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炎火竜はさみしんぼ?

 


 炎火竜(フランヴルム)は、どうやらこの地底湖の底にいるらしく、僕たちはグロウスが管理しているという、底へ続く道に向かっていた。


 グロウスからは「この塵もご一緒に、ですか……?」と疑いの目を向けられたけれど、戦士が「調査に、是非」と言うと、渋々ながらも通してくれた。


「ガッハッハ、流石は我の見込んだ部下だ!すんなり入れるとは思ってなかったぞ!」


 自分の功績みたいに語るクライルの頭を、魔法使いが杖でまた軽く叩く。途端に「みなしゃまのお陰ですっ」と手の平くるくるさせるのが、なかなかに面白い。


 クライルに案内された先にあったのは、道、というより、底へ向かってぽっかり開いたような穴だった。その中を、小さな魔法船みたいなもので上下に移動するんだって。


「底はどうなってやがんだ?」


 窓から下を見ながら、魔法使いが呟いた。戦士がエルを肩車しながら「そうだな」と振り返る。


「底は更に空洞があってな、炎火竜はその空洞に住んでいる」

「じゃ、なんだ?このまま行ったらいきなりご対面じゃねーの?」

「その心配はない」


 エルを降ろしてから、戦士は窓から同じように下を見る。


「このまま行けば、封印が施された扉の前に降りることになる。上にもあっただろう、あれと同じものだ」

「扉に描かれてた絵は?」


 勇者の問いに、戦士ではなく、クライルが「あれはだな!」と待ってましたとばかりに話に割り込んできた。いつも煩いけど、更に今日は煩い。テンションが高くなっているみたいだ。


「あれは発見された古代の道具に描かれてたものでな!恐らくは錬金術士(アルフィリスト)に関連のあるものなのだろうが、まぁ、それも炎火竜に聞けばはっきりするに違いない!」


 早口言葉でも練習しているのかと言いたくなるくらいに捲し立てて、クライルは満足したように踏ん反り返った。


「エルちゃんも炎火竜に会ってみたいのです~」

「ね、楽しみだね!」


 無邪気に笑うエルに、勇者も同じようににっこり笑う。でもいつもより固くて、能天気勇者でも緊張してるんだなって思った。


 ガタン、と魔法船が止まる。

 最初に戦士が降りて、続いて勇者と僕、エル、クライル、最後に魔法使いが降りた。


「うわぁ、大きな扉だなぁ」


 見上げるくらい大きな扉には、さっき説明された通りの絵が描かれている。

 さてどうするのかと見ていると、戦士が扉に手をかけて「失礼する」と押していった。ギギギと重厚な音がして、ゆっくりと開いていく。


「……誰じゃ」


 声だけで空気が震える。

 ビリビリと全身の毛が逆立つ。

 それくらい、その低めなしわがれた声は、とても怖くて、威厳に溢れていた。


「炎火竜殿、ご無沙汰している」


 何かが動く気配がした。

 戦士は臆することなく中へ入っていく。一歩入ると、どういうわけか一気に明るくなっていき、そこにいる何かの姿が見えるようになった。


 赤い竜だ。

 僕の、いや勇者の、ううん。今まで見てきた建物の中でも、これほど大きな生き物はいなかった。


「あ、貴方が炎火竜……?」


 勇者の言葉に、その赤き竜は頭を高く持ち上げてから「そうだけど」と僕たちをまじまじと眺め、戦士を見ると目を大きく開いた。


「あらもう、戦士ちゃんじゃないの。飴ちゃん食べる?あらやだ、飴ちゃん持ってなかったわ。来るなら来るって言ってくれないと、おばちゃん、用意してないじゃないの」

「……は?」


 赤き竜、いや炎火竜はいそいそと体を起こすと、辺りを忙しなく見渡し始めた。戦士が豪快に笑って、


「はっはっはっ、炎火竜殿。茶なら俺が用意しよう。だから、こやつらの話を聞いて頂けると助かる」


 戦士はずかずかと奥へ向かっていく。ぽかんとする僕たちを見て、炎火竜が「座りなさいな」と隅にあるテーブルを示してくれた。


「お邪魔します……!」


 先に動いたのはもちろん勇者で、続いて席についた僕たちを優しそうに眺める炎火竜は、どこか嬉しそうな、楽しそうな目をしていた。





「えぇと、おばちゃんに聞きたいことがあるんだって?答えられるものならいいのだけど」


 炎火竜は頭を僕たちに向けて、お茶を啜っている勇者を見つめる。


「いえ。僕は魔法剣士さんの代理というか、見たことのない“人”に会いに来たというか」

「人?おばちゃんを、人だと言ってくれるの?」

「違うんですか?」


 首を傾げる勇者。隣では、得体の知れない焼きキノコを食べまくっている魔法使い。ちなみにキノコはその辺に生えてるやつだ。


「うふふ、ありがとうね。昔を思い出すわぁ」

「それだ炎火竜よ!我の質問に答えるがよい!」


 ビシリと炎火竜を指差して、クライルが鼻息荒く立ち上がった。


「貴様が言う昔とは、一体どのような時代だったのだ!我はこの国の成り立ちを知りたいのだ!錬金術士とは一体なんなのだ!」


 明らかに態度が高圧的で、人(?)に物を頼むような態度ではない。炎火竜の気分を害してないかと怖くなったけれど、特に炎火竜は気にしてないようだ。


「成り立ち、かどうかはわからないけれど、おばちゃんね、昔悪い人に追われてたの。ある日、とうとう駄目かもって思った時にね、一人の男の子が現れて、おばちゃんを守ってくれたのよ」


 遠い昔を見るかのように細められた目。きっと炎火竜の目の前には、その光景が広がっているに違いない。


「傷ついたおばちゃんを見て、その子は外からは入れない封印をしていったの。悪しき心では決して解けない封印を、ね」

「土偶は解いちまったぞ」

「ふふ、それは僕ちゃんが純粋な探究心の持ち主だからでしょうね」


 純粋、と言われて明らかに舞い上がるクライルの頭を、魔法使いはまた杖で小突いた。忘れちゃいけないけど、赤の国が暑くなった原因はそもそもこいつなのだ。


「その男の子が錬金術士なんですか?」

「えぇ、綺麗な目をした子だったわ。その子は、元々この地に住んでいた土妖精(ドワーフ)に簡単な技術を教える代わりに、封印を守ってほしいと提案してね。それからずっと偉い土妖精(グロウス・ドワーフ)を筆頭に、守ってきてくれたのよ」


 炎火竜は「ありがとうね」と微笑んで、頭を少し重そうに起こした。自分をおばちゃんと言っているし、だいぶ年なのかもしれない。

 黙って話を聞いていたクライルの手が、小刻みに震えている。それから顔を勢いよく炎火竜に向けると、


「ならば我が次代のグロウスになってやろう!そうすれば知りたいことが知れるではないか!我の探究心は留まることを知らぬぞ!」

「土偶、おめー何言って」

「決めた!決めたんだからな!」


 頭の杖を押しのけて、クライルは目を輝かせて言った。魔法使いが呆れたように頭を掻いて、それから勇者に「おい」と声をかけた。


「いいんじゃないかな?」


 朗らかに笑う勇者とは反対に、魔法使いはため息をついたけれど、特に反対しないことだってよくわかっている。


「今日は楽しかったわ、また来てね」

「はい!今度は仲間も一緒に!」


 元気に笑う勇者を見て、炎火竜もまた嬉しそうに笑って、それから「そうだわ」と自分の鱗を口先で器用に一枚剥いだ。頭を伸ばして勇者にそれを差し出す。


「これは……?」

「おばちゃんからのプレゼントよ。貴方みたいな子、おばちゃん好きだから」


 それは光の加減で輝き方が変わるようで、虹色という表現がぴったりな鱗だ。クライルが興奮して、鱗を見ようと手を伸ばす。もちろん魔法使いに叩かれた。


「その鱗を元にして剣を作れそうだ……!もちろん我は作れないがな!」

「……やくたたじゅ」

「おい緑のぉ!我に歯向かうのか!」

「いやー!」


 僕をフニフニするクライルに抵抗するも、勇者は笑うだけで助けてくれない。このまま僕を倒すつもりなんだな!

 くそう、勇者め……!次の、次の“白の国”では、必ずお前を倒してやるんだからな!



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