熱い、暑い、厚い?
さてさて。
僕たちは“青の国”から地下電車に乗って、常夏の国“赤の国”へと向かっている。
前に行ったのは結構前だったから、ここいらで軽く言っておくと、“赤の国”は年中暑くて、海にいつでも入れる国なんだって。
いわゆる“りぞーとち”なんだと武闘家が説明してくれた。
ちなみに暑い理由はーー。
「あっちー。おい、なんか買おうぜ。喉が乾いて仕方ねー」
地下電車が走る駅は地上にある。なんでも走ってる途中で地上と地下を行き来するらしい。すごいや。
そして当たり前だけど、地上はとても暑い。それもそうだ。なんでもここから見えるあのでっかい山、あれは“かざん”って言って、山の中で火がずっと燃えてるんだって。
雨で消えないのかな。雨が蒸発しちゃうのかもしれないな。
「そうだね、何か飲み物でも買おうか」
「エルちゃんはシュワシュワするのがいいのです~」
なんだシュワシュワって。
でも勇者には伝わったのか「待ってて」と僕を武闘家に預けて、駆け足で出店に行ってしまった。
それにしても。
僕は、じっとりと湿ってきた自慢の毛並みに少しだけ嫌気が差しながら、さんさんと輝いている太陽を見上げた。
前に来た時より、暑い気がする。
いや、確かに“青の国”から来たばかりだからではと言われるとそうかもしれないけど、それでもこんなに暑かったかな。
「あちゅい……」
「フロイさん、しっかりしてください。でもこの暑さ、確かに異常かもしれませんね……」
僕を片手に乗せたまま、武闘家がもう片手で扇いでくれる。幾分かぬるい風がくるけれど、これじゃ逆効果な気がしなくもない。
「火山が活発にでもなってんじゃねー?」
「もしそうならもっと大事になっていそうなものですが……」
そう言って、遠くに見える山を見上げた。
「皆、お待たせ!」
勇者の声が聞こえて、エルが「遅いのです~」と肩車されたままでプリプリと怒る。それなら自分で行けばよかったのにとも思うが、相変わらず勇者は爽やかに笑うだけだ。
僧侶に青色の飲み物が入ったコップを手渡して、それから勇者は後ろを少し振り返った。
「ごめんね、ちょっと話し込んじゃって」
「話し込んだ?誰、と……って」
示した先から歩いてきたのは、またまた登場の魔王だ。今日は隣にパパさんがいる。
魔王は手を上げて軽く挨拶してから、もう片方に持っていた何かを武闘家に手渡した。木の棒の先に、黄色の四角いものが刺さったような、見たことがない物体だ。
「これ……、アイスキャンディじゃないですか!限定品ですよね!?」
アイス……?なんだろ、それ。
「たまたま売っていてね。暑いのは苦手かなと思って」
「わぁ、ありがとうございます!」
武闘家がペロリと舐めて、それから「冷たくて美味しいです!」と魔王にお礼を言った。
それに笑顔を返してから、魔王は「さて」と腕組みして僕たちを眺める。
「久しぶりだね、少年から聞いたよ」
「なんだ勇者、話したのか」
「うん。雪妖精のこととか、あと魔法剣士さんが倒した雪女のこととか」
なんでもかんでも話すなよと言いたい。一応こいつは魔王なんだぞ?確かに悪いやつじゃないのかもしれないけど、いやでも魔王だし……。
「で?その魔法剣士サンがこんなとこになんの用だ?」
暑さで服をバタバタとしながら、魔法使いがため息混じりに魔王を見た。暑いところに突っ立っていたくないのか、早く話せと言わんばかりの言い草だ。
「いやちょっとね、土妖精から頼み事をされてね。俺も忙しいから断ろうと思ったんだけど、どうしてもって言うからさ」
「魔法剣士殿、何を言っているのだ?一番暇そうだからと土妖精殿に指名されていたではないか。もうお忘れか?」
パパさんが首を傾げる。それをすごい勢いで睨みつけて黙らせた後、魔王は「気にしないで」と爽やかに笑った。
どう見ても暇だから来たというそれに、僕だけでなく、魔法使いもジト目で魔王を静かに見るけれど、どうやら勇者は違ったらしい。
「じゃ、僕らが土妖精のところに行きますよ!」
「え?いや、あの、そうじゃなくてね」
「よし!皆頑張ろう!」
魔王が何か言おうとするのを聞かずに、勇者はヤル気たっぷりに拳を高く突き上げた。魔法使いが意地悪たっぷりににやりと笑って、魔王の肩にポンと手を置いた。
「だ、そーだ。お忙しい魔法剣士サンは、どーぞお仕事にお戻りください」
「え?いや、えぇ!?」
慌てた様子で、魔王が魔法使いを見る。けれども、行く気満々の勇者が視界の端に入ったのか、軽くため息をついた後、
「……わかったよ、行っておいで」
「はい!任せてください!」
「ただし」
魔王が魔法使いの手をどけて、隣のパパさんを見上げた。
「彼も一緒に連れて行くこと。それから、そこの二人はお留守番だ。あんな場所に行ったら、二人は倒れかねないからね」
「どういうことですか?」
二人のうちの一人、アイスを食べ終わった武闘家が首を傾げる。魔王は山、つまり“かざん”を指差して、
「土妖精はあの中にいるからね。女性には少し道のりが厳しいと思うよ」
「……」
僧侶が照れたようにほっぺを染めた。待て、明らかにお前おっさんだろ。女性二人は、明らかに武闘家とエルだろ。
「エルちゃんはお留守番ではないのです~?」
「君は魔法が得意だろう?何かあれば、皆をサポートしてあげてくれ」
「りょ~かいなのです~」
待って。女性ってやっぱり武闘家と僧侶なの?そしてなんで誰も突っ込まないの。
色々言いたいことはあるのに、勇者は僕を武闘家から受け取って肩に乗せると、むさ苦しい男どもに笑顔を向けた。
「じゃ、早速出発だ!」
「へいへい」
「頑張るのです~!」
「うむ、よろしく頼む」
腕組みして豪快に笑うパパさんに、魔法使いが「うっせー」と睨むも、あまり効果は見られない。
「待ってる間、二人のことは俺に任せて。まぁ、楽しんでおいでよ」
苦笑い気味に手を振る魔王に手を振り返して、僕たちは駅のある小さな町を後にした。