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え?サービスシーンはここですか?

 かぽーん。


 なんでだろう。

 なんで僕は、大して嬉しくもない“ドキドキ☆男だらけの裸の付き合い”を現在進行系で見せつけられているんだろう。


 まぁ、話は少し遡る。


 魔法使いの背中で盛大に漏らしたエルは、武闘家が呼んだシスターによって、すぐにお風呂場に連れていかれた。そのまま他の女の子たちと一緒に、少し早いお風呂になったわけだ。


 もちろん魔法使いも「身体を洗いてー」とかほざいて、丁度そこに汗まみれになった勇者たちも来て、女の子組が上がってから、僕たちもお風呂に入ることになったというわけ。


 どうせ広くないお風呂なんだろって思ってたんだけど、予想以上に広くて、子供全員が入っても余裕がある。


「お風呂は気持ちいいねぇ」


 勇者が僕の毛を泡立てながら言う。目に泡が入ると痛いからとりあえず閉じる。当たり前だけど、何も見えない。


「シスターババアに何手伝わされたんだ?」

「いらなくなった洋服の仕分けとか、あと屋根の雨漏りを直したりとか。あ。後は裏庭にジャガイモ植えるのを手伝ったよ」

「相変わらず人使い荒すぎだろ、あのババア」


 見えないけど、勇者が笑った気がした。

 少し勇者の手つきが変わる。


「ねぇ、外で誰に会ったんだい?」

「……」


 子供たちがお湯を掛け合う音が響く。

 魔法使いは「走んなよー」と苦笑いしてから、


「協主サマだよ」

「やっぱり。フロイの毛が傷んでるから、よほど怖かったんだね」

「わかんのかよ」


 勇者が「出来た」とお湯を勢いよくかけてくれた。身体をふるふるすると、お湯が飛んだのか勇者が笑った。溺れないように桶にお湯を入れると、その中に僕を入れてくれる。あったかくて気持ちがいい。


「協主はどうして来たのかな」

「さてな。ただ様子を見に来たわけじゃなさそうだったぜ」


 はしゃぐ子供たちを見守る眼差しは優しいけれど、その口調は少し厳しい。勇者は唸るように考えてから、


「協主についての情報もほとんどないし、一旦“白の国”に帰らないかい?」


 と魔法使いを見た。


「そーだなー。てか考えてみれば、あいつらのほうが知ってんじゃね?」

「知っていれば多少なりとも教えてくれたはずだよ。リーパーとかが」

「リーパー、ね……。長生きしてるんだったか?何歳(いくつ)なんだ」


 勇者は「さあ?」と首を傾げてから、僕の入る桶を持ち上げた。


「それも含めて帰ろうか。僕は先に上がるね」

「ガキ共も上がらせるから手伝え」


 少しうんざり顔の魔法使いは、それでも子供たちには優しくて、全員が上がった後もきちんと身体を拭いてあげていた。

 やっぱりこいつ……、優しいの、かな。




 先にお風呂に入っていた武闘家とエル、それから僧侶(なんでかこいつも女枠だった)は、子供たちのご飯の用意をしながら待っていた。

 けれど、その中に妹ちゃんの姿が見えなくて、魔法使いはそれが気になるのか探すように部屋を見渡している。気づいた武闘家が、


「妹さんなら、なんでも誕生日のケーキを引き取りに行くとかで、先ほど出ていかれましたよ」

「あー、そーいやそんな時期だったか」


 初めて妹ちゃんと会った時を思い出す。今月誕生日の子の為に、確か貝類のスープを作るとか言っていたな。


「アンタらがいる間に、子供らの誕生会をやってしまいたいのさ。少しでも賑やかだと、やっぱり楽しいからねぇ」


 子供たちに「早く席につきな」と急かしてから、シスターは僕たちにも席へ座るよう促した。


「今すぐに帰るわけじゃないんだろう?今日の夜くらい、いてやっておくれ」


 そう頼まれては、魔法使いだけでなく、もちろん勇者も、他の皆も嫌と言えるはずがなく。魔法使いの「仕方ねーなー」の声に、苦笑いをしながらも了承したのだ。


 お昼を食べて、さて子供たちと遊ぶかと意気込んでいる魔法使いのところに、少し気まずそうなエルがやって来た。

 ちなみに僕は子供たちに、特に女の子から、自慢の毛をもみくちゃにされて、少しうんざりしていたところだった。


「……魔法使い」

「どした?」

「……あの、その、あの」


 少し遠くからは、僧侶が初めてのお使いを見守る親のように、物陰から様子を伺っている。ちなみに身体を隠しきれていないし、なんなら子供たちにまとわりつかれている。


「さ、さっきは……」

「あー……。気にすんな」


 どうやらさっきのことを謝りに来たらしい。

 でも魔法使いは手をヒラヒラと振ると、この話は終わりだと言わんばかりにエルに背を向けた。けれどもエルは納得していないようで、魔法使いの腰辺りにしがみついて引き止める。


「で、でもエルちゃんは、もう大人なのですよ?魔法使いたちより、いっぱいいっぱい、生きてるの、ですよ……?」

「……はー。あのなー、おめーがオレらより長生きしてんのはわかってるっての。でもなー、長老が言ってたよーに、おめーはまだガキなんだよ。わかったらガキらしく遊んでな」


 しがみつくエルの頭を少し乱暴な手つきで撫でてから、魔法使いは集まってきた子供たちを抱き上げていく。エルは一瞬だけ目を丸くしたけど、すぐにふにゃりと笑うと「はいなのです~」と手を上げた。


 それに安心したのか、物陰の僧侶が、ハンカチで目元を拭いている。いやいや、お前それ着ぐるみだし、表情なんも変わってないけど。せめて目薬で泣いてるように見せかけるとかしろよ……。


 そうやってしばらく遊んでいると、不安げな顔のシスターが勇者と魔法使いに手招きしているのが見えた。僕も話を聞こうと、子供たちの手から器用にすり抜けて、勇者たちの足元まで跳ねていく。


「遅すぎると思うんだよ。アンタら、様子を見に行ってくれないかい?」

「そうですね、心配ですし……。皆にも手伝ってもらって、手分けして探そう」

「あのバカ、どこまで行ったんだっての」


 足元で「ゆうちゃ」と跳ねると、気づいた勇者が僕を肩に乗せてくれた。


「じゃ、僕は僧侶とエルちゃん呼んでくるよ」

「オレは武闘家呼んでくるわ。外に集合な」


 それだけ示し合わせてから、勇者は子供たちと遊ぶエルに手招きして、それから絵本を開いている僧侶にも声をかけた。


「……」

「ど~したのです~?」


 首を傾げるエルに、勇者は「ちょっと外行こっか」と笑うだけで、詳しく説明をしようとしない。それだけで僧侶は察したのか、すぐにエルを肩車すると、勇者の後をついていく。


 外には先に魔法使いと武闘家が待っていて、武闘家は僕たちを見ると座っていた滑り台から立ち上がった。


「魔法使いさんから聞きました。妹さん、まだ戻っていないんだとか」

「そうらしいんだ。そこまで遠い場所ではないらしいから、少し心配で……」


 なるほど。確かに、妹ちゃんがケーキを引き取りに出てから結構時間が経っている。途中で寄り道したんだとしても、遅すぎる気がした。


「手分けして探そう。一人は危険だから、僕はフロイと。魔法使いは武闘家と。僧侶はエルちゃんとお願い」

「わかりました」

「へいへい」

「りょ~かいなのです~」

「……」


 いや待てよ。それって僕を戦力として見てるの?

 だとしたら、この勇者の目は節穴だと本気で思う。そしてそれに疑問を思わないこいつらも馬鹿だ。


「ゆ、ゆうちゃ……」

「大丈夫だよ、フロイ。君のこと頼りにしてるから」


 いやするなよ!

 でも僕の抗議は虚しくも伝わらず、こうして妹ちゃん捜索作戦が始まったのだ。



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