか! ああ、君が転生していただなんて。気がつかなかった……」


 そんな声とともに急降下してきた光の球が、金色の男性の姿に変わる。


「ああ、また君にこうして会えるなんて……。今度こそ、君を手放したりはしない。絶対にだ」


 そう、あたしに抱きついて。


 って、って、えーーーー!!

 どういうことどういうことどういうこと!!


 美麗、そんな言葉が似合う金の髪が靡き。

 凛々しく美しいそのお顔が眩しい、そんな美丈夫に抱きつかれて軽くパニックになったあたし。

 呼吸もできずただただ口をぱくぱくとするだけが精一杯で。


 そのまま、世界が反転したか、と、思った。





 ♢ ♢ ♢


「デメトリウス、ここはあたしに任せてあなたは逃げて。魔王はあたしが命に変えても食い止める」


「だめだレイア。いくら君が大賢者と称えられるチカラを持っているのだとしても、一人じゃぁ」


「大丈夫よ。あたしには精霊王マクギリウスがついてるもの。あなたには、残った人間界を平和に導く仕事があるわ。だから」


 そう言って。

 あたしは勇者デメトリウスとあたしとの間に光の壁を形成する。

 うん、これで。

 こちら側に何かあっても彼は大丈夫。

 デメトリウスが向こうからどんどんとその壁を叩き、叫んでいるけれどもうその声も聞こえない。

 ここで犠牲になるのはあたしだけで十分。

 うん、大丈夫。

 あたしが全身全霊をかけて、魔王クロムウェルバーンは封印してみせるから。


 そうしてあたしは魔王に向き直って、言った。


「悪いわねクロムウェル。あなたをここから先へは行かせないわ」


「ふっ、確かに永く続いた人魔大戦はお前たちの勝ちだ、それは認めよう。しかし、我はまだ滅んではいない。このまま人間界を道連れにして破滅の道を歩むことも可能なのだ」


「だから。それはやらせないって言ってるでしょ? 聞き分けがないわね」


「お前は我をみくびっておるのか!? 我にその力が無いとでも?」


「ううん。あなたは強いわ。放置したら人の世界なんて簡単に破滅させてしまえるだけの魔力量を保持しているってことも、感じてる」


「であろうよ」


「だから、ダメよ。あなたはここで食い止める」


「む!」


 あたしは両手を広げて補助魔法陣を展開する。

 あたしの周囲に浮かび上がる何重もの呪文の塊。呪文のサークル。

 今から使う魔法はそう何度でも使えるものでもない。

 ここで失敗したら、次はないから。



「キュアピュリフィケイション!!」


 あたしの最大の浄化魔法。魔王は、その魂ごと浄化する!


 金色の粒子が嵐のように舞い、彼、魔王クロムウエルバーンを繭のように包む。


「なめるな!! この程度のチカラで我を浄化するなど!!」


 クロムウエルは周囲を覆う金の繭を引き裂こうと手を伸ばす。


 うう、ダメ。

 このままじゃ。


(お願い! マクギリウス! チカラを貸して!)


 あたしはあたしの守護者、精霊王マクギリウスに祈った。

 魂の奥底で結びついたあたしと精霊王の絆。

 ここに彼が存在するわけではないけれど、それでも心が通じてる。


(ああ。愛するレイア。どれだけでも送るよ、このチカラを存分に使っておくれ)


 そんな声が聞こえて。

 あたしの心の中のマナは膨れ上がった。


 これなら!!


「キュア•シール!!」


 この世界に、彼を封印できるだけの魔聖石があったなら。

 迷わずその石を使っただろう。

 滅する事は、今のあたしにはまだちょっと無理。

 封印する事でしか、この魔王の暴走を止める事はできない。


 だから。

 ここはあたし、自分自身を犠牲にする。


 自分の魂の中に、ありったけのマナを凝縮し、そしてその中にこの魔王の魂を浄化し封印するの。

 きっと。

 そんな事をしたらいくらあたしでもタダじゃ済まない。

 いくら精霊王マクギリウスに護られているからって、限界はあるのだから。


 そうしてあたしは自分の命を犠牲にし。

 自分の魂の奥底に魔王を封印し。

 そしてそのままこの世界の根幹、大霊(グレートレイス)に還るのだ。

 命のうまれいづる場所。

 魂の円環、輪廻の輪。

 全ての始まりの場所、大霊(グレートレイス)に溶け混ざることでしか、この魔王を無に還す方法はあたしには思いつかなかった、から。




 ♢ ♢ ♢





 真っ白な世界。


 気がついた時、そんな印象を受けた。


 ここは……。もしかして精霊界?


「気がついたかい?」


 低音ボイスの心地よい声。あたしが大好きだった、マクギリウスの声。


 って、え!!?

 どういう事?

 あたし、あたし、夢? 観てた?

 ううん、違う、これって……。


「マクギリウス?」


「ああ、レイア。良かった。私の事がわかるんだね?」


 何も変わっていない。あの頃と。

 綺麗な、大好きな、あたしの半身。

 精霊王マクギリウスが心配そうな顔で、あたしを覗き込んでいる。


「覚えてる、って、そんなの当たり前でしょう? あたしがあなたのこと忘れるわけが——」


 ここまで喋って気がついた。

 ううん、忘れてたよ。あたし。

 っていうか、あたし、転生、したの?


 記憶が、降ってきた。


 大賢者レイアとして生きた記憶。

 そして、アリスレィアとして生きた悲しい記憶。その全てが今あたしの中で融合して——


「魔王は!!? 魔王クロムウェルバーンは!!?」


 あたし、大霊(グレートレイス)に溶けて混ざってしまわなかったの!!? だったら魔王だって!


「うーん。多分あれがそうだと思うんだけど」


 そう、マクギリウスが指差す場所には猫。って、猫? 黒猫??


 可愛らしい黒猫がちょこんと座っている。

 キョトンとした顔をしてるから、自分の状況を把握しているのかいないのか。


「さっき、君の心のゲートが開いて、そこから飛び出してきたんだ。きっと君はずっと無意識に心のゲートを閉じていたんだろうね。だから、状況的に、あれが魔王で間違いはないと思うけど」


 そう言って、ちょっと困ったようなお顔をするマクギリウス。


 そっか。だからあたし、アリスレィアは魔法を使うことができなかったんだ。と、そう納得するとともに、ちっちゃな黒猫になってしまった魔王を注意深く観察してみる。

 でも。


「わかる? あの猫、きっと君に浄化されたせいか、すっかり悪い魔の反応はないんだよ。一見普通の猫に見える。まあ、マナの含有量は桁違いに多いけどね?」


 そうか。

 あなた、もとはそんな可愛らしい姿だったのね。


 そんなふうに考えながら手招きしてみる。


 起きあがったあたしの胸に、ふわんと抱かれにきた猫。

 あたしの手に頭を擦り付け、そうして満足したかと思ったら、そのままあたしの胸の奥に消えた。


「君の心の中が彼の棲家になってるんだね。どう、何か変だったりしない? 大丈夫?」


「あ。ええ。ふふ、あたしの心の奥底で丸くなって寝ちゃいました。大丈夫そうです」


「ならよかった。私と君との繋がりも回復したから、これからはずっと一緒にいられるし。もう離さないよレイア」


 ふわんと肩を抱いてくれるマクギリウス。

 はわわ。ちょっと、彼のそのイケメン具合に心がすっごくドキドキする。

 アリスレィアとして生きた十五年の月日、男の人とこんなふうに距離が近くなったことなんてなかった。

 ううん、レイアとして生きた年月でさえ、そんな経験があったわけじゃないもの。

 マクギリウスだって、こんなふうに迫ってきたりはしなかったのに。


「はう、マクギリウス、近いよ」


「反省したんだ、君をもう手放さないって、そう決めた」


 え? それって。


「愛してるよ私の聖女。君を正式に私の花嫁にするって決めたから」


「だって。マクギリウスは精霊王なのに」


 人間と精霊が結婚するって、そんなの。


「大丈夫さ、君は神々の愛子、真の聖女に覚醒したようだから。私の花嫁に相応しいよ」


 って、えー?? 真の聖女? それって、比喩じゃなくって、伝説の、聖女様のこと?


「君がそうして転生したのがその証拠、だと思うよ? 過去何度も転生していた聖女マリアがこの世に現れなくなって久しい。君のその魔力量、そしてその魂の輝きが、間違いなく君を真の聖女だと証明している。それに」


 それに?


「私が愛した君だから。間違いないとこの私、精霊王マクギリウスが断言する」


 そうして彼はあたしの頬に口付けて。


「絶対に、もう、離さない」


 そう耳元で囁く。



 その言葉に、あたしの心はほんわかと温かくなって。

 彼の胸に顔を埋めた。

「ありがとう、マクギリウス」

 そう呟いた。



       end

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