表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/120

ある魔王の憂鬱 四

 

 今日は本を取りに、魔王城の中に作らせた資料室へと向かっていた。

 資料室にある本は、元はリーパーの隠れ家にあったもので、その数はゆうに千冊を超えている。これでも全部持ってきたわけではないと言うのだから、流石は世界中の本を読み漁ったと言うだけはある。


 そのほとんどが歴史書で、次に魔法書、軍学、薬学、更には児童書、ちょっと変わり種な、まぁマニアックな本もあったりする(俺には刺激が強すぎて読んでない)。


 そこまで広くない魔王城の三分の二を占める資料室は、一階の広間をぐるりと囲むように作られている。

 ちなみに入口は一箇所だけだ。


 たまにリーパーがいるぐらいだと簡単に考えていた俺は、扉を開けて、隅の棚へ近づくにつれ聞こえてきた謎の会話に、立てたくもない聞き耳を立てる羽目になる。


「駄目、だってば……。そう、ちゃん……」

「いいじゃないの!減るもんじゃないし!」

「いや、だって、これ……、恥ずかしい、よ」


 いや、資料室で何してるか知らんが、聞いてるこっちが恥ずかしい会話をするのはやめてくれ。


「えぇと、ここをこうして……っと」

「待っ……て。それは、ほんとに、恥ずか、しい……っ」


 え、邪魔していいのこれ。

 俺は棚に手を上げた状態で、己の心に問うてみた。


 ……妹は応援したい。でもここは資料室なわけで。

 てかまだ十代ですよ!お兄ちゃんは、まだそういうの早いと思うんです!

 だったらやることは決まってる。


「リーパー、僧侶!なーにしてるんだ?」


 なるべく、今来たばっかりですよ感を出しつつ棚から顔を出した。

 二人は机を挟んで座っていて、リーパーの手を僧侶が触っている。いや、手というより、爪?


「あ、ゆうくん」

「あー!ゆうにぃも丁度いいところに!早く座って!」


 事態が飲み込めず、呆然とする俺に「座って!」と再度僧侶の怒鳴り声が。俺は「はい」と大人しくリーパーの隣に座った。

 机には、いくつかの小瓶と、そして何に使うのかよくわからない小物が並んでいる。


「あの、僧侶さん?これは一体何を……」

「手、出して」


 有無も言わず手を出すよう示され、俺はまた「はい」と大人しく両手を出した。


「今ね今ね、学校でネイルアートっていうのが流行っててね!アタシもやろうと思ったんだけど、最初はリッくんで練習しようと思って!」

「あー、なるほどね」


 隣のリーパーの爪を見ると、これまたカラフルに、そして可愛らしい花が描かれている。なんだ、結構上手いじゃないか。


「リッくんならね、失敗しても爪剥がせばいいから気楽に出来るの」

「それはやめてやれ」

「えー。あ、動いちゃダメ!」


 失敗するたびに爪を剥がされることを想像して、手先が震えていたらしい。また怒られ、俺は「はい」と気を引き締め直した。

 てかリーパー、流石に笑ってないで怒れよ。愛しのそうちゃん、変な方向へ走ったらどうすんだ。


「でも、ゆうくん、何か本、探しに来たんじゃ、なかった、の?」

「あ、そうなんだけど」

「魔王様は、二人の会話を盗み聞きしてたんだよなぁ?」


 突如後ろから聞こえた声に、俺は声にならない叫びを上げながら振り向いた。反動で手が動いた気がしたが、そんなことを気にする余裕なんてない。


「舞踏家!?ななななな何言ってるんだよ!ぼ、僕はそんなことしてない!」

「はは、素が出てんぞ」

「てかいつからいたんだよ!」


 舞踏家は「あぁ」とにやけながら、


「我らが魔王様が、配下のご様子を影から見守っていたところから」

「全部じゃないか!あぁ、もう、ほんとやだ……」


 俺はため息と共に項垂れた。


「ゆうにぃ」

「ん?」

「動かさないでって言ったでしょ!」

「すみませんでした!」


 瞬間、僧侶からの熱い平手打ちが飛んできた。

 ちなみに俺のネイルアートには、器用に“彼女募集中”と一文字ずつ描かれていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ